ラブスピ考察編 3 ハルミリオンSIDE
リムの話は難しいが、とても興味深い。
まさか同じ名前でこの世界でも存在しているとは驚いた。
「女神様と精霊神の名前は、スタッフたちが会社で呼び合っている愛称なんだって。本当の名前はお兄ちゃんや私と同じで、ハルミリオンたちとは違う雰囲気の名前のはず」
「ゲームという世界を創ったものたちも、本来はハルたちの世界の者ということなのだな?」
「きっとそうなんだね。でも、開発スタッフがキャラクターとして出てくるだなんてすごい! しかも会えたんでしょ?」
「ああ。美しい女神だった。この世界に神はいないのか?」
俺が問うと、リムはそうだねと少し寂しそうな顔をして答えた。
この世界は文明が発達しているため、便利だとは聞いているが……自然も少ないらしい。
今いるこの室内も色々と違和感が多い。何というか、自然の息吹は一切感じない。
リムに見せられている道具も不思議なものだが、魔法とは違うようだ。
「この世界には魔法がない代わりに、別の力があるって言えばいいのかな。ハルミリオンにとっては驚くことばっかりかも」
「お前がいなければ、戸惑っていただろうな。この部屋ですら不思議だ」
「病院っぽいものはラブスピ世界にもあるだろうけど、やっぱり違うよね。それで……お兄ちゃんはもう帰ってこないのかな」
リムは突然寂しそうな声で呟く。この子は俺の妹ほど決意は固くないようだ。
リムキヨリアができすぎた妹なのであって、これくらい寂しがる方が兄としては嬉しいのかもしれないな。
「すまないな、俺ではお前の兄としては不足だろう?」
「そんなことないけど、ハルミリオンに甘えるのは申し訳ないっていうか。だって、あなたにも妹さんがいるって公式サイトに書いてあったよ?」
「こうしき……は良く分からないが、妹はいる。お前と同じリムという名を持つできた妹だ」
「リムちゃんかぁ……。きっと哩夢よりも良い子なんだろうなー」
無理して笑っている表情は、リムに重なる気がした。
気づくと身体は自然に動き、目の前のリムを抱きしめていた。
「ハルはあちらの世界へ残ると決めた。時々戻ってくるとは言っていたがな。その代わりと言ってはなんだが……リム、俺にこの世界のことを教えてくれないか?」
「え? 哩夢がハルミリオンに?」
「そうだ。俺の妹のことはハルに任せてある。お前が嫌ではないのなら、この世界ではお前の兄として相応しく振る舞えるように勉学に励もうと思う」
「ハルミリオンがお兄ちゃんの代わりに……」
リムは何か考え込んでいたようだが、すぐにパッと明るい笑顔を浮かべて俺を嬉しそうに見てくる。
しかも、これならいけるだのなんだのと急に張り切りだした。
「ハルミリオン、この世界のことなら哩夢に任せて! ハルミリオンは私のお兄ちゃんの桧山 晴として生活すればいいよ」
「ひやまはる。それがハルの本当の名だったな」
「そう。私は桧山 哩夢だよ。改めて、よろしくね」
リムはそう言って手を差し出してくる。少々気恥ずかしいものだが、無下にする訳にもいかない。
俺のことを受け入れてくれたこちらの世界の妹に対しても、敬意を払わないといけないだろう。
「俺は知っての通り、ハルミリオン・エヴァーグレイブ。こちらの世界でもハルで構わない。俺を兄と思ってもらえるのなら、ありがたい」
「お兄ちゃんが二人になったって感じだね! でも、お兄ちゃんよりハルミリオンの方がイケメンな気がする。お兄ちゃんはイケメンというか可愛い感じ。やっぱり目元かな」
「そうだな。俺の方が目つきが悪い」
「目つきって……ウケるー! ライバルポジだもんねー。主人公のカティも可愛くしたけど、お兄ちゃんの場合は平凡で地味な雰囲気なのに実は可愛い系みたいな?」
妹に散々言われているのを聞いていると、ハルは妹には敵わないようだな。
まあ、あのお人よしではこの妹を大人しくさせるのは難しそうだ。
「イケメンというのは誉め言葉なのか。ありがたく受け取っておこう。俺も別に突出した見た目ではないと思うがな」
「精霊様たちは別格だけど、ハルミリオンもイケてるよ! あとで一緒に写真撮ろ」
リムは寂しさも吹き飛んだのか、いきいきとし始めたようだ。
今度は俺が話を聞いてやる番だろう。俺はしばしリムの話に耳を傾けた。




