散歩とコンプレックス。
入社式を終えて仕事をするようになってから、空き缶拾いをする機会は減った。覚えることの多さと肉体労働の疲れで休みの日は何もしないことが増えていた。そうして私は再び怠惰な私へ戻りつつあった。
ある日の休日、たまたま歩いていた橋の上で中学生以来に友人と再会した。なんだか大人びていて初めは誰だか分からなかった。だが、声の抑揚と記憶の中にある顔を重ね合わせたことで思い出した。
お互いの近況や思い出話を語った後、彼は言った。
「全然変わってないね。」
その言葉を聞いた時、私は自分の鼓動が僅かに早くなったような気がした。彼にとってはなんの変哲のないありふれた会話であることは分かっていた。けれど私はその言葉を聴いた時、現状の私自身に対して不満と焦りを感じていたこと、そして忘れていたコンプレックスを思い出した気がした。
私のコンプレックスとは、この身長だ。同級生達に抜かされてなんだか大人になれずに1人だけ置いていかれるような気がして孤独感を抱いていた。社会人になってから、少しでも伸ばせないかと食事や睡眠を改善するように気をつけた。
働くようになってからは自分で稼いだ給料のほとんどをカルシウムやビタミンD、亜鉛などのサプリメントやそれらを多く含む食品に費やした。休日は外に出て日光を浴びるよう心がけ、夜の10時には寝れるようにした。それでも身長は伸びる気配を見せなかった。
1年間で全く背が伸びなかった私はもう身長が伸びないことを実感した。正直悔しかったが、受け入れる以上はなるべく意識しないよう普段から心がけていた。
だが、今思うとおかげで私は自分自身を客観的に見る機会をくれたと思っている。ぬるま湯にいつまでも浸かっていたらいずれ水となり風邪を引いてしまうように、今のまま何もせずに生きてゆくなら、人として何かを為し遂げる必要が必要だった。
私は自らに休日は必ず散歩をすることを義務付けた。人は、必死になれば意外と行動できるものだと実感した。初めは2時間ほど歩いただけで筋肉痛となり自分の運動不足を実感することとなったが、1ヶ月続けると足は慣れて次第にスピードも早くなった。
毎週散歩をする中で、先頭を歩く人をどのタイミングで追い抜こうかと考えながら歩いたり今、自分は最高な事をやっているんだと思うことでモチベーションを保つことが出来た。
散歩をしてから4ヶ月くらいだったある日、新たな目標が必要だと感じた。繰り返し同じ道を歩いたので飽き始めていたのと、何かを達成したいという欲求が芽生え始めていたからだ。
そんな私が目指したのは、ルートアプリ曰く片道3時間かかる県庁への散歩だった。 続く。
更新がだいぶ遅くなってしまいました。やはり1度描き始めた作品ですから、最後まで書かせていただきます。改めて自分の文章を読むと、読みずらさが目立ちますので気をつけながら頑張ります。