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そうなんだ。あの時は祟羅さんの肩越しから

「そうなんだ。あの時は祟羅さんの肩越しから見えたタンクローリー車の運転者が真っ黒い霧のようなものに覆われたかと思うとゾンビに角が生えた形相になって……。

 それから、暴走しだしたタンクローリーが炎上したように黒い霧に包まれて……。

 後は報道されているとおりです。タンクローリーは歩道を三〇メートル以上暴走。道路沿いのコンビニに飛び込み爆発炎上。一〇人の死傷者が出る大惨事になりました。

 竦んで動けない私に向かって、信じられない速さで飛びつくと私を抱えたまま、信じられない距離を飛んでかばってくれたおかげで私は傷一つなく助かったのに、祟羅さんの足は……」


 浦さんが見た真っ黒い霧というのは、前世の記憶から間違いなく瘴気だ。運転手は瘴気に取りつかれて鬼人になったと推測できる。


 だとしたら、狙われたのは俺だったかもしれない。陰陽道の力に引き寄せられて鬼や魔物が寄ってくることは間々あることなのだ。温羅一族は使役することはできないんだけど……。


 ただ、瘴気によって鬼人(今風だとキョンシーというほうが分かりやすいか)になるのは死人だけである。そして、キョンシーになると瘴気の鎧を纏った肉体は岩を砕き、大木をくびり引っこ抜く鋼の肉体と怪力を持つという。


 だから、浦さんに訊いてみる。


「それで、運転手の人どうなったの?」


「うーん、テレビだと心臓の持病を持っていたみたい。運転中に心臓発作を起したみたいだけど、黒焦げになったタンクローリーの運転席だけじゃなく、炎上したコンビニの中にも運転手は見つからなかった言ってました。」


「じゃあ、暴走の原因はよくわかっていないってことだよな……」


 浦さんはキョンシーを見たといっても、テレビの情報しか持っていないようだ。


 俺の推測だと、運転手は心臓発作で死んだ。そして、そのまま運悪く偶然できた瘴気だまりに突っ込んで、キョンシーに変えられた……。


 だが、キョンシーになった運転手があの爆発で死ぬだろうか? 偶然出来た野良キョンシーなら、その後俺を襲おうとするだろう。なにせ一千年以上、瘴気に晒され身に染みついている自覚がある。そして、キョンシーは瘴気に引かれるのだ。なのにキョンシーは姿を消した。


 じゃあ誰が……? キョンシーを使役できるのは、上位の陰陽師だけだ。あの場にキョンシーを使役できるほどの陰陽師がいた? 俺と陰陽師だ居合せる偶然なんてあるのか? もしかして、浦さんが陰陽師なのわけはなさそうだし……。


「浦さん、ほかになにか見なかった? 見たもの黒い靄だけ?」


「黒い靄だけですね。あんな気持ち悪いものは初めてです。見ただけで嫌悪を抱く物ってG以外にあるんですね」


「いやGと比較するのはどうかと?」


 瘴気を見るのが初めて? なぜ、見えるようになったんだ?


「だって、祟羅君の肩越しにみると、まるで望遠レンズを通して見たみたいに、一〇〇メートル以上離れた運転手が鮮明にみえたんですよ」


 俺をフィルターにして瘴気が目視できる? 俺が原因? 俺の霊力にシンクロした? 偶然、俺の前世の霊力が復活したタイミングだったから?


 まあ、俺はそういうのに詳しいと思われているようだし、不安にならないように軽く言っておこうか。


「俺なんて何回も見てますから(前世およびあの世(修羅道)だけど……)。あの黒い霧って瘴気って言うんです。瘴気に取り付かれると理性をなくして暴走するみたいですよ。

 まるで悪魔に取りつかれたみたいに。それを退治するエクソシストみたいな人がそこに居たりして?」


「そうなんですか? あっ、確かにそんな人が炎上しているコンビニの前にいたような」


「えっ、どんな人だったんですか?」


 思わぬ情報が聞けて、声に力が入る。俺の雰囲気が変わって浦さんは真剣に思い出そうとしてほほに手を当てて考え出した。


「確か、仙人のような恰好をしていたけど、衣装は真っ黒で気味が悪かったの。その人が何か手を組んでいると思ったら、コンビニに中から人型の紙がフワフワと飛んできた。それを見ていた仙人が歩き出したら人型の紙もその後について行いったの。

 その人、私の視線に気が付いたみたいで、後ろを振り向りかえって私と視線が合うとフッと消えてしまったの。幻でもみたと思っていたんだけど?」


「それは幻じゃなく現実だと思う。仙人か……、元々は道教の祖のことだけど……」

 竜宮院さんの話から、陰陽師と繋がりそうだと思わず呟いた言葉を浦さんが拾ったみたいで。


「祟羅さんて、そういうことにくわしそうですね。もしかして心当たりがあるの?」


「まさか、ちょっと霊感がある大学生ですよ。だから、俺の霊感に惹かれた出てきた悪霊を、俺の霊感に共感した浦さんにたまたま見えただけで、竜宮院さんのせいじゃないと思う。

 俺の方こそ、体当たりして浦さんに怪我をさせないでよかったです。だから、お互い様ですよ」


「そんなことないよ。ぶつかられた時、全然衝撃がなかったんだから!! 気を使って無理な体制で私を守ったでしょ。なにかお礼をさせてください!」


 衝撃がなかったのは、自己加速のために体重をゼロにしたからなんだけど……。物理法則を無視しているだけに、加重加速のたたら神の加護のことを言わないで説明するのは難しい。ここは話題を変えることにした。


「じゃあ、こういうのはどうですか? 俺も同士館大の文学部一年なんですよ。まだまだ入院が続きそうだし、その間の欠席した分の授業のノートを貰うっていうのは?」


「ほんとに同じ学部なの? 凄い偶然だけど、そんなことでいいの?」


「十分ですよ。浦さんみたいな美人とノートを貸し借りする仲ってだけで、友達に自慢出来る」


「――そんな美人だなんて‥‥‥」


 はにかむ浦さんは自覚がないのか、天然なのか? 全然嫌味がない。


「わかった。どんな授業を取っているの? 時間割を教えて?」


 俄然元気になった浦さんが前のめりになって矢継ぎ早に質問をしてくる。


 近い近い。ドギマギしながら彼女の質問に答えていると夕食が運ばれてきた。

 病院の夕食は早い。五時ぐらいには配膳が始まるのだ。


「あれ、もうこんな時間なんだ? 面会時間も過ぎちゃってるね。また、明日来るから!」


 彼女は立ち上がると病室から出ていこうとした。だけど、病室の所で振り返って。


「早く、元気になってね!」


 天使の笑みを浮かべて、俺に向かって手を振った。


 「お、おう」

 不意打ちをくらった俺はしどろもどろで、どもりながら返事を返した。

 すると、彼女があっかんべーをして出て行ったのだ。



ここまで読んでいただきありがとうございます。

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