「お前は誰だ?!」
「お前は誰だ?!」
「妾は十二烏がひとり、天后じゃよ。お前は妾たちが探しておった温羅鋼の特定武具の使い手か? 名乗らんでもよいぞ。妾にとって僥倖よ。その武具の封印か使い手の抹殺が今回の任務じゃて。死にゆく者には興味は無いんでな」
「俺が目的ならそこのお義父さんは解放してくれるかな?」
天后の足元に猿轡を填められ縛られて転がされている中年の男の解放を要求した。俺の発言にモゴモゴとなにか言いたそうなこの人が輝夜の父親に違いない。
「そうはいかんのう~。この男には八咫烏に入ってもらう予定じゃからのう。なかなか強情なんじゃが、そこの娘が魔物たちに凌辱されるのを見たら考えも変わるかものう」
そういうと天后は十数枚の呪符と式符を天井に投げ捨てた。
「次元転移!! 鬼獣奇誕!!」
呪符は天井付近に浮かび上がった六芒星の陰陽陣を舞台に舞い踊り、陰陽陣の輪が膨れ上がり湧き出る瘴気が天井を吹き飛ばし、どんどん濃くなっていく。
ヤバいよな。空が見えてるよ……。俺たちは社務所の中は危険だと判断し表に飛び出した。
十数の式符が瘴気を吸い、式符の周りに靄が集まり、その靄がどんどん濃く大きくなっていく。やがてその式符は角の生えた悍ましい狂犬になり、虎や獅子でも食い殺せそうな牙からはヌラヌラと涎が垂れている。
「ただの野犬も地獄の最深部の瘴気(反幽子)じゃと、ここまで悍ましくなるんじゃな?。只の勧誘のはずじゃったが予定外の雑魚が掛かるから……、もっと呪符と式符を用意しておけば良かったんじゃが」
ふざけた話だ。これだけの凶悪な気配を纏った鬼犬、修羅道でもめったにお目に掛からなかったぞ。
サファリパークでみたライオンより一回り以上大きく、角が生え口が裂けた土佐犬ぽいのが一四匹。周りを囲まれる前に速攻でケリを付ける。
俺は破壊された出口の襖戸から飛び出してくる鬼犬に向かって加速する。ヌンチャクのように三辰を振り回し、すれ違いざま鬼犬の頭を粉砕する。さらに返す棍で鬼犬の喉元に刺突し、二匹を仕留めたところで残りの鬼犬が一斉に崩れた壁を飛び越え、何もない天井から襲ってきた。
出口を抑えたつもりだったが……、標的を輝夜に変えたか?!
左右の壁を飛び越えた鬼獣は一二匹。
左右に六匹ずつ。俺は右に壁伝いに跳び、壁を飛び越えようのする鬼獣と空中で縺れる様な攻防の中、アンチグラビティで空中でも自由に動けるアドバンテージを十分いかして二匹を仕留めた。
仕留めそこなった四匹から輝夜を庇うため、輝夜を背負う場所に着地して、左手に温羅一文字を鞘から抜き正眼に構え、ヌンチャクのように星辰を右手に持ち日辰と月辰が一体になった棍を高速で振り回して鬼獣と睨み合う。
しかし、俺が着地した反対側には六匹の鬼獣が半円状に輝夜を囲むように陣取っている。その距離約五メートル。この鬼犬なら一足跳びに輝夜に襲い掛かれる距離だ。
この鬼犬にいっぺんに襲い掛かられたら……。輝夜が爪牙にズタズタにされ、獣臭い涎まみれになって転がっている姿が頭の中に浮かんだ。
ヤバい、詰んだ……。どこまで輝夜を守って戦える?
そして、震える手で温羅一文字を持った輝夜はどこまで自分を守ることができるのか? そもそも心得のないものが真剣を振り回せば危ない。悩みの種がさらに増えることになるとは……。置いてくるべきだったか……。
ドドドドドーーーーーーーン!!!!
俺の後悔はそこで強制的に閉じられた。
空から人が降ってきたのだ。輝夜と鬼獣の間、鬼獣は素早く後方に跳んで新たに登場した人を警戒しているが……。
「なんか凄い瘴気が集まっていたんで、飛んで来たんやけど……、一体なにが起こってるんや?」
空から隕石のように落ちてきたのに、傷一つなく、ひょうひょうと俺たちに説明を求めるメガネを掛けた大学生ぽい男。
凄い速度で空から落ちてきた?にもかかわらずクレータも出来ず、無重力下で行ったような所業。間違いなくこいつはたたら神の加護を持つ温羅一族の末裔。
「その緊張感のないゆるんだバカは影か?」
「バカちゃうねんパーでんねんって、失礼やなこの知的なメガネが見えんのか? つっこまんでええで! ゆっくりしてる暇あらへんから!目の前の鬼獣はシャレにならんで」
一人ボケつっこみで、俺の質問には答えなかったが奴は影に違いない。だが、温羅の専用武具をまだ手に入れて無ければかなり苦戦する。まあ、影を生贄に輝夜とこの窮地を脱すればいいか。
「お前、もしかして陣か? ろくでもないことを考えてるんやろ?顔みたらわかるわ? まあ、ええわ、そこのべっぴんの彼女、危ないから、それをこっちに貸して?」
空から落ちてきた不信な男に直刀を渡せと言われて、輝夜は俺の方に目を泳がせた。俺はその瞳に頷いて見せた。
「お前って二刀流だったっけ? そら、これも使え!!」
俺が持っている直刀も影に投げ渡した。輝夜が差し出した直刀と合わせて二本、どちらも腰のバンドに差し込むと、二本とも鞘から抜いて、ポケットから小瓶を取り出し、中に入っている黒い液体を刀の切っ先へと垂らした。
なるほど、すでに影戯を手にいれていたか? 影戯は影のみが使う温羅が鍛えし液体金属、使い手は影のみという希少武具だ。
そして、液体が垂らされた直刀を先端から自分の影の中にズブズブと差し込んでいく。いや、あれは影に溶け込んでいくという表現のほうが近い。
そして、影に溶け込んで刃先が消えた。それでも、影はまるで刃があるように逆手に柄を構えると、下段から袈裟懸けに切り上げた。
「秘剣、影戯暫舞!!」
距離を取り唸り声を上げていた鬼獣の首が鬼獣の影から生えた刃で切り落とされ転がった。
秘剣顕在だな! 首を切り落とされた鬼獣はなにが起こったかわからなかっただろう? 怒り狂った鬼獣が一斉にとびかかって来たが、俺は目の前の鬼獣の到達時間の差のコンマ数秒の違いを見切って、踊るようにヌンチャクで頭を砕いていく。
俺が跳んだ右側に陣取った六匹の鬼獣をたたら神の加護アンチ・グラビティ・ベクトルシフトで加重加速したヌンチャクで粉砕していく。
それとほぼ同じタイミングで、影も輝夜に襲い掛かった六匹目の鬼獣を、輝夜の影から生えた刃が両断にするところだった。
影戯、それは影に潜み、影から斬撃を放つ温羅一族が鍛えし液体、温羅鋼の刃。温羅が錬成した武具の影となり質量ゼロ、影から影への移動速度無限という瞬間移動を可能にした脅威の武具だ。
ただし、その移動範囲は半径一〇メートル、視線の先へとしか移動できない欠点がある。




