27.暴走
シャワーを浴びて夕飯を食べた後は、やっぱりぐっすり眠ってしまった。
今日もアイテム屋のワンダーへ寄ってアイテムを買いたいところだけど……金貨がもう少し欲しいところだ。
「今日も誰かを手伝って金貨を増やすか」
どうせやることは一緒だし、さっさとご飯を食べて出かけるとするか。
そうと決めたら、さっさと準備だ。
俺は布団を跳ねのけて起き上がり、すでにテーブルの上に準備してある朝食をいただく。
「今日もありがとうございます……と。じゃあ、準備だ準備」
俺は気合いを入れ直し、さっさと着替えを済ませて家を出た。
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今日は誰の手伝いをしようかと迷いながらどこにでも向かいやすい森の中心部へ向かうと、朝から聞くのはキツイ高い声が聞こえてきた。
どう考えても、あの甘ったるい喋り方はアイツしかいない。
「ラウディ様! 今日もお昼寝ですかー? ボクとお話しましょうよ。大丈夫です。ボク、怖くありませんから」
「……」
まさかのグラウディに絡んでるのか? カティのヤツ……ある意味すごいな。
しかも今日に限ってモグがいないらしく、カティが一方的に喋りかけ続けていた。
「ラウディ様はお昼寝するのがお好きなんですよね。だったら、あの木の下なんてどうですか? あの木って確か特別な木なんですよね?」
カティは無視されてもずっと話しかけ続ける。グラウディの表情は見えないけど、もしかして困ってる?
それに、あの木の下って……中心にある七色の綺麗な木のことか。あの木……なんか見覚えがあるような……?
グラウディには昨日は助けてもらったし、無視するってのも気が引ける。
と、俺が迷っているとカティがグラウディの腕をグイっと引いた。
「ラウディ様、ボクはラウディ様のことが好きですよ? それに、あの木の下で告白するとずっと一緒にいられるんだって聞きました。だから、ボクも……」
カティが途中まで言いかけた瞬間、グラウディが思い切りカティの腕を振り払った。
カティはそのままぺたんと尻もちをついてしまう。
「いったーい! ちょっと、ラウディ様ってば。急にどうし……」
「……っ」
グラウディからぶわりと何かが漏れ出した気がした。というのも、見える訳じゃないんだけど圧を感じるといえばいいのか、重い空気に押しつぶされそうな感じがして息苦しい。
同時に地面がグラグラと揺れ始めた。
「え、え……」
グラウディの側にいるカティも焦っているが、少し離れている俺ですらバランスを崩しそうだ。
アイツ、まさかグラウディの地雷を踏みぬいたのか?
「――ッ!」
声にならない声が聞こえたかと思うと、土がボコンと盛り上がりいくつもの土壁が周囲を埋め尽くしはじめる。
俺とカティは土壁に当たらないように逃げ回るくらいしかできない。
「やめてっ! ラウディ様! 怖い!」
カティは涙声で地をはいずりまわっているが、グラウディは怒っているのか止まってくれない。
俺もどうしていいのか分からずひたすら避けるのに専念していると、近くの土壁があっという間に真っ二つに切り裂かれる。
黒の大剣と言えば……闇の精霊オブディシアン?
「ラウディ! 落ち着け! ……ッチ。イアリスっ」
「ラウディ……っ」
今度は優しい声がして、土壁を生み出し続けるグラウディを止めるように水色の影がぎゅっと彼を抱きしめたのが見えた。
イアリス……水の精霊リバイアリスだ。
「っ……」
リバイアリスに抱きしめられて、漸く我を取り戻したらしい。
グラウディは大人しくなった。
俺も足場が安定してホッとしていると、急に馴れ馴れしく肩を抱かれた。
「お前も巻き込まれてるとはな。嫌な予感がしたんで来てみたら、ラウディが暴走してるときたもんだ」
ポンポンと肩を叩かれてからサッと開放される。
半泣き状態のカティは……いつの間にか駆け付けた風の精霊のウィンドライが手を引っ張って起こしてやったみたいだ。
「グラウディ……少し休みましょう? ウィン、シアン。後は頼みます」
「ん。了解」
「ああ。コッチのことは気にすんな。ウィン、お前はカティをどこかで休ませてやれ」
ウィンドライは頷くと、カティを連れてどこかへ行ってしまった。




