表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/55

夢の中の俺は藍染のような薄汚れた作務衣を着て

 夢の中の俺は藍染のような薄汚れた作務衣を着て、普段は鉄鉱石を掘り出している鉱山の入口付近の広まった場所にいた。目の前には上等な料理が並び、酒樽が次から次へと空になる。


 ああっ、これは俺たちの願望が実現する祝いの宴だ。


 そこにいたのは俺だけでなく、同じような恰好をしたものや、平安時代の貴族のような恰好をした者など、髪型ももとどりというちょんまげを立てたものや、俺なんかは長髪を後ろで荒縄で縛っただけだ。


 そういえば、作務衣も腰のあたりを荒縄で縛っていて、とても現代の恰好とは思えない。時代劇で見る下層民のような恰好をしていた。


「いよいよ、我らの時代がやってくる!」


「長く辛い時代だったが、我らのスメラミコト様が天下に姿を現し、天皇陛下と肩を並べて祭政を執り行うことになるのじゃ!」


「いやあ、めでたい!」


「わしらも、スメラミコト様に従い、この現世うつしよを跋扈する悪鬼や邪鬼、魑魅魍魎を討伐するのじゃ!!」


「「「「「おおっ!!!!」」」」」

 目の前の料理に舌鼓を打ち、周りはみんな興奮していた。


 それは俺も同じで、悪鬼邪鬼を生み出す元凶である瘴気を祓える現人神あらひとがみである裏天皇と呼ばれる尊き人が、表の天皇と肩を並べ祭政をべることになるお披露目の宴を開くと、裏天王をあがめる俺たち湯羅うら一族がここに集められているのだ。


 酔いが回って興奮した中、武装した一団が到着した。


 有象無象の一団の中から、ひときわ身分の高そうな人物と護衛するように取り囲む三人の武人。彼らを以前見たことがある。


 あれは、近隣の村に住む犬飼健いぬかいたける、猿飼部の楽々森彦ささもりひこ、鳥飼部の留玉臣とめたまおみと言ったはずだ。


 この三人は、後に昔話桃太郎(桃太郎のモデルである吉備津彦命と吉備真備は同一人物)の伴をした家来の犬、猿、雉に言い換えられて語り継がれているのは、俺が前世を思い出した後で知った話だ。


 そして、その集団が俺たちを左右に割ると、その割れた道を通って高貴な身分の男が正面の壇上に上がった。

 

「皆のもの! よく参られた! わしが三条大臣の吉備真備きびのまきびだ!」


「「「「「うおおおっーーー!!」」」」」


 男の名乗りに周りから歓声が上がった。


 吉備真備、わが吉備国(古代の岡山の地名)の長にして、二度も遣唐使となり唐の儒教や道教の学を収め、陰陽道の開祖にして大和朝廷の天皇に使える側近であり、俺たちに温羅一族にとって絶対的なヒーローだ。

 そんな男の凱旋帰国だ。

 

「わが一族に聖武天皇から天皇を守護する集団を作るように勅命が下った。天皇は今、藤原家へ権力が集中することを憂慮されておられる。また、藤原家が天皇にとって代わるのではないかと危惧されておる。


 わしら吉備一族は京都で加茂一族と名を変え地下に潜り、裏から天皇を支える結社「八咫烏陰陽道やたがらすおんみょうどう」を設立することにした」


 当然、今までも裏天皇と呼ばれる尊いお方を影から支えてきた温羅一族も「八咫烏陰陽道」に含まれることになる‥‥‥。


 そう信じて熱狂していた俺たち温羅一族は、吉備真備が発した次の言葉に冷や水を浴びせられたように静まり返った。


「しかし、あのこざかしい藤原氏は祭事をべる裏天皇とえにしを結び、わが吉備一族の力を削ごうとしておる。


 なにせ、裏天皇は祭事を通して瘴気をお払いになる力をお持ちのお方……。瘴気から生まれる鬼を使役し、瘴気を贄に呪う呪詛を生業にするわれら吉備一族にとって邪魔な天敵だ。


 当然、瘴気を祓う破邪の刀鍛冶を生業なりわいにし、裏天皇を守護するうぬら温羅どもも吉備一族そして八咫烏陰陽道の朝敵ぞ!!」


 温羅一族が放心状態から頭が冷え冷静さを取り戻し、心が怒りに塗り潰される刹那の間は、真備に同行していた陰陽師たちにとっては十分な時間だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ