17話 私が不在の間に服の破れる惨状が起きても困る
「ラヤラ領に視察に行く」
「はい。経費計上は済んでます」
「君を連れていこうと思う」
「え?」
今日もスケッチだデッサンだとガリガリ描いていたらオレンが仕事の話を振ってきた。プライベート時間に珍しいと思っていたら、これが原因か。でも事務員が行く必要はなさそうな件だったはずだ。
「私が不在の間に服の破れる惨状が起きても困る」
騎士団員思いの団長だ。
目に見えた未来だもの。
「ミナが往来で自分の服を破いて裸になったら大変だろう」
私の心配だった。嬉しいけど大勢の前でびりびりになっても困る。痴女として名を馳せるし、セクハラで解雇、もしくは公然わいせつ罪で捕まるなんてのもありえそうで怖い。
「名目は記録係と女性のケアだ」
「女性のケア?」
「ラヤラの違法建築でできた建物の中に女性が監禁されていると報告があがった」
「え?」
違法建築物は二階建ての小さめの家で、平民用にしては豪奢で貴族にしては小さい。その中に監禁されている人間が複数いるという。
被害者に女性がいて、加害者が男性の場合、保護する人間は同性の女性の方がよいのでは、ということらしい。
「最悪なのが、その監禁されていてる人間がネカルタス王国の王女一行の可能性が高いことだ」
「ネカルタス?」
魔法大国ネカルタス。
海を渡った南の大陸にある魔法使いのみを抱える国だ。
確か王女がネカルタスから見て二つ東のソレペナ王国に嫁ぐという話があった。陸続きとはいえ間にファンティヴェウメシイ王国を挟み陸路も険しい部分があるから船に乗り入国すると聞いていたけど。
「海路を走行中に海賊に襲われたらしい」
「え? それでうちに?」
近隣各国が悩まされている海賊はどの国にも属してなかったはずだ。
それが我が国キルカスの南端ラヤラ領に来ていたということ?
「ラヤラ領メネテッタバ辺境伯が海賊と通じてる可能性が出てきている」
「それは……」
国家反逆罪に等しい。
他国を蹂躙する海賊に加担、他国の王女を拉致監禁している。
これが事実ならキルカスは周辺諸国から孤立するし、魔法大国ネカルタス・ソレペナ王国それぞれと戦争になるかもしれない。
そこまで危ういことだ。理由がどうあれ許されることじゃない。
「危険を伴うが、ついてきてくれるか?」
瞳の色に心配が宿った。そもそも騎士の任務は危険が伴うものばかりだ。
私の眼が引き起こす服をビリビリにする能力はいっそ考えない。この力を抑えるためにという理由を抜いても、私に役立つことであれば一緒にと思えた。
「行きます。なるたけご迷惑ならないよう頑張りますね!」
服破って士気に影響しても困るもの!
「ああ。私もミナを守るから」
ああもう破壊力! 息をするように出てくる殺し文句!
もう充分守ってもらってます、なんて言っても優しいオレンは謙遜するだろうな。
「今のところ絵を描くのは有効なようだが」
「そうですね」
オレンの筋肉を眺めつつスケッチやデッサンをして幾ばかり、私自身も騎士の服も破れなかった。しいて言うなら、オレンの服が何度か破れている。
力が弱まったとかじゃなくて全体レベルマックスレベルの筋肉じゃないと我慢できない身体になった、だったらきついなあ。
「私の筋肉はどうだ?」
「素晴らしいです! 今日描いてる僧帽筋からの背筋なんですが」
たまりません! 最高です! 衰えることない統制のとれたバランス! 力のいれ具合で変わる形のよさ! 今度剣を掲げてもらおうかと思うぐらいで、きっと側筋群にも力が入ってまた魅力が増すこと間違いなし!
「はっ!」
息をするように語ってしまった!
ちらりとオレンを見ると背中を見せつつ顔だけこちらを向いて満足そうに笑っている。
「ぐっ……」
「気にせず話してほしいと言ってるだろう」
「なんですが慣れなくて」
「言うことで破れる確率も低くなっているかもしれない」
なるほど~で納得するほど単純でもない。今まで隠してた分、抵抗感がすごいからだ。それもオレン曰く訓練なのだそうだけど、筋肉を語る訓練なんて必要だろうかと思ってしまう。
「私は褒められて嬉しいよ」
そう言われると尚更隠すのが難しい。
「……頑張ります」
「無理なくな」
「はい」
たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。
ラヤラの件って結構ハードな内容なんですけど、どうしても筋肉と魔眼ビリビリスキルを交えると軽い話に見えてしまう恐怖…。まあ元々ラブコメベースで続いているのでよしということで(笑)。