24話 絵を描くのが楽しい
「ソレペナ王国とは和解で話が進んでいる」
「よかったです」
南端ラヤラ領で監禁されていた魔法大国ネカルタスの王女が無事ソレペナ王国へ渡った。
メネテッタバ辺境伯の処分は相当な厳罰だった。国家反逆罪なのだから当然とも言える。けどこれで終わりではない。南端ラヤラの領民には衝撃と動揺が走り、また管理する人間が新しくなったから混乱している。安定化までは少し時間がかかりそうだ。
「ソレペナ王国とのやりとりが途絶えたのが気になるところだが」
「そうですね」
和解に向けたやりとりで具体的な会談日を決めるとなった。そこでソレペナから返事が来ない。
「だが今はソッケ王国からの宣戦布告が問題だろう。早急に対応せねばならない」
ソレペナとのことで忙しいのに、前触れもなく西の隣国ソッケから宣戦布告文が来てしまった。
ただ王印はないし、ソッケ国王陛下が使う特殊用紙でもない。使われていた用紙が第二王子のものだから彼が独断でやったのではないかとのことだった。
「最近ソッケ王国は荒れてますものね」
「国内が安定していないのに外に向けて動くなど、さらなる国の混乱を招きかねない」
ソッケ王国は第二王子の婚約者が婚約破棄・国外追放になった。婚約者が国政を担っていたこともあり、不在になって政務が回らなくなったために、かなりよくない状況だと聞く。
新しい婚約者はいるらしいけど、国政の一つもせず遊び歩いているなんて噂もあるぐらいだ。
「本当にラヤラ領に来ていた令嬢はソッケ王国の令嬢なのでしょうか」
「目撃証言だけだから弱いな」
ソッケ王国第二王子の新しい婚約者がラヤラの違法建築や海賊の手引きでキルカス王国に来ていたという証言が多数でた。理由も不明だし、そもそも接点もない。なぜぽっと彼女が出てくるのだろう。でもネカルタスの王女も言っていた。新しい婚約者でほぼ確定なのにいまいちしっくりこない。
「それで、どうだ?」
「もうすぐですよ」
仕事の話をしつつも絵を描く時間はきちんと確保していた。
小さなキャンバスだけど肖像画らしく上半身きちんと描き始め、今日完成する。
「できました」
オレンが立ち上がりキャンバスを覗く。
誰かに見られるってだけでとても緊張した。久しぶりの絵、学校で習ってもいない独学で、ブランクもある。
心臓のドキドキが耳に響く中、見上げてオレンの様子を窺った。
「……」
「……オレンさん?」
じっと絵を見つめる彼を不安げに見上げた。
口元に手を当て「ああ、すまない」と小さく告げる。
「私は絵に詳しくないが、ミナの描いた絵が素晴らしいのは確かだ」
真面目に応えてくれた。
「何故絵描きにならなかったんだ? この絵なら買い手がつくだろう。絵に詳しくない私だって買えるなら買って飾りたい」
「そ、そんな……」
べた褒め過ぎる。恥ずかしさに視線を逸らした。
「講師をつけるか?」
「え?」
「私の伝手で絵を教える人間を紹介する。ミナとの描く時間が減るのはおしいが、君が絵を学びたいなら、」
「いえ」
そんな頼めるわけない。講師にお金がかかるのは当然だし、なにより。
「オレンさんとの時間が減るのは嫌です」
目が少し開き、その後目元を赤くして細めた。
わ、嬉しそう。薄いグレーの瞳が水彩絵具のように滲む。
「そうか」
途端自分の発言に恥ずかしくなる。
「あ、その、魔眼のことがバレても困りますし!」
「確かにそうだな」
「趣味の範囲でいいんです!」
「分かった。いつでも売りに出せるよう手配するから、その気になったら言ってくれ」
オレンは絵を描くことをこんなにも受け入れてくれる。
私が絵を描いてもいいんだと思えた。
「次はこの大きなキャンバスで描いてみます」
「ああ、楽しみだな」
褒められた。
始めた頃から、スケッチやデッサンの頃から褒めてくれていた。
毎日すごいやら素晴らしいやら言われていると自分の気持ちも変わってくる。
絵を描くのが楽しい。絵に対しての気持ちがこんなに変わるなんて今まで考えてもみなかった。
「これを置いたら、そちらに伺います」
「分かった」
今回の絵は寮の自分の部屋に置くことにした。
次に描く大きな肖像画は欲しいと言われているけど、素直に頷けるほどの自信はまだない。
それでも気持ちが変わったことは大きい。
描き終えて分かった。描くのが楽しいし、描いてもいいんだと、描きたいと思える。
「あら」
「コルホネン公爵令嬢」
たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。
ミナのマインドがあがってきましたかね~。良い傾向です。いっそ服がびりびりになった瞬間とか描いてほしいものです。北斎はこの瞬間って画が描ける人物だったらしいので、ミナもこれに続いてくれれば(笑)。