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13話 画材屋デート

「ふわああああああ」

「必要なものは全て買おう」


 小さな画材屋にはびっしり道具が飾られていた。マイナー商品まで取り扱ってて好きな人間はテンションあがる。


「わあああ」


 客は私と団長のみ。

 わあわあテンションあがりっぱなしのところ、ふと気づいた。 

 女性として、はしたないのでは?

 相手は騎士団長で侯爵位。私の姿は令嬢のふるまいとしては違うだろう。仕事はさておきプライベートまではさすがに団長も我慢できないはずだ。


「すみません、オ、オレンさん」

「何がだ?」


 嫌そうな素振りはなかった。むしろ穏やかだ。これが大人の余裕?


「その、はしゃぎすぎちゃって」


 淑女の振る舞いじゃなかった。まあ色々アウトなことはかなりしてるから今更だけど、出先というのはあまりよくない。団長の外聞もあるし。


「いや、私は今の方が好ましいが」

「え?」

「正直な気持ちが出ている方がミナらしいし、私はこちらがいい」

「あ、は、い」


 やっぱり違う。

 私が知る爵位のある男性は皆余裕がなかった。彼らは同じような低爵位だったから? 高爵位で立場も違うと余裕が生まれるのだろうか。


「ミナ、私はあまり詳しくない。必要なものは君が選んでくれるか?」

「はい」


 初めの一式となるとかなりの量になる。騎士団には一切絵を描くための物品はないから一人では到底運べない数だった。


「すみません……多くなっちゃって」

「ふむ。これで充分か?」

「はい」


 と、店主が無言でカウンターになにか出してきた。


「筆、と」

「ナイフですね」

「ふむ?」

「あー……」


 何種類かセットになっている。本格的にやるなら到底一本だけじゃ足りないって分かっていた。けどこれはあくまで服がビリビリに破かれる対策の一つで、団長の肖像画を描くとしても軽くのつもりだ。だからそこまで揃える必要はない。


「買おう」

「一本あれば充分ですよ」

「いや、これから当面描くのだからいくらかあってもいい」

「すぐ治って描く必要なくなるかもしれませんし」

「いや、どちらにしろ公費で落とす。気にすることはない」

「……はい?」


 いやいや今のは聞き捨てならないよ?

 騎士団の経費するわけにはいかないでしょう! 個人の問題なんだから!


「だめです! 経費でおとすなんて!」

「しかしこのままだと騎士の被服代が予算を超えるだろう」

「すみません!」


 私が服を破くからね!


「治療の一環となれば医師団が持つ医療費になるが、騎士団所属ということを考えればこちらからも費用計上できるだろう」

「い、いけません。これは私個人が使う物なので理由が通りません」


 例えば、増える体調不良者の治療のために十名分の薬の原材料あれとこれを買うとか、規模と用途が明確でないとね。

 私個人の為だと、個人で病院に通えばいいし、絵を描くことが有効か分からない以上は経費で落ちない。少なくとも私なら許可しない。


「では私が払おう」

「待ってください!」


 それはもっとやめてほしい!


「店主、全部でいくらになるだろうか?」

「……」


 一覧で購入品を書いた紙を渡された。この店主喋らないけど、単に無愛想なだけ? あ、今はそれどころじゃない。


「団長」

「名前」

「え?」

「先程から呼び方が戻っている。名前で呼んで」

「あ、ぐ……」


 そんな急に呼べるわけない。団長はあっさり私の名前を呼んでいるけど、私にはまだ心の準備があっていやそもそも軽々しく呼ぶのもどうなのかって話で。デートできただけでも幸せだし、それ以上望むのもどうかって話で、というかなんでそんなに距離近くなったの分からないそんな素振りなかったし。


「ミナ、終わったぞ」

「はい?」


 画材が詰め込まれた紙の袋を持って団長が外に出るぞと進む。


「え! 支払い終わって?!」

「そうだが」

「うそ!」


 会計終わらせて商品詰めるまでそんな早く終わる? あの店主相当仕事できる! いや違うそこじゃない。


「あー……お金、返しますね」

「必要ない」

「けど、」

「そこは私をたてて奢られてほしいかな」


 眉を八の字にして見降ろされる。困らせた。

 貴族の男性は令嬢に物を買うなんて日常茶飯事で、それこそ名誉ととる家門もあるだろう。

 そんな中、かたくなにお金を返すって言い続けるのは失礼だ。


「すみません」


 いくら男爵とはいえ、ほぼ平民生活をしていた私には到底団長のような高爵位の生活なんて分からない。

 団長は優しいから怒らないけど、きっと気分を悪くしている。けどそれを見せないのは大人だからだ。

 仕事が一緒で近くて嬉しいけど、やっぱり遠い人だとまざまざと感じる。


「ミナ、気にしなくていい」

「だんちょ」

「名前」


 眼光が鋭くなった。

 名前呼びのこだわりが強い。


「えっと、オレン、さん」

「ああ」

「あの……ありがとうございます」


 意外だったのか少しだけ眦が上がった。

 そしてすぐに目元を緩めて微笑む。グレーの瞳に映る私が滲んだ。

 うっわ、破壊力がすごい。見つめられると恥ずかしくて顔が熱くなる。ご、誤魔化さないと。


「に、荷物、私も持ちます」


 別にいいのに、と顔に出ていたけど、団長は小さな紙袋を選んで渡してくれた。店主が無言で出した筆とナイフのセットだ。

 それを両手で持っても荷物を持った感じじゃない。団長なりの気遣いで渡されたのだろう。

 大人の対応だ。


「そうだ!」

「ミナ?」

「そこで飲み物買ってきます!」


 せめて今感謝の気持ちを何かで返せればと思い、近くにあった屋台へ走る。

 団長の私を呼ぶ声が背後で聞こえる中、お店に急いだ。


「っ!」

「あ、ごめんなさい! ……って、あなた」

「あ?」

たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。

そういえば私自身は美術の絵画関係は素人なのでパレットナイフの存在を最近知りました(笑)。そして、騎士の被服代が予算を超えるだろう→すみません!の流れが好きです(笑)。オレンは素で言ってて悪気はありません。

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