第48話 そんな人いたっけ?
もしもエリンが転移のマスタースキルを使えるようになれば、元の世界に帰ることができるかもしれない。アナスタシアさんからそんな話を聞いた。
「だからエリンが転移のマスタースキルを使えるようになる方法を考えたい。二人とも協力してくれないか?」
それはもちろん即OKだ。
「その前に一ついいですか? 帰れる理屈は分かったかもしれませんけど、そもそも何故エリンは日本に来ることになったんでしょうか? だってエリンはまだ転移なんてできないはずですよね」
「その文献の著者もある日突然、異世界に転移してしまったそうだ」
「なんだかエリンと似てますね」
「ああ、私もそう思った。その著者によると、転移のマスタースキルが使えるようになる予兆なのかもしれないとのことだが……」
「マスタースキルが使えるようになるのはいいことですけど、予兆で異世界に飛ばされたらたまったもんじゃないですね」
「まったくだ。だが私達だけで考えても答えは出ないだろう。エリンが無事に帰って来られたら、私から正式に国王様に調査依頼をしてみよう。だから今はエリンが帰って来られることを最優先に考えたい」
「そうですね。いくら自分だけで考えても絶対に分からないことってありますからね。例えば人の気持ちとか」
俺の例えは華麗にスルーされて、次はエリンが転移のマスタースキルをどうすれば使えるようになるのかという話になった。
「私が転移のマスタースキルを使えるようになりさえすればいいんですよね!」
いつにも増して気合いが入っているエリン。エリンのことだ、早くしないと俺やアナスタシアさんに迷惑がかかると思っているんだろう。
「おお、気合いが入っているなエリン」
「だって私が頑張らないとお姉様やマスターにご迷惑をかけてしまいますからっ!」
「そんなことないよエリン。その男はともかく、私は迷惑だなんてちっとも思ってないよ」
「いやいや、俺だって迷惑だなんてこれっぽっちも思ってないから」
「エリンが転移できるようになれば、その分だけ早くリーンベル家に帰って来ることができるんだよ。私達はいつまでも待っているからね」
「俺も協力するし、エリンならきっと大丈夫だ」
「お姉様、マスター……。ありがとうございますっ……!」
そのまま涙を流すのかと思ったが、エリンは何かに気が付いたかのように言葉を付け足す。
「あの、もしかして私が転移できるようになれば、マスターとはお別れになる……のでしょうか?」
ああー、気が付いてしまったかぁ。エリンが異世界に帰れば、当然俺とは二度と会えなくなる。まさに住む世界が違う。俺は転移魔法なんて使えないし、通信魔法だって使えない。
連絡を取ることすら二度とできないってわけだ。
だからって俺一人のわがままでエリンを引き止めるわけにはいかんだろう。
それにもし引き止めたとして、エリンが家族と俺のどちらを選ぶのか知るのが怖いんだ。
そんなの家族を選ぶに決まっている。俺だって分かっている。分かっているが、いざハッキリと答え合わせをする勇気が出ない。
だからごく自然な流れでエリンが異世界に帰ることを、俺は望んでいる。いつの間にかエリンがいる暮らしが当たり前になっていた。
結局のところ俺は自分のことを考えてしまっているんだ。
「確かにお別れになるだろうけど、それは一時的なものだと俺は思う。だって考えてみてくれよ、日本からエリンの世界に行けるってことは、当然逆のこともできるわけだ。だからいつでも往復できるようになるんじゃないか?」
もちろん根拠なんてない。でも道理として可能性はあるわけで、その言葉にはそうであってくれという俺の願いも混ぜておいた。
「そう……ですよね、きっとそうですっ!」
エリンは俺の言葉で安心したのか、俺を見ているエリンの瞳は青く綺麗に澄んでいた。
「さて、それでは具体的にどうするかなのだが……」
アナスタシアさんが進行役を買って出てくれた。というよりもこの件については、アナスタシアさんに任せることしか俺にはできない。
「うーん、やっぱり文献の著者に話が聞ければ一番いいんですけどね。経験者は語るってやつです」
「だが著者はもういない」
そうなんだよなー、誰からも話を聞けないとなると、あとはもう何とかエリンに頑張ってもらうしか……。
「マスター、それって転移が使える人からお話が聞ければいいんですよね?」
「それはそうなんだけど、転移魔法ってまだ研究開発の途中なんだろう?」
それは前にエリンから聞いたことだ。まあ研究者に話を聞いて見るってのも、案外得るものがあるかもしれないな。
「それはマスターのおっしゃる通りですけど、転移が使える人ならいますよ?」
え、そんな人いたっけ? 文献の著者の子孫か? 確かに可能性はあるだろうけど、どこにいるか分からないって言ってたし。
そこまで考えて、俺の頭の中で最後のピースがはまった。まあそれは大げさだけど、俺は簡単なことを見落としていた。
「エリンのお父さんか……」




