104.とっておきの秘策
お言葉に甘えて仮眠させてもらった。俺だけなんだか申し訳ないけど、モーングレイも寝るからと説得された。
騎士の皆さんは慣れているし、順番に見張りと仮眠を交代するのでと乗ってきた馬車の中で仮眠した。
そして早朝――
俺たちは緊張しながらその時を待っていた。
「……来ました。侯爵家の紋章を確認しました。間違いありません」
「そうか。じゃあ、頼んだで。ハル、俺らはコイツらが馬車を足止めした後に隙を見て一気に近づいて妹さんをかっさらう」
「分かりました。緊張してきた……」
騎士の皆さんがいわゆる陽動をしてくれるという作戦だ。
妹を助けるための陽動だけではなく、この場で侯爵家の悪事も暴露して辺境伯特権を使用し侯爵家を取り締まるらしい。
もちろん、このことについて王様も知っているそうなので王様の命令ってことにもなるみたいだ。
騎士の皆さんでアイコンタクトを取ると、一斉に高台から森の道へと降りていく。
十人くらいだけど、モーングレイさん曰く精鋭さんたちだそうで俺のことを気遣ってくれていたイケメンな人は副団長で、団長さんも来てくれたらしい。
俺たちは騎士さんたちの一番後方から静かに高台を降りて、近くの木の裏に身を潜めた。
「わ……すごい」
「アイツらは戦い慣れとるからなー。見た目に騙されるとえらい目にあうで」
「カッコイイ……!」
「ハルんとこにはいないんか?」
俺は余計なことまで言いそうになったので、慌てて口を閉じる。
俺が見守っている間に騎士さんたちが馬車の前へ立ちはだかり、何か紙を見せている。
あれが、王様から預かったっていう紙なのかな。
侯爵家にも護衛なのか何人か馬に乗った騎士っぽい人もいるけど、馬車の側にその騎士が横にいるせいで近づけない。
「あの騎士たちが離れた時がチャンスや」
「分かった」
フィッツロス家の騎士が凄むと、侯爵家の騎士が反論するように馬から降りて騎士の方へ近づいていく。
よし、これなら……!
「ハル、行くで!」
「はい!」
俺たちも顔を見合わせて、そっと馬車の方へ一気に近づく。
そして、馬車のドアを勢いよく開けた。
「きゃあっ!」
「な、何者だ!?」
薄桃の柔らかそうな長い髪と、優しい雰囲気の薄灰の瞳。この子が夢に出てきたハルミリオンの妹か。
妹がいるのは分かったんだけど、向かい側にいかにもチャラそうな男が座っていて妹の手を握っていた。
……なんだ、コイツ?
「まさか、ご本人が迎えに行ってたんか! コイツは少し想定外やな」
「お前たちは一体?」
「お……お兄様!」
ハルの妹のリムキヨリアが声を上げたので、俺の正体がすぐにばれてしまう。
すると、焦った男が妹の手を離していきなり剣を抜いて襲い掛かってきた。
「今更何をしにきた! 出来損ないめ!」
「すみません、妹をっ!」
「わ、分かった!」
モーングレイに妹のことを頼んで、俺は急いで剣に手をかけた。
俺じゃダメだけど、きっとアイツなら……!
使うのは初めてだけど、俺ならできる!
「スイッチ!」
俺は意思を込めて、精霊神に言われた言葉を叫ぶ。
すると、すぐに意思がふっと遠のくのが分かった。
「……ったく、呼ぶならもう少し早く呼べ!」
俺は、一言文句を言ってから、腰の剣を引き抜いてヤツの剣を受けた。
しかし、本当にスイッチとやらができるとはな。
外に出たのは久しぶりだったが、身体がなまっていなくて良かった。
「なっ……」
「フン。残念だが、俺は剣には少々自信があるんだ。お前くらいの腕なら、大したことはない」
「クソっ!」
剣と剣がぶつかる。ギリっと嫌な音がするが、この程度の力なら勢いで押せる。
グッと押し出してやると、男はよろりと体勢を崩した。
俺が剣を跳ねのけたところで、騎士が慌ててコッチへ駆けつけてくる。
もう少し早く気づいてくれれば、俺が表に出る必要はなかったんだがな。
「ハル様、ご無事ですか?」
「問題ない。で、この男が妹の婚約者か」
「ですね。まさか自ら迎えに行っていたとは。調べ不足で申し訳ありません」
「いや、こちらが無理なお願いをしたんだ。あなたたちの協力がなければ成し遂げられなかったこと。改めて俺からも礼を言わせてくれ。心より感謝申し上げる」
あっちのハルはお礼を言っていたが、俺からは言っていなかったからな。
俺は男が捕らわれたのを確認して、剣をおさめた。




