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55話 好きです

「では私はこちらで」


 笑顔でアティーテ特使は去っていった。

 気まずい。

 オレンの視線が私に降りる。

 グレーの瞳の輝きがくるりと一周した後、嬉しそうに細められた。


「ミナ」


 目元を赤くして一際甘い声で私を呼ぶ。

 どう応えようかと思った瞬間、丁度王陛下が来て挨拶となった。


* * *


「ミナ」


 陛下の挨拶で時間があいたからか、オレンはいつもの落ち着きを取り戻していた。私も溢れそうな鼓動を抑えられて助かった。


「私と踊ってくれないか?」

「……はい」


 オレンの手をとり踊る多くの人たちの中に紛れる。

 音楽に合わせてステップを踏み始めたら、オレンが目を丸くした。


「……ミナ、うまくなってる」

「ありがとうございます。実はですね……コルホネン公爵令嬢が指導してくれまして」


 かなり厳しかったけど。よくそんなんで社交界来てたなレベルだったらしい。コルホネン公爵令嬢ってば何度かキーってなってた。声にならない声って結構種類あるよね。


「妬けるが、今回は目を瞑ろう」

「妬けるって女性同士なのに」

「同性であろうと関係ない」


 コルホネン公爵家とはそこそこ付き合いのあるオレンだからこその思いかもしれない。


「でもいいじゃないですか」

「え?」

「おかげでやっとオレンと踊れました」


 二度も踊らずに終わっている。だから今日こそは踊ると決めた。


「確かに」


 嬉しそうに目を細める。


「やっとミナと踊れた」


 嬉しいと言ってくれた。小さく「私もです」と返したらきちんと聞こえていて目元を赤くしながら微笑まれる。

 腰にそえられた手にぐっと力が入り引き寄せられた。


「そんな可愛い顔をされたら我慢できない」

「っ!」


 耳元でそんな台詞囁かれたら恥ずかしさに色々弾け飛びそう。破壊力! 本当破壊力!


「オレン、服破けますよ?」

「はは、それは困るな」


 全然困ってなさそう。


「もう……」


 楽しい時間はあっという間で、ダンスが終わるとオレンは私の手を引いた。


「ミナ、私は」

「オレン!」


 覚悟を決めた。元騎士ペッタやヨハンネスと向き合った時、自分の想いをきちんと認識した上で、オレンを選ぶと決めた。

 先に進む覚悟ができた。


「行きたい場所があるんです。後で時間をもらえませんか?」

「必要なら今がいいんだが」

「でも御挨拶とかあるんじゃ」

「いい。ミナが最優先だ」


 ダンスをしただけで会場から離れる。進むのは騎士舎の方だ。


「ここです」

「ここはいつもの」


 絵を描く部屋だ。すっかり過ごしやすく模様替えをしてしまったから絵のための作業部屋になっている。


「オレンに見せるなら今日だと決めてました」


 窓際に布をかけて飾ってあるキャンバスは今日この日のため。晴れているから窓から入る月明かりで充分見える。

 オレンがキャンバスの前に立つのを見て布を払った。


「これは……」

「はい、完成しました」


 オレンの肖像画だ。

 私と彼の関係の終わりだと思っていた最後の絵。

 けど。


「この絵を最後にしたくないんです」

「ミナ?」


 緊張でごくりと喉がなった。折角きれいなドレスを着てアクセサリーで着飾って化粧もばっちりなのに格好つかない。


「私、オレンが好きです」


 月明かりでしっかり彼の表情が見える。視線は逸らさなかった。


「責任はとらなくていいです。私はただオレンの気持ちがほしい」


 だから今もまだ私のことが好きなら応えてくださいと、お願いする。


「当然だ」

「オレン」


 光に照らされたグレーの瞳に力強い輝きが見えた。


「私はミナが好きだ。この気持ちはこれからも変わらない」

「オレン」

「私にとって特別なんだ」


 仕事をする時間も絵を描く時もお茶をしてても、社交界を伴ってる時も全て。


「これから隣にいるのは君がいい」

「はい」


 色々早くて飛ばしすぎてるとは思うが、とオレンがゆっくり言葉を紡ぐ。


「結婚してほしい」

「はい」


 揺るがない私の返事に少し息を飲み、噛み締めるように瞳を一度閉じた。

 ゆっくり瞼をあげ、大きな手がゆっくり私の頬を包んだ。


「ここに触れてもいいだろうか?」

「え?」


 オレン指が私の唇に触れる。


「え、そんな」

「ずっと我慢してた」


 だからいいだろうと熱の灯った瞳が射貫く。

 そんな風に言われたら断れない。


「あ、」


 微かに頷くのを見逃さず、オレンは満足そうに微笑んだ。細められた目はそのまま閉じて近づいてくる。

 緊張と恥ずかしさに鼓動がうるさい。心臓が飛び出しそう。


「オレ、ン」

「ミナ、」


 パアアァン!!


「……」

「……」


 またしてもやってしまった。


「……」

「……すみません」


 かなりいい雰囲気だったのに。


「いや……これもミナが私を愛してるからなのだろう?」


 至近距離のままオレンが楽しそうに笑った。

 さらに距離を詰めようと近づいてくる。


「ま、待って! 服破いちゃう!」


 さっきは上半身だけだったけど、間違いなく次は下半身を破く自信がある。それはだめだ。さすがに真っ裸はよくない。


「構わないさ。今はミナに触れたい」

「ひっ」

「想いを通わせた証がほしいんだ」

「っ!」


 止められなかった。私もオレンからの口づけを望んでいたから。


「目を閉じて」

「……」


 月明かりに祝福されながら、私たちは想いを交わした。

たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。

やっと踊れました~これは回収したかった部分なので満足。そしてお約束のパアアアァン!!(笑)

明日更新で完結です!最後までお付き合いいただけると嬉しいです!

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