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第1話 一人暮らしなのに部屋の中で声が聞こえる

 仕事が終わり今日も帰りの電車に揺られる。初夏だというのに外は真っ暗だ。それもそのはず、現時刻は夜の9時過ぎ。始業時間は午前9時。拘束時間は実に12時間にも及ぶ。


 一応残業代は出る。ただしほんのわずかで、とても費やした時間に見合っていない。サービス残業というやつだ。


 それなのになぜ辞めないのか? それは同僚に恵まれているから。俺にとってそれは大きな理由になっている。他にも駅から近いとかもあるし、それに毎日が12時間労働ってわけじゃないしね。


 つまりはそれなりに気に入ってるってこと。それにもし辞めたとして、次がいい職場になるとは限らない。


 今の時代、なんでもガチャに例えられる。就職ひとつとっても、会社ガチャ・上司ガチャ・同僚ガチャなど、全ての項目でSR以上を引くなんてことは、まさしく『レア』だろう。当然、今より悪くなることもあるわけで。今からでもめちゃくちゃ課金したい。


 そんなわけで今日も今日とて誰もいない、真っ暗なワンルームマンションの一室へと帰って来た。


 三田川みたがわ御影みかげ24歳。毎度のことだけど、この時だけは未婚・彼女なしであることが寂しく感じてしまうんだ。家に帰ると、明るい部屋で可愛い女の子がおいしい食事を作って待っていてくれる。

 そんな妄想、男なら誰もがしたことあるんじゃないかな。……俺だけか。


 自分が住む部屋の前に着くと俺は、俺以外触ることのないドアレバーを掴んで部屋の中へと入った。いつものように真っ暗で静かな空間がそこにある。


(誰かが俺の帰りを待っていてくれればなぁ)


 俺はすぐさま玄関にあるスイッチを押して部屋の明かりをつけた。そしてまずは風呂に入る。それから食事の準備を始めた。


 メニューはカップ味噌ラーメンだ。昨日は豚骨ラーメンだった。もうね、仕事終わった後に自炊する気にはとてもなれない。


 俺は一人用の小さなローテーブルの上に出来上がったラーメンを置いて、フタを取ろうとした。その時だった。


「ここはどこ……?」


 前にあるクローゼットから声が聞こえる。俺の声ではない、可愛い声。鈴を転がすような声というのだろうか。クローゼットの中に居るのだ、誰かが。


 それを開けてはいけないのだと直感が告げている。こういう時は鉢合わせしないようにするのが大事だと聞いたことあるような。


 そう思ったところで勝手に開いたらお手上げである。クローゼットが開かれて、そこから出て来たのはやっぱり人だった。


 その姿を見ると女の子だ。銀髪ロングに白い肌が目を引く美人。服装も煌びやかな白いドレスで、正直言ってめちゃくちゃ可愛いけど、不審者。俺は騙されないぞ!


 こうなってしまったなら仕方ない、気づかれないように少しずつ玄関へ逃げよう。

 ところがその計画は実行されなかった。なぜなら女の子がバタッと倒れてしまったから。


「大丈夫か!?」


 さすがに目の前で倒れられると心配になるというもの。俺は女の子に駆け寄った。すると何かを言おうとしている。


「お……」


「お?」


「おなか空いた……」




 俺の目の前では今、銀髪ロング美少女がカップラーメンを美味そうに食べている。なんだこの()は?


「なんですかこの食べ物はぁぁっ……! こんな、こんな美味しいものが存在していいんですか……っ!? ごちそうさまでしたっ!」


 カップラーメンを食べたことの無い人っているんだ……。まさかスープまで飲み干すとは。どうやらお気に入りに登録されたらしい。


「で、誰?」


 俺はまだ警戒している。空き巣じゃないとしても、この状況なら誰でもするであろう質問だ。


「こっ、これは大変失礼しました。私、エリン・リーンベルっていいます」


 テーブルの向こう側にいる女の子はわざわざ立ち上がり、深々と頭を下げた。そして座り直して、再び口を開く。


「実は私、お父様の言いつけにより家を出ることになりまして……。気がつけばあの中にいました」


 あの中とはクローゼットのことだ。それにしても『お父様』か。お金持ちのお嬢様なんだろうか? いやいやそれよりも! 家を追い出されて気がつけば俺の部屋のクローゼットの中にいたなんておかしいって!


「聞きたいことは山ほどあるけど、家を追い出されたってことで合ってる?」


「正確には追い出されたわけではないんです。私の家系は代々ダンジョンを運営しているんですけど、どうも私にはダンジョンマスターの才能が無いらしくて……。それにきょうだいの中で私だけが18歳になってもマスタースキルが使えるようにならなかったんです。それでお父様が家を出て修行するようにと……」


 おかしいな? 質問したのに疑問が増えまくるってどういうこと? それになんか聞いたことあるようなシチュエーションだな。


「ダンジョンっていうのは、モンスターが出てきたり宝箱があったりする、あの?」


「そうですよ。大体は洞窟型であることが多いですね。冒険者さん達の仕事場ともいえます」


 日本にダンジョンなんてあったっけ? 俺が知らないだけかな? ……ん? 冒険者?


 俺の脳内で急激にパズルが完成されていく。ダンジョン・スキル・冒険者。……ラノベ・異世界……?


「えっと、ここは日本なんだけど、君はここをどこだと思ってるの?」


「ニホン? えっ!? 聞いたこともない地名です。まだ未開拓の地域があったなんて……!」


 ああ、これは間違いない。俺はラノベやアニメで勉強してるから分かるんだ。


(この子は異世界から来てる! しかも追放されてるっぽい!)

読んでいただきありがとうございます!

一日三話は更新する予定です。よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
美少女がカップラーメンに感動するシーンがちょっと面白かったです笑
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