クナンの初陣!? マチロはチート?
「あの…… マチロ…… ちゃん?」
「ごしゅじんさま…… どれですか?」
「えっ?」
「ごしゅじんさまを……〝おとうさん〟を殺したのは…… どれですか?」
サブシートで愛機を操作しているマチロの様子がおかしい……
「マチロ…… ど、どうした?」
マチロの白いうさみみが毛羽立つと、モニターに反射した瞳が…… 深紅に輝いた!
「か、からだが…… あつい…… とまらないのです……」
「ちょっ、おちぃ!?」
落ち着けと言う前に、マチロが愛機を走らせた。
「どれだろうと…… どうせテキ…… テキハ…… タオス!」
「待って、落ち着け! ちょっ、突っ込む!?」
俺達と敵が乗る機体は、だいたい5メートルくらいの人型ロボット兵器で、運用方法とか分類的には手足のある戦車と言った感じだろう。
「マチロ、落ち着け! 組み合うな! じゅ、銃を、ライフルで攻撃するんだ!?」
基本的な移動は、足裏の車輪やキャタピラで滑走するのだが……
「や、やめ! 無闇に跳び跳ねるな!」
まるでハードル走の様に跳び跳ねながら敵に真っ直ぐと……
「!?」ドゴーン!!!
敵から放たれた砲弾が目の前に!?
マチロが咄嗟の操作で…… ライフルを盾にして受けたので、直撃を免れたが反動で後方に押し戻された。
「ハア…… ハア…… ハア……」
「マチロ…… 俺の前に来い」
「ゴシュジンサマ?」
「〝命令〟…… だ」
「ハイ……」
使い忘れていたシートの自動調節を起動させながら、敵の攻撃が飛び交う中…… マチロを俺の前に座らせて、後ろから抱き締める。
「いいかマチロ…… 落ち着け、闘争本能に……〝野性化〟に飲まれるな…… こいつはお前じゃない…… お前の様には動かないんだ」
「ハイ……」
「落ち着いて思い出せ…… こいつの使い方を…… 爺さんが教えてくれたろう?」
「はい…… ごしゅじんさま? ふるえてる?」
「当たり前だ…… こんな最弱な状態で、戦場の中に要るんだぞ?」
「ごしゅじんさま……」
揺れるコックピットで警告音が鳴り響く!
「だいじょうぶです」
マチロが笑いながら応えた時に……
『もらった!』
敵から直撃コースの砲弾が放たれた!
「超ザコで小鹿の様にふるえる…… 超天使にかわいいごしゅじんさまの敵は……」
マチロが操作レバーを掴み、両足をペダルに置くと…… 機体が両脚の車輪を使い急旋回して、砲弾をスレスレですり抜けた!
「マチロがつぶすから!」
マチロの操作で盾にして失ったライフルの代わりに、腰部の背面に搭載していた機械騎兵用のサブマシンガンを二丁構えると……
「マチロ…… いきます!」「うお!?」
マチロがそう言った瞬間、加速の衝撃が俺とマチロをシートに押さえ付ける。
「野郎…… これでどうだ?」
俺達の機体を砲撃した奴が、爆煙から現れて無事な俺達の機体に…… ミサイルを発射しやがった!
「ひい!」
「だいじょうぶ…… みえてる」
まるでスケートリンクを滑る様に加速しながら、マチロがサブマシンガンを突き出すと…… 発砲して迫り来るミサイルを撃ち落として行く。
『うそ~ん』
『あの速度で当てるのかよ!?』
『チィ、化け物め!』
脚部狙いの砲撃も……
「うん……」
片足走行で難なく回避して、サブマシンガンの有効射程まで距離を詰める!
ガガガガガ……!!
『この! サブマシンガンごときが、この俺専用機体の装甲を抜けると思うなよ!!』
「このクソガキ…… 上位民?」
サブマシンガンを弾いて剥がれた塗装から、本来の装甲の色合いが見える……
「その金色……【金豚】だな?」
「ごしゅじんさま?」
金豚…… 現実の世界で、配信動画を上げた上位民の専用機体の通称だ。
その姿は、操縦者の安全性を極限まで上げた為に…… コックピットである胴体部が不自然な程に膨れていて、手足の細さに頭部ユニットの形状と機体の配色から、ネット場で付けられた通称だった。
『俺の専用機を…… その名で呼ぶんじゃねぇ!!!』
話で聞いたよりも手足が機体に合ったサイズになっているので、ネットの反響から改良したのだろう。
「見るからに、近接戦は力任せの格闘型の様だな…… マチロ、こいつの倒し方は…… わかるな?」
「うん、お爺ちゃんに聞いたとおりだ……」
クソガキが殴りかかって来たので、マチロがバックで滑走して距離を取る。
『オクのぼっちゃん!』
『お前等、手を出すなよ? こいつは俺の獲物だ!!!』
金豚の背面の装甲が開いた。
「装甲が開いた? 内蔵型のブースターユニットか…… マチロ、来るぞ!」
「だいじょうぶ……」
『押し潰れろぉぉぉっ!!!』
金豚が背面から火を吹いて加速、ショルダータックルの体勢で突っ込んで来るが……
「見えるから」
マチロが二丁のサブマシンガンを一点に集中射撃した後、コンパスが円を描くように旋回…… その横を金豚が倒れて地面をえぐりながら滑って行った。
『『『『ぼっちゃん!?』』』』
「お爺ちゃんは言った…… かたくて重いのは、足の関節を狙えって」
倒れ込んで地面にめり込んだ金豚の脚部は…… サブマシンガンの弾丸を浴びて、関節部がズダボロになっていた。
『な、何でだよ!? サブマシンガンごときに…… 無敵の俺の専用機がぁぁぁっ!!!』
「ゲームだったらな…… こんなに滑らかなに動く物が、関節まで固いなんて…… 普通におかしいだろう?」
「どんなに鎧が厚くても…… 動く限り関節まで覆う事はできないのです!」
『ちきしょ…… お前等、許さねぇ…… ぜってぃに殺す!』
『ぼっちゃん、後退しましょう!』
『な!? ふざけんな! 後退なんて…… 直ぐにこいつ等を殺すんだよ!!』
『ぼっちゃん…… 時間切れです』
『ぼっちゃん! ハイエナ連中と街の傭兵達が来る!』
『ぼっちゃん…… 後退すべきです』
『チィ…… 退くぞ。次は…… 絶対に殺す!』
倒れた金豚を狙ってハイエナ達が集まり出したのを見て、クソガキの仲間達が金豚を回収して撤退を開始。
「それは…… マチロの台詞ですよ」
クソガキの捨て台詞に、感情を圧し殺した深紅の目でマチロが応えた……