32話 私がなにをしようがヨハンネスには関係ない
「そういえば、以前描いた風景画はまだ持っているのか」
「はい。事務室の物置に保管してます」
当初の予定だった肖像画を描き始めているけど、その前に窓から見た景色と部屋の中の風景画を描いた。
二つの風景画はラヤラ遠征からのセモツ国との戦いでバタバタしてて事務室の物置のはじっこに置いたままだ。まあ物置自体滅多に開けないから見られることはないだろうし、光も入らないから保管場所としては最適だろう。
「お水持ってきますね」
「ああ、ありがとう」
今描いた絵もしまっておかないと。
少しどころか結構抱きしめられた後、恥ずかしさを残しつつ軽く描かせてもらった。
今までの手当てや雑務の緊張がほぐれてたのはオレンの目論見通りなのだろうか。描いた後はすっきりしていた。
「あ、そんな時間……」
物資の一時置き場に騎士と男性が話し込んでいた。
物資が運ばれる時間も概ね決められていたけど、戦禍に巻き込まれ予定通りにいかない。この時間になってやっと予定通りになってきた。
運び手と騎士を見ると、一人は若手の……あ、噂に名高い恋多き騎士のペッタ・ヴィルタネンさん。もう一人は……。
「ヨハンネス」
王都で会った昔馴染みのヨハンネス・マケラがいた。物資の箱の側にいるあたり、ヨハンネスが運んできたのね。
二人は少しして話を終え別れる。
もう、ヴィルタネン騎士ってばそのまま物資の置く場所指示して去ってよ。
あまり会話もしたくないけど、こちらを向けばすぐ目に留まる場所に私がいることと、こういった雑用も私がやってきた手前案内せざるを得ない。
「物資運搬の方ですか?」
「あ、はい。医療物資をお持ちしました」
「では、こちらに重ねて置いてください」
「ミナ?」
まあ誤魔化せないとは思っていたけど秒でばれた。
物資の提供元は違うけど運ぶのを任されたらしい。
「お前なんでこんなとこいんだ?」
そんな人手不足なのかよと言われる。自ら志願したと言ったら驚かれた。
「あの団長に取り入るにしたってそんな時間ねえだろ」
「取り入るつもりなんてない」
「なんだよ」
純粋に手助けになればという考えは理解できないらしい。
こっちが、なんだよ、よ。
さっさと終わって水持ってオレンのところに戻ろう。
「受領票渡すから帰って。物資が他にあるなら早く運んでもらえる?」
「待てよ」
手を伸ばしてくるのを避ける。手元が乱れ、ばらつく書類の中に紛れさせたさっきのスケッチを見られた。
「お前まだ絵描いてんのか。しかもこんな場所で?」
「あんたには関係ないでしょ」
「いい加減にしておけよ。お前には無理だっての」
何が無理なの?
プロとして描いていくこと? 私はプロになるために描いてるんじゃない。
お金? 最初は画材をオレンに出してもらったけど、自分でやりくりしてそこから捻出できる。
「……身の程わきまえろっての」
身の程って?
あの頃の、昔の私はヨハンネスの言う通り"私は描いてはいけない立場"だと思っていた。
けど今は違う。誰が絵を描いてもいいはずだ。
「身の程ってなに?」
「そりゃあ爵位が低い奴がやるもんじゃなくて、もっと高尚な」
「誰が何を描こうが自由でしょ。そんな制限ない」
「いや、お前程度は」
「趣味でやってることに干渉しないで」
「そんな金のかかる趣味やめとけって」
「お給金やりくりしてやればできるわ。実家にも送金した上でね」
淡々と応えた。
最後に受領書を押し付けるとヨハンネスは不快だったのだろう、眉間に皺がよる。
「何様だよ」
「私がなにをしようがヨハンネスには関係ない。次の物資供給があるから早く出てって」
「このやろう、ふざけんなよ」
「すまないが」
聞き覚えのある穏やかな声に少し不穏さが混じっていた。
後ろから聞こえた声に顔だけ向けると、オレンが険しい顔をしてヨハンネスを見据えている。
「団長」
たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。
いいぞ、モラ男にもっと言い返してやれ!とヨハンネスが出るたびに思ってます。ガチでうざいですよね~放っておいてって思いますもん。