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異世界から来た美少女と自宅でまったりダンジョン運営する話  作者: 猫野 ジム


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最終話 確かな想い

 俺は長い夢を見ていたのだろうか。もしそうだとしたら、またその夢を見られるまで俺はいつまでも眠り続けよう。


 エリンが元の世界に帰ってから早くも一ヶ月が過ぎた。分かってるさ、仕事に忙殺される日々。これが現実だ。


 昼休みに食べるのはコンビニで買ったおにぎり。それなりに美味いが、俺のために作られたものではない。


 遅い夕食はカップラーメン。いろんな種類があって美味いが、誰に感想を言うわけでもない。


 夕食後はスマホをいじる。あー、今まで読んでたweb小説めちゃくちゃ進んでる。エリンと過ごすうちにいつの間にか忘れてた。

 ま、いいか。これから時間はいくらでもあるんだし、すぐに追いつくだろう。


 ふとこれまでのことを思い出す。遅い時間に帰宅しても、部屋に明かりがついていた。

 中に入ると見たこともないような銀髪美少女が出迎えてくれた。


 そして笑顔でこう言ってくれた。「おかえりなさい!」と。

 それで俺は「ただいま!」と返す。そんな短いやり取りだけで疲れなんてどこかに飛んでいくんだなと、俺は知ることができた。


(エリンは立派なダンジョンマスターになれただろうか……?)


 せめてそれだけでも知ることができたなら。


 もちろんエリンのことは忘れない。だけどいつまでも現実を見ないのはダメだ。


 現実でも頑張れば可愛い女の子と一緒に住んで、楽しく暮らすことはできる。結婚だってできる。

 でもエリンはそういうのとは少し違っていた。家族というか応援したい存在というか、一緒に住んでいても変な気を起こそうとは思わなかった。


 近くにいてくれればそれでいい。そう思っていたんだ。




 ある日の昼休み。珍しく時間が合った同期の鈴木と休憩スペースで男二人、昼食をともにしている。


三田川(みたがわ)、悪いが今日付き合ってくれ」


「どうした? あの上司からまた何か言われたか?」


「違う部署なのによく分かったな」


「いつものことじゃないか。それに俺の上司だって似たようなもんだ」


 どういうわけか二人とも上司に恵まれなかった。上司ガチャは大ハズレ。

 ただまあ同期のこいつとは何かと気が合うし、他にも入社してからできた友達もいる。


 たまに一緒に飲んだりすると、それはそれで楽しい。だから俺は別に人生を悲観してるわけじゃないんだ。


 ところが約束は果たされなかった。上司から急な仕事を振られたからだ。()()()()ではない。

 つまり本来は上司がするべき範囲のことを、誰にでもできることだからと部下になすりつけたと言い換えることができる。


 ある意味、業務命令だ。基本的には断れない。少しの遅れがいろんな人に迷惑をかけることになると思うと、引き受けるしかない。


 俺が鈴木に事情を話すと、「そうか、俺のことは気にするな! 体調崩さないようにな」と言って、(こころよ)く了承してくれた。ホントどんな人と出会うのかって大事なことだ。




 結局今日も会社を出る頃には外は真っ暗。おまけに上司のほうが先に帰る始末。


 人がまばらな電車に揺られ、俺が住むワンルームマンションが見えた頃には22時を過ぎていた。


(またすっかり一人に慣れてしまったな……。今日もまた真っ暗な部屋へと帰るんだ)


 ところが俺は絶句した。部屋に明かりがついている。まさか……? いや待て、俺が明かりを消し忘れただけかもしれない。


 俺は走り出した。残業の疲れ? そんなもん知るか! もし不審者だったら? ブッ飛ばす!

 とにかく俺は一秒でも早くたどり着きたかった。


 部屋までの距離がどんどん短くなっていく。あと5メートル、俺は手を伸ばす。あと1メートル、俺はドアレバーをつかむ。ドアの前へ到着、俺はドアを開けようとする。


 しかし鍵がかかっていて開けられない。あまりに急ぎすぎて俺はそんなことも忘れていた。


 自分の家に入るだけなのに、深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。


 そしてゆっくりとドアを少しだけ開けると、中から光が漏れてきた。

 さらにドアを開けると、目の前に明るい空間が広がった。


 俺が視線を前に向けると、そこには思わず見とれてしまうような銀髪美少女がいた。俺は確かにこの子を知っている。


「マスター、おかえりなさい!」


(俺はこの言葉を待ち望んでいたんだ……!)


 両手を広げて何かを待っているかのような銀髪美少女。

 俺は混乱してしまってうまく反応ができない。


「もう……、マスターが来ないなら私から行きますよ?」


 銀髪美少女はそう言って俺に近づき、両手を俺の背中に回した。俺もこの子の背中に両手を回す。

 ここでようやく俺は言葉を取り戻した。


「ただいま、エリン!」


 もう二度と会えないと思っていた。だから忘れはしなくても、いい思い出として大切にしようと決めていた。


「ねえ、マスター」


「どうした?」


「一緒にご飯を食べましょう!」


「喜んで!」


 ローテーブルの上には二人分のオムライスが並んでおり、正面には確かにエリンがいる。


 俺がオムライスの感想を伝えると、本当に嬉しそうにしてくれた。俺の言葉一つでそんなにも喜んでくれるなんて。


 遅い夕食を終えた俺達はいろんな話をした。エリンが帰った数日後、エリンはリーンベル家のダンジョンマスターとして正式に全国に紹介されたそうだ。


『改変』のマスタースキルはエリンにしか使えない。だからエリンが作るダンジョンは唯一無二のものとして、時には国から制作依頼が来ることもあるらしい。


 どんなダンジョンにするか決める役割、つまり俺がしていたことは、エバースさんが務めているそうだ。

 やっぱりエリンには性格が悪いダンジョンを作ることはできないみたいだ。エリンはそのままでいい。


「私が元の世界に帰ってから、マスターのことを思い出さなかった日は一日もありませんでした」


「それは俺だって同じだ。俺だってエリンのことを忘れた日は一日もない」


「マスターに会いたい。できることなら今すぐにでも日本に行きたい。私は毎日そう願いました。そんなある日、もしかしたら転移魔法は想いの強さに関係があるかもしれないということが分かったんです」


 確かリーンベル家の敷地内に転移魔法の研究所があるんだっけ。


「転移したい場所をただ思い浮かべるだけじゃダメで、全てを捨ててでもその場所に行きたいという強い想いがあれば、それはきっと叶う。私はそう信じて毎日、より一層強くマスターに会いたいと願いました」


 エリンはそう言って、真っ直ぐに俺の目を見つめる。そして俺の手を両手で優しく包み込んだ。


「そして今、私はマスターの隣にいます」


 それは今までで一番優しい声。でも力強く、確かに隣にエリンがいることを感じられる。

 そして俺の目から涙がこぼれ落ちた。


「あれ……おかしいな? またエリンと会えて嬉しいはずなのに、泣くだなんて。俺、かっこ悪いな……」


 するとエリンが今度は俺の目に人差し指を優しく当てて、涙を拭いてくれた。


「もう、困ったマスターですね……。嬉しい時は笑顔、ですよ……? あ、あれ……? なんだか私まで泣けてきちゃった……」


「エリンも泣いてるじゃないか……!」


 今度は俺が人差し指でエリンの涙をそっと拭いた。そしてお互い優しく笑い合う。



 少し落ち着いた頃、俺は大事なことを聞くことにした。


「リーンベル家のことはいいのか?」


「はい。お父様にはきちんと話してあります。もしかしたらこの時が来るかも知れないと」


「エバースさんはなんて言ってた?」


「お父様は、『もしその時が来たらミカゲ君と一緒にいなさい、こちらの世界にはいつでも戻れるのだから』と言ってくれました。リーンベル家なら大丈夫です。お兄様もお姉様もいるのですから! それに連絡なら取れますから、寂しくありません!」


「そっか。それなら一安心だな」


 やっぱりずっと一緒にいたい。それならこの言葉を言ってしまおう。もしもまたエリンと会えたら、笑顔で伝えると決めていた言葉を。


「おかえり、エリン!」


「はいっ! ただいま、マスター!」



(了)

読んでくださった方々、ありがとうございました!

リアクションや感想も嬉しかったです!

楽しんでもらえたようで、書いてよかったと思いました

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