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23話 目の前で社交用の良い服がはじけ飛んだ

「やめたほうがいい」

「え?」


 コルホネン公爵令嬢の背後からぬっと大きな手が出てきて彼女のグラスを奪った。

 あまりに近かったからだろうか、声も出ず驚いたまま固まる彼女に見向きもせずオレンは私の隣に並ぶ。


「待たせてすまなかった」

「い、いいえ」

「ミナ、これにあの香料が入っているのか?」


 我に返ったコルホネン公爵令嬢が「ヘイアストイン男爵令嬢の世迷いごとを信じるおつもりですの?!」とオレンに訴えた。


「ミナ」


 彼は私と目を合わせ私のこたえを待つ。コルホネン令嬢の言葉もこれ見よがしに参戦ようとする他の令嬢もオレンは一睨みで一蹴した。


「以前もミナが止めてくれたから私は毒を飲まずに済んだ」

「……信じてくれるんですか?」


 ふっと目元が緩んで微笑んだ。


「当然だ」


 嬉しかった。

 たった一言があたたかく、じわじわ頬に熱がともる。

 オレンのグレーの瞳が緩んで蕩けて、柔らかさがさらに増した。

 信じて、いいんだ。


「……あの時と同じでした。このお酒には香料が入っています」


 甘い匂いと舌が痺れるのは前と同じ。あとはこの魔眼が教えてくれた。


「ではコルホネン公爵令嬢。私はミナとこの酒の分析に医師団へ行きますのでこちらで失礼する」

「え、あ、お待ちになって」

「失礼」


 オレンが庇うように間に入ってくれて、自然に手を取ってエスコートをしてくれる。

 その時、私にだけ聞こえるようボリュームを抑えた声が届いた。


「他に同じようなものはあるか?」

「!」


 内密に済ませたいんだと悟る。あまり大きい話になって場に混乱があっても危険だ。

 会場を去る流れで周囲に視線を送る。

 いくつか同じように見えるグラスがあって伝えると会場を出たところで騎士に指示を出した。回収してくれるそうだ。


「……よかったです」

「まさか表彰式にまで絡んでくるとは思わなかったが」


 けど王城の中には既に入ってきている。なにもおかしくはない。


「ミナは大丈夫だったか?」

「え?」


 グラスの中身を一口飲んでいることもだけど、コルホネン令嬢とのやり取りが不穏に見えたことが特別気にかかったらしい。


「大丈夫ですよ! ほら、こういった場に来ないので気遣ってくれたんじゃないかと思います」

「……本当に?」

「は、はいっ! 本当に大丈夫なのでお気になさらず」


 むしろすみません。主役を会場から追い出してしまったかも。

 と加えてもオレンは気にするなと返し、私とコルホネン公爵令嬢との会話に納得のいかない顔をしていた。初めから聞かれていたら言い訳は難しいけど、これ以上言及がなかったのでほっとする。


「分かった」

「はい」


 グラスごと医師団に渡し、結局会場に戻るのはやめた。

 ここでお開き、ということで私たちは騎士団の寮へ向かう。


「あ、ダンス一度もしてないですけどよかったんですか?」

「そうだな……ミナと踊れなかったのは悔やまれる」

「またそんな」

「ダンスは次に踊ればいい」


 次って。

 嬉しいけど勘違いする。

 ただでさえ、いつもの騎士服と違ってどきどきするのに、さらにときめかせるなんてさすがだ。

 次もドレスを着て一緒に社交界に行けるのだろうか。

 キラキラした場所でオレンと踊る。想像しただけで胸がいっぱいになるけど、あくまでリップサービス。本気にしちゃだめ。


「ま、また、ご冗談を」

「本音だが?」

「え?」

「私は本気でミナと踊りたい」


 パアアアァン!!


「え?」

「え?」


 目の前で社交用の良い服がはじけ飛んだ。

 待って、私筋肉のこと考えてなかったよね?

 ときめきはあったけど、筋肉じゃなかったよね?

 上半身だけでよかったですねと言うべき?


「……事務室へ寄ってもいいだろうか」

「……ぜひ、そうしてください」


 すみません、と言いながら一緒に歩く。

 ああ、礼服の下は変わらずいい筋肉でしたね、知ってますよ。

 というか、あれかな。少しだけ香料を口にしたから魔眼に影響したのかもしれない。


「着替えてくる」

「はい……本当、会場でやらかさなくてよかったです」

「気にするな」


 周囲の令嬢たちへの牽制にならないけどいいのだろうかと思う傍らでオレンがシャツに腕を通す。


「ふっ」


 オレンが楽しそうに笑ったのを私はこの時気づかなかった。

たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。

やっぱりパアアアァン!!はある(笑)。オレンってば究極のドMなんじゃない?ってちょっと思いましたよ。楽しいの?服はじけ飛んで?って。色々ツッコみたいのにツッコミ役いないという。

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