105.妹救出イベント回収
ごたごたは騎士たちが処理をしてくれているらしい。
俺が剣をおさめたことが分かると、リムが俺の側へ駆け寄ってきた。
リムは綺麗な白の花嫁衣裳を着せられている。
清楚な花のフリルがあしらわれたドレスはリムによく似合っているが……あんな男の元へ嫁がせなくて本当に良かった。
見ただけで分かる下衆な雰囲気。妹の手に触れていたことすら腹立たしい。
事故に見せかけて、少し斬りつけてやればよかったか?
「お兄様……! ご無事で」
「リム、久しいな。それと……フィッツロス卿だな? 妹のリムキヨリアのためにすまない。格下の男爵家ではとても礼を言い尽くせないが、この御恩は必ずや……」
「今更やろ? っていうか……あんた、本当にハルか? いや、この感じ……」
「確かに、私を最初に助けてくれようとしたのもお兄様でしたが……どこかいつものお兄様と雰囲気が違うような気がいたしましたわ」
確かにあのお人よしそうなハルと俺とでは、だいぶ性格に差があるだろう。
俺は常に成果を出すことだけを考え、周りのことなど何も配慮していなかったのだからな。
怒りに任せて物を破壊し、カティのことは常にどうやって蹴落とそうかとくだらない嫌がらせばかり考えていた。
ハルは全員を近寄らせないようにしていたと言っていたが、アイツの行動は俺の心すら動かした。
ハルは……いいヤツだ。頭の中で照れた声が聞こえる気がするが、聞こえないフリをしてやろう。
「それについては……俺から説明する。本来はこちらに顔を出すつもりはなかったが、ハルも俺を気遣っているようだからな」
「ハルって……いや、あんたもハルやろ」
「まるで、別の方がいるような言い方をなさるのね?」
妹は相変わらず勘が鋭い。俺は口端を上げ、場所を変えようと提案する。
すると、フィッツロス卿が自分たちの乗ってきた馬車を指さしたので改めてそちらへと移動した。
+++
「ハル、急に貴族同士になると喋りにくいで。今まで通りモーングレイさんとでも呼んでくれへん?」
「分かった。そうさせてもらおう。モーングレイさんと直接会うのは久しぶりだな」
「久しぶりて……今も会ってるやないか」
「わたくしは久しぶりですけれど……お兄様の身に何が?」
リムが心配そうな顔をしたので、頭を撫でて落ち着かせてやる。
俺は今まで自分の身に起こっていたことを説明した。
モーングレイは妹の恩人でもある。俺たちのことを話しても問題ないだろう。
ハルも頭の中でいいと思うと言っているのが分かる。
スイッチした直後は二人で話せると言っていたが、それも本当だったようだ。
「では……今はお兄様ご本人だけれど、ずっとハル様がお兄様の代わりに頑張っておられたということなのですね?」
「そうだ。しかし……自分の愛称と同じ呼ばれ方をするのは未だに慣れないな」
「そんなことがなぁ……普通なら笑い飛ばすところやけど、ここまで雰囲気が違うとなぁ。あんたはやっぱり貴族って感じがするんやけど、あのハルは確かにそんな雰囲気はなかったわ」
「今まで迷惑をかけた。だからこそ、俺はもっと見聞を広げたいと考えている。精霊神から授かった力を使い、もう一人のハルのいた世界で勉学に励みたいと思ってな」
これは元々決めていたことだ。この前ハルの世界へ行ったとき、ハルの妹も協力してくれると言っていたからだ。
リムのことも心配だが、俺の妹ならば大丈夫だろう。
「そんな……折角お兄様にお会いできたのに、すぐにお別れだなんて……」
「元々精霊使いは人間界で自由に過ごすことは禁じられている。今回はハルが積み上げてきた信頼で許されたことだ。だが……許されるのならば、時々様子を見に行くつもりだ」
「せやで。それに、リムちゃん。俺らが勝手に君を助けてしまって……何なら君の次の相手を家の兄貴にしようとしてしまっているんやで。そっちもあんたには問題かもしれへんが……」
そうだった。あの男より格段にマシだが、リムが万が一嫌がれば嫁入りもさせずにどこか静かな場所で暮らすことを提案しようと思っていた。
リムはどう考えているだろうか?
リムの顔を見ると、柔らかに微笑んでいた。




