貧弱過ぎるクナンは…… 移動手段を手にする? そして、動き出す上級民達……
今年もよろしくお願いいたします。
「お見事ね」
マチロのハイキック一閃で吹き飛んだ男を見ながら、マダム・ライディが拍手している。
「くは~! 苦しかった」
「ごしゅじんさま、大丈夫ですか?」
「ああ」
「大丈夫なら良かったけど…… で、何者かしら?」
マダム・ライディが俺の安否を確認した後、マチロの一撃で痙攣しながら失神した男を指さす。
「しらない人ですね……」
「でも、なんか見た感じが…… あ!」
「どうしたの?」
「こいつ…… 吹き飛ばされた俺達の家の地下を掘ろうとしていた傭兵だ」
「あっ、おじいちゃんが近付くなっていってた人です!」
マチロの話から、爺さんが言っていた流れ者の傭兵の話を思い出した。
「爺さんの事を嗅ぎ回っていた奴か?」
「あの方は機械騎兵のカスタムや整備で、知る人は知る方でしたからね…… あの方がカスタムした機体を狙って、あなた達の情報を流していたのかしらね?」
「たく、傍迷惑な…… で、俺の死体は…… 無い?」
改めてコックピットを覗くと…… 在るはずのオッサンだった俺の死体が無い。
「この染み…… 血痕だな。しかもこの量…… 確実に死んでるよな?」
「えぇ…… この破損状態に所々に引っ掻けた後があるから、誰かが引き摺り出したみたいね…… そう言えば、ハイエナ達が余所者の死体を回収してるって話があるわ」
「死体を…… ハイエナで禿鷹って訳かよ…… よっと!」
「なにしているの?」
「いやちょっとな…… よっしゃラッキー♪」
衝撃で変形したコックピットのシートを引き剥がして、装備品を収納していたウェポンケースを引っ張り出そうとするが……
「ふぬ~! だめだ…… 引っ掛かって出ない……」
「ごしゅじんさま、ちょっとよけてください!」
ドガ! バキ……
マチロが、飛び蹴りで引っ掛かっていた変形したシャフトを蹴り…… へし折った。
「マジか…… あいつ、死んでる?」
「だいじょうぶ♪ てかげん?しましたから」
「辛うじて生きてるわね…… 固形物は一生食えないでしょうけど」
「まあ、自業自得って事か…… よっと、うわぁ!?」
話ながら、ちょっと大きめのウェポンケースを引っ張り出すと……
「柩?」
今の俺がすっぽり入りそうな…… 黒い長方形の柩の様なウェポンケースが飛び出て来た。
「ごしゅじんさま!?」
「いてて…… こんなに大きかったか?」
危うく下敷きになりかけながら、改めてウェポンケースを見ると……
「ほんと…… 棺桶みたいだな……」
黒いウェポンケースは、ただ鈍い光をたたえていた。
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『困りますよ、オクさん』
「ふん、なんの事だか解らないな?」
『不用意に〝データプレイヤー〟を殺すのは、ルール違反……』
『彼等は、皆さんとは違い……〝全て〟が現実と同じ感覚でデータを収集する存在…… 彼方での死は此方でも死になるのですよ。後始末が大変なんですよ…… 世論やバッシングとか…… 死体の始末も……』
「はん! 元々俺の奴隷を奪ったのが悪い! 所詮は施設の屑…… 俺の物に手を出した報いだろうが!」
『何が報いか…… 運営から直接情報を貰っていながら、それを逃した間抜けのくせに』
「なにを!」
『やめたまえ。此処は話をする場であって、争う場では無いだろう?』
『えぇ、争うなら彼方で…… 私も参加するわ』
『あ~やめだやめだ』
「チィ…… 誰が魔力適合者供とまともに戦えるかよ」
『彼等の収集したデータは、皆さんの機械騎兵にも反映されるので…… むやみやたらに殺さない下さい』
「ふん! なら、俺の機体を強化しろ」
『オクの機械騎兵は使い方が違うだけで、ちゃんと強い機体だろう?』
『重装の遠距離型なのに近接カスタムって…… バカなの?』
「うるせぇ! 近接特化の奴隷が乗るはずだったんだよ!」
『いやいや…… せめて奴隷を手に入れてからカスタムしろよ』
『そもそも機械騎兵の操作くらい自分でしないさいよ』
『よわよわ……』
「黙れ! 俺は上に立つ人間なんだから、面倒事は下僕がやれば良いだろうが!」
『まあまあ、オクさんには複座のデータ収集と検証にも役立って貰って居ますから…… 解りました。オクさんの要望に合わせた機体を用意します』
「よし!」
『やれやれ…… オク君だけ特別扱いかい?』
『ずるい……』
『もちろん、皆さんの要望にもできる限り対応させていただきますよ。できる限りですが……』
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「ごしゅじんさま!?」
ウェポンケースから取り出した黒いアーミーポンチョを見たマチロが驚きの声を上げる。
「懐かしだろ?」
この世界に来た時からずっと使っていた初期装備……
「最近まで強化し続けてきたからな…… 今の俺には最強の防具だぜ」
男だった時には膝上だったのだが、今の俺に引き摺る程に大きかった。
「まるで…… てるてる坊主だな「ごしゅじんさま!」うお!?」
突然マチロに飛び付かれて、潰されたが……
「ごしゅじんさまのにおい♪」
「たく…… しょうがないな……」
嬉しそうなマチロの姿に…… 俺は大人しく黙たまま下敷きになっていた。
「あれ? 浮いてる……」
潰されたままに寝転がっていた俺は、ウェポンケースが空中に浮かんでいるのを見た。