第44話 上司になってほしい剣聖
交流戦が終わった。俺としては探索者としてもダンジョンマスターとしても十分にいい結果が残せたんじゃないかなと思う。
最後に締めとして、リーンベル家とクアーク家の代表者からそれぞれあいさつがあるようだ。
まず登壇したのはクアーク家の代表者。人相の悪い若い男だ。ダンジョンマスターは貴族という扱いになるらしく、男の身なりも装飾が施されていて、よく知らなくてもそれなりにいい身分なんだろうということが分かる。
「私はクアーク家の長男、マークスと申します。みなさま、本日お披露目しました氷のダンジョンはいかがでしたか? 簡単そうに見えましたでしょうか? それとも難しそうだと感じましたでしょうか?」
意外にも丁寧な口調に俺は少し驚いた。
「ボスが普通すぎるというお声もあるかもしれません。しかしクアーク家は主張いたします。ダンジョンは探索中こそ最も危険なのだと。ボスはこちらが強くなればいずれは倒せるでしょう。ただ探索はそうもいかない。いくら強くても、ダンジョンの仕掛け一つであっさりと命を落とす。それがダンジョンという存在なのです」
言ってることはまともだ。噂はあくまで噂で、案外冒険者のことを考えていそうだな。
「それなのにも関わらず、リーンベル家が作った炎のダンジョンはどうだったでしょうか? 宝箱には罠の一つもありませんでした。確かに宝箱が燃えていたりボス戦であったり、初めて見る光景もあったかもしれません。ただそれが何だというのか。それならその宝箱は無視すればいいだけの話なのです」
ん? なんだか雲行きが怪しくなってきた?
「それにリーンベル家のダンジョンはバランスが良すぎる印象があります。天然ダンジョンは冒険者が探索しやすいようになどしてくれません。つまりバランスが良いということは一見素晴らしいことに思えますが、実は一番経験にはなりません」
選挙演説かこれは。相手方の批判しかしないじゃないか。まるでバランスが良いことが悪いみたいな言い方をするし。そんなわけないだろ。
「それに比べると我がクアーク家は常に冒険者のことを考えています。本日見てもらいましたように、罠や仕掛けに宝箱、さらには足場やモンスターの配置に至るまで、その全てが冒険者の経験となり、その結果多くの冒険者が命を落とさなくてすむのです」
まったく、よくそんなことが言えるな。俺は悪意すら感じたというのに。
「人工ダンジョンを探索して経験を積みたいとお考えの冒険者のみなさん、ぜひクアーク家が作り出したダンジョンにお越しください。その経験がきっとあなたを守ってくれることでしょう」
マークスとやらは最後に一礼をして、拍手とともに壇上から降りた。「ぜひお越しください」って、それじゃまるっきり商売じゃないか。
交流戦、引いてはダンジョンマスターとはそんなものじゃないはずだぞ。なんだか絶対に部下を褒めない上司を思い出してしまった。
画面にアナスタシアさんの様子が映し出されたけど、特に表情を変えたりせず静かに時を待つ。
ふとエリンを見ると、エリンはとても悲しそうな顔をしていた。クアーク家、許さん。
続いてアナスタシアさんの名前が呼ばれて、アナスタシアさんが壇上に上がった。
「私はリーンベル家の長女アナスタシアと申します。この度は我がリーンベル家が作りました炎のダンジョンを、皆様の前で披露する機会を賜り、本当にありがとうございます」
こんな真面目な剣聖姉さん初めて見た。いや、まあいつも真面目ではあったと思うんだけどね。俺が作ったダンジョンのテスト、毎回よく付き合ってくれたなあ。
「リーンベル家は代々ダンジョンマスターとして活動をして参りました。そしてその根底には、冒険者の誰一人として命を落とすことが無いようにとの思いがあります」
俺は少しの間だけどアナスタシアさんと交流をしてきた。そんな俺にでも分かる、これはアナスタシアさんの本心なのだと。
「ダンジョンマスターにはそれぞれダンジョンに対する信念があります。時にはそれが意地悪だと感じたり、時には刺激が無いと感じることもあるでしょう。ただそこには冒険者を守りたいという思いが必ずあるのです。そしてそれはクアーク家においてもきっと同じだと私は信じています」
アナスタシアさんの語り口は優しく、それでいてどこか力強い。剣聖という立場もあるかもしれないけど、それでも思わず聞き入ってしまう。
「冒険者のみなさん、いつも本当にありがとうございます。私は剣聖という立場ではありますが、みなさんを尊敬しています。私はこれからも剣聖として、ダンジョンマスターとして、冒険者のみなさんを精いっぱいサポートする所存です」
アナスタシアさん、いい……。上司になってくれねえかな。
「いつもありがとう」。その一言があるだけでどれだけ救われることか……。
「そして今日はみなさんにお伝えすることがまだあります。実は本日披露した炎のダンジョンは、私が作ったのではありません」




