お楽しみの時間 1 <バレンタイン小話>
最近はラウディの家で過ごすことが多いんだけど、今日はおやつの話になった。
お菓子作りが得意なのはやっぱりイアリスらしいけど、ラウディも意外と得意だとモグから聞いていた。
黙々と作業するのは得意らしい。
「料理担当のバードと共に作業されるウィン様もお料理は得意とおっしゃってましたけど、お菓子はやはりイアリス様だそうですよぉ。お二人がお話されているのを聞いたので間違いないです!」
「そうなんだ。それでどうしてラウディがやる気を出した顔をしているのか知りたいんだけど……」
ラウディはさっきから俺の手を握りながらじっと俺を見つめてくる。
一体何のつもりなのか、すごく気になる。
「ハルの住んでたところでは、大好きな人にチョコを送るって聞いた。だから僕から送りたい」
「誰がラウディにそんなことを……って。まさかハルミリオン?」
ハルミリオンが本当の妹のリムキヨリアに会いに行くときがあるんだけど、俺は自分の本当の妹の哩夢に会いに行っていた。
その時にハルミリオンがチョコレートを渡したとか? だとすると……入れ知恵したのは家の哩夢に間違いない。
ハルミリオンなら間違いなく妹へ渡すだろうしな。
俺が現実世界へ戻っているときは、代わりにハルミリオンがエーテルヴェールへ来ていることが多い。
ラウディにもきちんと知らせているから、ハルミリオンもラウディへ挨拶したのかもしれないな。
「嬉しいけど、ラウディがチョコを作ってくれた……とか?」
俺がラウディに尋ねると、ラウディは頷く。モグももちろん! と胸を張って答えてくれた。
そして、モグがタタタっと走っていって一つの箱を持って優しくラウディへ手渡した。
「ハル、大好き」
俺だけを映している灰緑色の瞳に見つめられながら、甘く優しく伝えられる。
好きだと何度も言われているけど、こうして改めて言われるとすごく恥ずかしい。
「……俺、手作りチョコをもらうのは初めてだ。ありがとう、ラウディ」
気恥ずかしさをごまかすのに精いっぱいで、大したことも言えなかった。
俺は慌てながら視線をもらった箱へ落とす。
ラウディの灰緑の髪色と同じ落ち着いた色合いのハートの箱に、緑のリボンが巻かれている。
これ、ラッピングもラウディがしたんだよな?
俺はそっと包みを開けてみると、中には丸いチョコがいくつか入っていた。
「食べてみていいかな?」
ラウディは柔らかに微笑みながら頷いてくれる。
ころんとした丸みでちょうど食べやすそうだ。
俺はありがたくいただくと、中からじゅわりと飛び出してくる。
「ん……?」
「中にラブランを入れてみた」
ラブランってなんだ? とろんとした液体は、味わっているうちに香りが鼻へ抜けていく。
俺は無意識のうちにチョコへ手を伸ばしていた。
そして、もう一度味わう。
「これ、うまい……」
「ラウディ様、良かったですね! ハルさんとても気に入ってくださったみたいですよ?」
モグとラウディは二人で喜んでくれているみたいだ。
俺も幸せな気持ちでいっぱいになってくる。
「やっぱり仲良しな二人がいいな。ん……いい」
「あれ、ハルさん? 食べてくださるのは嬉しいんですけど……勢いが?」
「モグ、もしかしてハル……」
モグとラウディが俺の方を見て、何か声をかけてくれている。
けど、俺は今もっとチョコが食べたい気分だ。
もう一つ食べようと手を伸ばしたのに、ラウディに手を握られて阻止されてしまった。
「え、もう一つ……」
「ハル、食べすぎはダメ。ハル、大丈夫?」
ラウディが心配そうに俺のことを見ているのが分かる。
分かるんだけど……夢の中にいるみたいにふわふわした不思議な感覚だ。
「大丈夫。ラウディの手はひんやりしていて気持ちいい……」
大好きな手に擦り寄ると優しく頬を撫でてくれる。
モグもあわあわしながら心配そうに額を触ってくれてるけど、なんだろう?




