最弱?のモザイク種族…… その名は【クナン】
「ごしゅじんさま、殺されたんですか!?」
「ああ、廃棄されたはずの…… この初期バグアバターになってる事からも、間違えないと思う……(仮想世界で殺されたショックで、現実世界でも死んだ奴を見た事がある…… 記憶が曖昧だが、あの奴等にかなり痛めつけられたからな…… たぶん)現実世界でも、ショック死したんだろうな…… でも、何で爺さんが俺の初期バグアバターを持っているんだ?」
「さあ?【マチロ】も、ごしゅじんさまに言われて来たばかりですので……」
此処は仮想世界での俺の拠点では無い。
俺は、この日…… 所属する部隊での偵察任務に出ていた。
所属する部隊と言っても、俺達は正規の部隊では無くフリーランス…… 所謂寄せ集めの傭兵部隊だった。
『おい、オッサン!』
通信から喧しいガキの声が響いた。
「何だ?」
『あの兎の獣人…… は、連れていないのか?』
「うん? 野暮用で連れてないが……『そうか、なら死ね』!?」
その後は…… 突然の衝撃と朦朧とする意識の中で感じた痛みに死ぬと感じた事しか、よく覚えていない。
「今考えると…… あのガキのマチロに対する執着は異常だった……」
俺とマチロの出会いは、まさに偶然が重なり合った奇跡の様な感じだった……
あの日…… 俺は小遣い稼ぎに爺さんの依頼を受け、爺さんに修理させた機体の馴らしもかねて狩りに出ていた。
そこで魔物に追われる一団に遭遇、俺が魔物を倒すと…… 一団の頭らしき奴が礼にと、うさみみ幼女を置いて走り去って行った。
そのうさみみ幼女が…… 今目の前にいるマチロだ。
その時に俺を殺したガキにも会ったのだが……
「おい、あんた…… 奴隷商の一団を見なかったか?」
「奴隷商? そうか解らないが、それらしい一団ならあっちに走り去ったぞ」
「そうか…… おい! 行くぞ!」
マチロを機体に隠し、倒した魔物を回収していた俺に向かって、威圧的に話し掛けてきたのが奴だった。
「タイミング的に怪しいし…… ひょっとして奴は、最初からマチロを狙っていた…… のかも知れない」
「ご、ごしゅじんさま~」
「契約…… し直しておくか?」
この世界は、魔法が在る…… 契約や登録には魔法が使われている。
「あのガキが俺を殺したのも…… マチロの契約無効を狙ったんだろうよ」
「マチロの全ては…… ごしゅじんさまの物! ごしゅじんさま以外は認めません!」
「わかったわかった…… わかったから抱き付くな!? やめろ! 死ぬ! 俺が~!! ギブ!ギブ!」
「ごしゅじんさま…… ごめんなさい……」
「はあ…… はあ…… はあ…… こ、この装備…… 瞬間的な衝撃には強いけど…… ゆっくりの攻撃には弱いな…… 締め付けは危険だな……」
「ごしゅじんさま…… やっぱりザコ?」
「ぐっ!? だ、だってしょうがないじゃないかよ…… 開発が救済する程の地雷なんだぞ……」
「かいはつ? きゅうさい? じらい?」
仮想世界の時には、通信器機から読み取った生体認証データを元にアバターが作られるが…… アバターが製作される前に、ある程度の初期設定ができるシステムだった。
俺の今の姿…… 初期バグアバターの〝モザイク種〟は、その時に複数の種族を設定キャンセルする事で、希に現れるバグの1種だった。
施設に入った時には中年だった俺は…… 行くあても無いので、少しでも長く居れる様にと…… 仮想世界では若く健康的な種族を探した。
「結局…… その手の種族だと適性テストに弾かれて…… 人族にしたんだけど…… バグって、このモザイクアバターができたんだよな」
あまりに貧弱ぶりに…… 焦ってヘルプを押した記憶があるのを覚えている。
「で…… その貧弱モザイクアバターの【クナン】がどうして、爺さんの遺品にあるんだよ」
このモザイクアバターが生成された時に…… あまりの貧弱さに苦難しかないと思い、クナンと名付けて破棄したのを思い出して……
「爺さん…… あんた、何者だったんだ?」
クナンが居た施設の出口を見て呟くと……
仮想世界のキャラだと思い…… 名も聞か無かった爺さんが……
親指を立てて、どや顔で笑う爺さんの幻影が見えた…… そんな気がした。