第45話 こっそり決意する
「そして今日はみなさんにお伝えすることがまだあります。実は本日披露した炎のダンジョンは、私が作ったのではありません」
アナスタシアさんがそう言うと、会場が少しざわついた。無理もない。さっき演説したクアーク家のマークスとやらは、自分でダンジョンを作っていた。
なので俺とエリン以外の人からすれば、アナスタシアさんが炎のダンジョンを作ったと思うだろう。
で、今人々の頭の中にはこんな疑問が浮かんでいるはずだ。「じゃあ誰が作ったの?」と。
「本日のリーンベル家のダンジョンを作ったのは私の妹、エリンです」
会場にいる人や中継を見ている人に同じ疑問を抱かせてから、すぐに答えを出す。
エリンの名前を出すには絶好のタイミングだ。アナスタシアさんの計算なのだろう。
「ですがエリンは今とても遠い場所にいるため、本日は姿を現すことができません。大変失礼だとは存じますが、必ずみなさんの前に姿をお見せすることを約束いたします」
とても遠い場所イコール俺の部屋。俺だってここでエリンが姿を見せることが一番いいと思うけど、こればかりはどうにもできない。
「本日披露いたしました炎のダンジョンで、いくつか不思議な現象が起きていました。炎に包まれた宝箱が燃え尽きなかったり、バーニングスライムが未知の攻撃をしてきたり、といったことですね」
アナスタシアさん、エリンのマスタースキルのことも言うつもりだ。
「実はそれらの事象は現在のところ、エリンにしか起こすことができないと私は考えています。私たちダンジョンマスターが使えるスキルの中でも、さらに特別なスキルである『改変』。エリンはそのスキルを駆使して、あのような誰も見たことのないことができるのです」
エリンが特別な存在だということを、どれくらいの人に分かってもらえるか。それはアナスタシアさんにかかっている。
「天然ダンジョンは日々進化し続けています。それならば人工ダンジョンも進化しなければならない。そしてそれは我々ダンジョンマスターも同じこと。私はこの先エリンにもっと多くのダンジョンを作ってもらい、冒険者のみなさんに様々な経験をしてほしいと思っています」
画面にはアナスタシアさんの顔がアップで映り、その瞳には輝きが宿っている。
「冒険者のみなさんの命を守りたい。それはダンジョンマスターとしての願いです。そしてそれにはエリンもきっとお役に立てることでしょう。今この話を聞いてくださっているみなさん、どうかエリンをダンジョンマスターとして受け入れてもらえませんでしょうか? そしてクアーク家も含め、ダンジョンマスターはいつでも冒険者のみなさんを応援しています」
最後に「ご清聴ありがとうございました」と頭を下げて、アナスタシアさんは壇上から降りた。鳴り止まない拍手とともに。
クアーク家のマークスとやらは拍手をせずに、何か不満そうな表情でアナスタシアさんを目で追っている。案外そういうとこ見られてるからな?
これにて交流戦は終了。これは俺としても満足のいくものだった。何よりもエリンの知名度が上がって、エリンがリーンベル家に戻りやすくなったことが一番嬉しい。
そしてアナスタシアさんの新たな一面を見ることができた。リーンベル家がクアーク家のマークスとやらから批判されても、アナスタシアさんはクアーク家を悪く言うことは無かった。
きっとアナスタシアさんは自分まで批判をしてしまうと、リーンベル家までもがクアーク家と同じ『公然と批判をする家系』に堕ちてしまうと考えたのだろう。
なんだかんだで剣聖姉さんは人格者なんだ。そんな事情が無くても人を悪く言うことはしないだろう。厳しいのは俺に対する態度だけ。
「エリン、今日はありがとうね。おかげでいい交流戦になったよ」
誰もいない炎のダンジョンの中で、アナスタシアさんが俺達にお礼を言ってくれた。……間違えました、『達』は余計でした。俺だって頑張ったんですが?
「今日のお姉様、いつもよりもっとカッコよかったですっ!」
「だってエリンのためだからね! ああ、早く会ってずっと抱きしめたい……!」
久しぶりの美しき姉妹愛。もうアナスタシアさんはこっちが素だと思うようになってきた。
「アナスタシアさん、これでエリンはお父さんから認めてもらえるのでしょうか?」
「国に認知され、人々にもエリンの存在を知ってもらうことができた。ダンジョンも高評価をもらえた。私が思う条件は満たせたと思っている」
「それならあとはアナスタシアさんに任せます。俺が協力できるのはここまでみたいですから」
「ああ、あとはリーンベル家の長女としての私の役目だ。そしてエリンがこちらの世界に帰る方法が見つかり次第、エリンを改めてリーンベル家に迎え入れるつもりだ」
アナスタシアさんの言葉に、俺の役目は終わったのだと安堵した。
でもそれと同時に、いよいよエリンが異世界へ帰ることを考えておかなければならないと、俺は静かに決意した。
なぜならエリンが本当に帰るべき場所は、俺の家ではないのだから。




