107.初めてのスイッチ直後
少し時は遡り――
ハルとハルミリオンの意識がスイッチした直後。
ハルはハルミリオンと話している不思議な空間でハルミリオンの様子を見守っていた。
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精霊神に授けてもらった能力を緊張しながら使ってみたけど、うまくいったらしい。
俺の意識とハルミリオンの意識が身体の中で入れ替わり、今はハルミリオンが剣を振るっている姿を不思議な空間で眺めていた。
ハルミリオンが少しだけ剣を押し込んだだけで、相手がビビッてるし。
でも、剣を使うハルミリオンは生き生きとしているから剣を使うことが好きなんだろうな。
「ハルミリオン……カッコイイな。他のゲームだと確かに貴族が剣を使って戦うような戦闘シーンもあるけど、こうして見ると臨場感と迫力が違う。俺だったら、剣すら抜けないな」
呟くと、ハルミリオンが大したことはないと俺に返してくれたことが分かる。
表で会話しているのに、俺にも返事してくれるなんて器用だよな。
大人しく会話を見守っていると、俺の雰囲気が違うことに気づかれていた。
二人とも鋭いな。
ハルミリオンの妹さんは、可愛いししっかりとした子なんだな。
確かにお兄さんのことを大切に思っていたのは夢で見たけど……実際に会ってみると余計に気持ちが伝わってくる。
「ちょっ……急にデレるなよ。俺のこと、いいヤツだって思ってくれてたのか」
ハルミリオンの考えていることがダイレクトに流れ込んでくるせいで、余計に気恥ずかしい。
ということは、俺の思っていることもハルミリオンが聞こうと思えば丸聞こえってことだよな?
「今度から、気をつけよう……ん? 俺たちのことを妹さんとモーングレイさんに話してもいいかって? その二人なら信じてくれるだろうし、いいと思う」
俺が返事をするとハルミリオンが俺の返事を受け取って、妹さんとモーングレイさんに俺たちの事情を説明し始めた。
ハルミリオンは順序立てて説明してるし、俺が説明するよりも数倍分かりやすい。
人が入れ替わるなんて不思議な出来事だと思うけど、聞いた側も納得してくれているみたいだ。
俺の雰囲気とハルミリオンの雰囲気が違うことは、その場で見ているとすぐに分かるだろうし……特に妹さんは俺を見て別人のように感じたというのも分かる。
実際見た目だけ同じなだけの別人だもんな。
だけど……この後すぐお別れなのか。寂しいな……もっと兄妹でゆっくりとした時間が過ごせたらいいのに。
言葉の端々から、ハルミリオンが妹のことを大切に思っていることが伝わってくる。
妹さんもお兄さん思いで、ハルミリオンの言う通りの芯の強いいわゆるできた妹さんなんだろう。
辺境伯さんと仲良く暮らせたらいいなと思うけど、俺には貴族社会のことはよく分からない。
ハルミリオンの家のことも、モーングレイさんがなんとかしてくれるって言っているし。
これで良かったんだよな? だから、もっとハルミリオンも甘えていいんだ。
「ハルミリオン……良かったな」
二人の兄妹が抱き合っているのを見て、俺までうるっとしてきた。
俺はどうしても二人を会わせたかったから……少しでも兄妹が二人で話せる時間を作りたかった。
俺が見た夢の内容を考えたら、二人は今まで色々なことを我慢してきたはずだ。
父親にも認められずに、行き場のない怒りを抱えていたハルミリオン。
その兄をいつも心配していた妹。ハルミリオンにとって、妹だけが自分の家で唯一心を許せる存在だったんだ。
だけど、その妹すら自分の力がないせいで守れない……俺はその気持ちを夢と言う形で実体験してしまった。
だから、少しは気持ちが分かる気がする。もちろん、二人には俺に分からないような苦労がいっぱいあったんだと思う。
「また、きっと会える。大丈夫だ」
俺が見守っていると、ハルミリオンがスイッチを使った感覚が伝わってくる。
え、スイッチって言わなくても良かった?
なんだ……俺だけ張り切って言ってしまって、恥ずかしいな。
教えてくれればよかったのに。俺が文句を言うのと笑う感覚が伝わるのがすれ違ったと思った瞬間。
目の前が真っ白な光で満たされて、何も見えなくなっていった。




