13.水と風の兄弟精霊
気まずい沈黙が流れる。
すると、ウィンドライが何も言わずにすたすたと歩いて机の上に放置されたままの食事を指さした。
「食べてもらえないと、オレたちも帰れない」
「はあ……」
俺が気のない返事をすると、側にいたリバイアリスが何度も頷く。
どうやら一口でも食べないと帰ってもらえそうにないみたいだ。
俺は諦めて椅子に座り、木のスプーンを手に取ってスープを一口すする。
その様子をあまりにもじっと観察されるので、凄く食べづらい。
「……ジッと見られると食べづらいのですが」
「あ、ああ……すみません。やはり私たちがいると迷惑ですよね」
リバイアリスはずっと両眉を下げたままだ。ウィンドライは表情が変わらないのでよく分からないが、あまり冷たくしすぎるのも申し訳なくなってきた。
「迷惑という訳ではないです。ただ、別に見ていて楽しいものでもないので」
「そんなことはありませんよ。美味しく食べるという行為はとても大事なことですから」
ね? と、リバイアリスが隣のウィンドライに返事を求めるとウィンドライも無言で頷く。
二人は本当に仲の良い兄弟みたいだ。
「お二人は仲がいいんですね」
「そうですか? でもハルも名門貴族の出だと聞きましたけど……って。すみません、今は記憶がないのですよね」
「はい。そう、みたいですね。実はそんな夢を見たので」
俺が淡々と述べると、リバイアリスの表情がまた曇る。
俺の心を察したように、ふいに頭を撫でられた。
反射的に両肩が跳ねると、慌てたようにその手が頭から離れていく。
「す、すみません。貴方は撫でられて喜ぶような年齢ではないですよね」
「いえ、少し驚いただけなので」
「……兄さんは甘やかしたがりだから、許して」
ウィンドライが付け足すと、リバイアリスが恥ずかしそうにウィン? とじっと見つめ返した。
言いたいことを言い合えるくらい仲良しなのはうらやましい。
しかも、お互いをちゃんと尊重してるのが伝わってくる。
「ん……? そんなにスープ美味しかった?」
「え、スープ?」
「いえ……貴方が少し微笑んでいらしたようなので。少し元気になりましたか?」
え、俺……笑ってたのか。気づかなかった。
無意識だったので気恥ずかしくなり、慌ててパンにかぶりつく。
すると、当然のようにむせてしまって驚いたリバイアリスに背中をさすられながらウィンドライに飲み物の入ったコップを手渡された。
「……失礼しました」
「いいえ。思ったより元気そうなので私たちも安心しました。今日はもう遅いですからこのまま部屋で休んでくださいね。ほら、ウィン。そろそろ私たちも帰りましょう」
「了解。ハル、またね」
水と風の精霊兄弟を見送り、俺は残りの食事も全て食べ終えた。
どうやらお腹は空いていたらしい。
「ったく。なんか調子狂うよな」
もう一度ベッドへ寝転がる。
精霊というくらいだから、もっと人間離れしている雰囲気なのかと思っていたが意外と人間より人間らしい感じがする。
まあ、ゲームを作っているのが人間だからっていうのもあるだろうけど……想像以上に親しみやすい。
ただ見た目はリバイアリスが長く美しい水色の髪と透き通った水のような瞳を持ったお兄さんで、ウィンドライは流れるような肩くらいの青の髪と深い青の瞳を持った青年だ。
女の子が喜びそうな美形だから、近くにいられると落ち着かないのは仕方ないかもしれない。
「積極的に仲良くする気はないけど、最低値っていうのも面倒だし。好感度を標準くらいには引き上げてもいいかもな」
直接的に精霊から恵みの樹へ力を送ってほしいとお願いをしに行くつもりはないが、適度な距離感で接するのは悪くなさそうだ。
だからといって、急に家に来られても対応に困ってしまうのだが。
もしかしたら、精霊使いの卵には最低限優しく接しろというマニュアルがあるのかもしれない。
「とりあえず明日考えよう……」
お腹がいっぱいになると、あんなに寝ていたというのにまた眠くなってくる。
昨日から寝てばかりだけど、俺は気にせず眠りに落ちていった。




