21.カティと光の精霊
俺は二人が話している隙に黙々とアイテムを取り出して育成準備を始める。
恵みの樹を包んでいた光が消えると、カティの樹は輝きながら枝を伸ばし葉をつけていく。
カティの樹はカティの背丈くらいには成長していた。
「すごーい! さすがレリオル様だぁ!」
「カティ、その名で呼ぶことは……」
「もう! 別にいいじゃないですか。下級精霊だってみんなそう呼んでいるのにー」
やり取りが耳障りで気になってしまい、ちらりと二人の方を見てしまう。
カティはぷぅと両頬を膨らませて、じぃっとアウレリオルの顔を覗き込んでいた。
……相変わらずカティを見ているだけで疲れる。
俺は二人を無視して自分の樹の側へ行き、ゆっくりとリュックを下ろす。
「そなた……」
「え? あぁー! ハルだ! 恵みの樹のところへ来るなんて初めてじゃない?」
静かにしていたつもりだけど、側へ寄ったら気づかれるよな。
さすがに無視するわけにはいかない。おれは渋々、どうもと挨拶をする。
「漸く心を入れ替えたか」
「そのようですね。すみませんが、記憶がないもので」
「記憶がないほうが頑張るなんて変なの。でも、精霊様もいないのにどうするつもりなの?」
カティはきょろきょろと辺りを見回しているみたいだけど、もしかして樹を成長させるのはアイテムでもいいって知らないとか?
俺はカティの言葉を無視して、さっき手に入れた土色のスコップを握り樹の根本を優しく掘り返していく。
「え? 急に砂遊び?」
「カティ……そなた、何を聞いていたのだ。我らの力が込められたアイテムを使用しても恵みの樹の育成は可能だ」
「アイテムー? そういえば、そんなこと言われたような……でも、精霊様たちのお力を借りた方が簡単だし、楽しいじゃないですか」
「楽しいとは……そなた、自らの使命を理解しているのか?」
俺は二人の会話には入らずに黙々と作業を続けていく。
しかし、カティの喋り方といい性格と言い……さすが妹が考えただけあって妹にそっくりだ。
相手に取り入ってソイツを上手いこと操って、自分は見ているだけ。
自分はやりたいことだけをやり、面倒ごとをやらせたヤツには甘いことを言ってまた同じことをやらせる。
……思い出すのはやめよう。それだけで疲れるしやる気が失せてしまう。
「……ハル」
「……」
「我の言うことを聞いているのか?」
考え事をしながら作業に没頭していたせいか、呼びかけられていたことに気づかなかったらしい。
俺は一旦顔をあげて、なんでしょうか? と端的に返す。
「急にやる気を出した理由は?」
「特にこれと言って理由はありません。これが精霊の卵としての使命ですし、当たり前のことをしているだけです」
「でも、今までボクの邪魔したりサボったりしてたのにー?」
「それは……覚えてないけど、もうするつもりはない」
意外と嫌味を言ってくるな、カティのヤツ。悪気がなさそうなところが余計に腹が立つ。
普段妹に対してもここまで腹立たしくならないはずだけど、やっぱり俺がライバルポジションだからか?
俺はイライラを吐き出すように、息を長く吐く。
「お二人はもう終わったのですよね? 俺は作業を続けますので」
「……まあいい。では、カティ。私も戻るとする」
「えぇー。折角ですしお茶しましょうよー。今日はお天気もいいですし」
「悪いが、断る」
そういえば、ゲームの中でも午後のお茶の誘いが選択肢としてあったな。
好感度がある程度高くてタイミングが良い時、お茶に誘うと精霊が付き合ってくれるんだよな。
どうやら、光の精霊とはまだそこまで仲が良くないようだ。
「酷い! 少しくらい付き合ってくれてもいいのにー。じゃあ、せめてレリオル様のお家まで行きますっ」
「……仕方あるまい」
カティがきゅっとアウレリオルの腕へ絡みつくと、アウレリオルも呆れた顔をしながら受け入れる。
身体を触らせるってことは、好感度はそこまで悪くもないのか?
よく分からないな。
「……」
アウレリオルは何故か最後まで俺を見ていたので、一応軽く頭だけ下げておいた。
どうせ俺との好感度は高くないだろうし、無視してもいいんだけど後々面倒そうだからな。




