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36話 魔眼が治りません!

「ヘイアストイン男爵令嬢の絵に買い手がつきました。本契約を交わし売りに出したいのですがよろしいでしょうか?」

「それ言っちゃう?!」


 意外だったのか一瞬言葉を失うオレンに、コルホネン公爵令嬢が続けた。


「窓から見える王城の景色と、絵を描く作業場を描いたものの二点ですわ」


 二点も!


「成程。確かにあの風景画は良かった」

「ええ。光の入り具合が特にいいと」

「その通りだ。特に室内の画は光の明るさと室内の暗さの明暗が絶妙で、少し褪せた色合いを選んだ暗がりが光を引き立たせていた」

「買い手もそのように仰ってましたわ」

「中々見る目がある方だ」


 オレンとコルホネン公爵令嬢が意気投合している。

 私、蚊帳の外で寂しい。というか許可とるの私じゃないの?

 あと褒められ慣れてないからこれ以上は恥ずかしい。オレンに褒めてもらえるようになったから、だいぶ受け取れるようになったけど、こんなに褒め続けられると身が持たない。


「やはりミナの絵は秀逸だな」

「なにより本人の描きたいという想いが伝わってきました」

「分かるぞ、コルホネン公爵令嬢。ミナの絵はミナが描いてて楽しいと思っている気持ちが伝わってくる」

「もうやめてください!」


 恥ずかしい。気持ちが分かる絵ってなに?!

 悲鳴を上げる私にコルホネン公爵令嬢が「ヘイアストイン男令嬢」と改めた口調で呼んだ。


「私が間違っていました。私は貴方に冷たく当たる事も多かったですが、これからは貴方も貴方の絵も応援し支援させて頂きたいのです」

「い、いえ、仲良くして頂けるならそれだけで大丈夫です!」

「ミナ、君には確かな才能がある。コルホネン公爵令嬢は絵に詳しい。これからは安泰だな」

「そこはいいんですって」

「だが、私以外の人間の手に渡るのは些か妬けるな。ミナの絵が認められるのは嬉しいんだが、どうにも気持ちというのは難しい」

「大丈夫ですわ、ヴィエレラシ侯爵令息。女性はそのぐらい自分に夢中になってくれる方が喜びます」


 和やかにおさまってきたけど違う。そういう方向じゃないんだって。


「では後程ヴィエレラシ侯爵令息に契約書を送ります」

「頼む」

「ちょー?!」


 せめて契約書の送付先は私じゃなくて?!

 再度抗うも貴族の力恐るべし。抵抗敵わず、私の風景画は売られていった。



* * *



「すごいやる気」

「コルホネン公爵家は芸術に強いからな」

「だんちょ、」


 視線だけで何を言いたいのか分かる。


「んん、オレン。いくらコルホネン公爵令嬢の態度が軟化したとはいえ、私に確認取らずに売るってどう思います?」

「いいじゃないか」


 コルホネン公爵令嬢と別れ、今は二人で中庭にとどまっている。


「素性は隠してくれると言っていたな。多くの人間に知られずに済む」

「そこの配慮は助かりますけど」


 売るのは揺るがないんだもの。

 オレンは微笑んだ後、真剣な表情を見せた。大事な話だと悟る。


「ミナ、セモツ国との戦いは終わった」

「はい」

「魔眼の回復薬を」


 そうだ。

 私のお願いで延ばしていた魔眼を治すための薬を飲まないといけない。

 けどそれは魔眼を通じて続いていたオレンとの関係の終わりでもある。


「キルカス王国に体調不良になる魔法薬が出回ったのも全てセモツ国が原因だったな」

「そうですね。ルーラという令嬢が言葉巧みに広めたっていう」


 たった一人の女性がキルカス王国を危機に陥れたと言ってもいい。

 魔法薬が流通し、ラヤラ領で監禁事件を起こして他国との戦争の引き金まで引こうとしていた。他の国々だって彼女が絡んでいる。


「彼女の仲間……残党処理ももうすぐ終わるが、本当に恐ろしい手腕だった」


 ルーラという偽名の令嬢は捕まった。

 今は海を渡った大陸の大きな裁判所で罪状を言い渡されるのを待っているところだろうか。

 根本から全て解決してしまった。もう逃げることはできない。


「オレン、私今日持ってきてるんです」


 回復薬を見せる。

 オレンが読めない表情で私の手に持つ小瓶を凝視した。


「今、飲むのか?」

「はい」

「ミナ」

「?」


 少し言葉に詰まらせて遠慮がちに名を呼ばれる。


「魔眼が治っても、私の肖像画は最後まで描いてくれないだろうか」

「!」


 終わりじゃなかった。

 もう魔眼の影響がなければ会うことも描くこともないと思っていたのに、あっさり覆される。


「だめか?」

「……いいえ!」


 私も描きたいです。

 はっきり目を合わせて伝えると嬉しそうに目を細めた。グレーの瞳が滲む。


「ありがとう」


 お礼を言うのは私の方なのに。

 甘く微笑むオレンを見れなくなって、さっさと薬を飲むことにした。


「いきます!」

「ああ」


 ぐいっと一気に流し込む。

 甘めの果実水みたいな味だった。


「どうだ」

「……特に実感は」


 オレンの胸元を見る。

 あれ、筋肉ステータスが出てこない?

 もしかして治った?


「すてえたすとやらが見えなくなったか?」

「えっと、そう、みたいです?」


 全体バランス10でおめでとうの画面が出てこない。

 ということは魔眼は解消したってこと?

 この美しい腹筋に大胸筋、大腿二頭筋や僧帽筋ともさようならってことか……とても淋しい。

 できれば最後に直で見てから飲めばよかったかな?

 肖像画だって描けるのは嬉しいけど、脱ぐのは確実になくなる。肖像画と言いつつ、オレンの美しい筋肉を見るのが楽しかった身としては辛い。

 いけない。煩悩を優先するシーンじゃない。けど。


「もう見れないんですね」


 と、思ったことを口にした直後だった。


「ミ」


 パアアアァン!!


「ナ……?」

「……」


 社交用の立派なお召し物 (上半身)が砕け散った。

 びりびりに破れた布切れがひらひらと舞って足元へ落ちていく。


『全体バランス10! おめでとうございます!』


 出てる。ばっちり見えてる。


「……」

「……」

「……」

「オレン、よく聞いてください」

「ああ」

「魔眼が治りません!」

たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。

言わなくても分かるよ、というオチ(笑)。そう簡単に魔眼解消したらつまらないですよね!(主に作者が)ラッキースケベは大事!ラッキースケベは空気と同じぐらい必要不可欠!

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