物理的に過去の自分とお別れ? クナン、マチロの父から妹?分にマイナーチェンジする!?
「マチロちゃんって、奴隷なの?」
「表向きはな」
旅立つと決めたので、旅の支度を始めたら……
「ごしゅじんさま…… ごしゅじんさまの衣服がありません!」
身体が変わった俺は…… 着れる衣服が無いに等しかった。
「なら、お前が使えなくなった物は、私が買い取ろう。その料金で必要な物を仕入れたらどうだ?」
「あら? それなら…… 私の出番かしら♪」
トントン拍子に話が進み…… 俺が持っていた成人男性用の装備品や趣味のドロップアイテムコレクションは、マチロの厳しい選別で…… 新たな装備品の資金に化けた。
そして、どうせならばと…… マチロの装備も見る事になり、採寸していたマダムがマチロの〝奴隷紋〟に気付いた。
「マチロが望めば、何時でも解放される契約になってるんだが……」
「マチロはごしゅじんさまの物! ぜったいに離れません!」
「あらあら、逆に縛られてるのね♪」
「まあ…… 拾った時に諦めましたから……」
逃げた人狩りか奴隷商の奴に押し付けられた時に、不安気に涙を浮かべた瞳で俺を見る…… 小ちぇ姿を見て、見捨てる事を諦めた。
「とりあえずは…… 旅姿で良いかしらね?」
「とりあえず?」
「あの機械騎兵を完成させるんでしょ? なら、私と一緒の方が良いわよ」
「なんで?」
「キャ「マダム・ライディ!」…… マダム・ライディは、我等の連絡役なのだ。あの機体を完成させる気なら、マダム・ライディと行動した方が良い」
と、俺の所持品を査定していた街長が答えた。
「そう言う事♪ 見ての通り、この移動店舗型車両の【マルチェ】ならキャリアスぺースもあるから…… あのサイズの機械騎兵なら3機は積めるわよ」
俺達は、未完成の機体を持ち運ぶ手段が無いので…… 金豚達とやり合った時に、マチロが乗り回した愛機と一緒に運んでもらう事にした。
「足回りの点検とコックピットを調整して置いた…… これで少しは楽に動かせるだろう?」
マダム・ライディとマチロが衣服を探す間に、俺は調整された愛機の操作を確認していた。
「これで…… ちょっと重いな」
「これ以上の調整は…… 無理だな。なんとか慣れてくれ」
「鍛えるしか無いか…… ライフルは?」
「それは修復できなかった…… 通常の機械騎兵用ライフルなら用意できるが?」
「高いのか?」
「お前のカスタムライフルに比べたら、射程が短過ぎる…… お前の対機械騎兵ライフルで相殺してやる」
「ば!? アレは、俺がどれだけ苦労して…… 手に入れたと思ってやがる!」
「だが、その身体では…… もう使えんだろう?」
街長の言葉に…… 成人男性アバターだった時でも、肩が外れそうになったのを思い出した。
「この身体で射ったら…… 骨が砕けるかもな」
「大人しく諦めろ。その代わり、多少の金も渡してやる」
「くっ、背に腹は変えられん…… わかった。売る」
結局…… 最初に着た全身水着の様なボティスーツの黒に、迷彩柄の丈の短い腹出しジャンバーと七分丈のカーゴパンツ…… 手足には、肘や膝の近くまであるゴツいアームガード付きの指抜きグローブとレッグガード付きブーツ、その上に薄手のフード付きローブを着る事になった。
「目には…… とりあえず革の目隠しで我慢してね」
「そう言えば…… この目隠し、してるのに見えるんだが?」
「そう言う装備品なのよ。それが隠してるのは目や能力であって、あくまで視界を封じる物では無いの」
「なるほど…… 魔眼保持者用の装備品ってわけか」
「それを付けていれば、わかる者達は魔眼保持者と思い避けるだろうが……」
「困った事に一定数の厄介な連中もいるのよねぇ……」
「レアスキル狙いの連中か?」
配下にするなら兎も角、人拐いに違法奴隷や…… 酷いと移植の為に魔眼を奪う者達も居る。
そのたいがいは…… 俺達の様な〝余所者〟と呼ばれる者達だ。
「たく…… あんた達余所者は、どうゆう体をしているのかねぇ。目玉を他人のと入れ換えるなんて…… そんなに魔眼保持者になりたいものかねぇ?」
「俺達の認識では、魔眼は強いのが一般的なんだよ。でも…… 実際の魔眼保持者は大変だよな?」
「えぇ、持って生まれても…… 適合しなければ一生苦しむだけだしね。そんな物を一かバチかで欲しがるなんて、正気か疑うわ」
「俺もそうだったけど…… 適合しなければ、かなり辛いのは知ってる奴等も増えてるから、狙わんだろう?」
「ところがそうでもない」
「うん? どうゆう事だ?」
「最近…… 魔眼に限らず、レア種族や特技を持つ者達を狙う人狩りに人拐いが多いのよ」
「どうやら、一部の余所者達が高値で取り引きしているらしい…… マチロちゃんもだが、お前も気を付けろよ」
「マチロは兎も角…… 俺もか?」
「見た目だけなら……」
「レア種族よね……」
「ごしゅじんさまは、超ちょ~かわいいです♪」
「ヤバそうだな…… 気を付ける……」
「そうしろ。ところで…… 例の機体だが、念の為に仮の外部装甲だけでも付けて行くか?」
「それなら、パーツだけちょうだい」
「パーツだけ?」
「そろそろ出発しないと、余計な連中が来そうだし…… 商品として扱う事もあるから、うちの連中でも取り付けくらいはできるわ」
「わかった…… 取り引きを急がせる」
こうして…… 俺とマチロは、マダム・ライディの移動店舗兼小型陸上母艦【マルチェ】に乗り…… 街を出た。
「マチロちゃん…… 大人気だったわね?」
「俺の居ない時は、爺さんの処に預けていたからな…… 爺さんの人望も有って、かなり可愛がられていたんだ」
「ごしゅじんさま…… みんなにお別れしなくて…… よかったの?」
「見た目が…… 違い過ぎるからな…… あれ?」
「どうしたの?」
「たしか…… この辺りだったはず「マダム、前方に機影があります!」…… やっぱりか……」
「機影に心当たりが?」
「俺が死んだ時に乗っていた機体だ」
しばらくして、マルチェのブリッチから放置された初期型機械騎兵が見えた。
「ごしゅじんさまのオンボロだ!」
「どうする?」
「見た目は初期型だが、爺さんのフルカスタム機だからな…… 回収しても?」
「あの方の手掛けた機体ならパーツが勿体無いもの…… 回収しましょう」
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「所々焼け焦げてるが…… 装甲は使えそうだな」
「近くに砲身が壊れたバズーカが転がってるのは…… 零距離射撃で壊れたのかしらね?」
「たぶん…… 最初の衝撃の後は記憶が曖昧だが、見た感じの機体状況から…… そいつでコックピットを直に撃ち込まれたんだろうな」
「流石にそれは…… コックピット内はミキサー状態かしら?」
「開けたくないが…… 回収するなら遅かれ早かれだし、過去の自分と御対面と行くか……」
横倒しに倒れた機体の後部ハッチに近付くと…… バーン!
「な!?」「ごしゅじんさま!?」
クナンが開ける直前、後部ハッチが勢い良く開くと…… 機体の中から男が飛び出し、クナンを掴むと後ろから羽交い締めにする。
「ぐう!?」「大人しく!?」
クナンを羽交い締めにした男が何か言う前に…… マチロの足が男のこめかみを激しく打ち飛ばした!
「があ! ハア…… ハア…… ハア……」
「ゲスが…… わたしのいも…… ごしゅじんさまにさわるな!」
絞められたせいで酸欠になり、激しく息をするクナンの横で……
首が曲がったまま吹き飛び倒れた男を、暗い目のマチロが見ていた。