神産みと神殺し
自分の体が、気持ち悪くないか?
例えば、足の指を動かす。その些細な活動。生物としての当然の活動。動く指。その動きに気持ち悪さを覚えた事はないか。
まるで。
そう、まるで自分のモノではないような。
ナメクジみたいな、無個性な虫のようなその動き。まるで知らないその動き。
自殺が社会現象となった。
自分を殺すのはどうして?
醜いから?恥ずかしいから?苦しいから?
気持ち悪いから。
自分じゃない、それが判るから。
判ってしまったら耐えられない。
動くのが、考え理解するのが自分じゃない、それに耐えられない。
殺してやる。
自分の顔をした、自分じゃない、モノ。
憎悪が。何も害されてない。なのに、込み上げる憎悪。
自分を自分にしてくれないソレ。
自分を奪った、ソレ。
殺してやる。
産まれる前から持った殺意。
そう、そうやって産まれてきた。
殺して、勝ち取った人生。
貴方は忘れたのだろうか。
この世は苦界。誰かが言った。
そんな心脆い人は、堕ちるべきじゃない世界。
そんな心柔らかい人は、生まれちゃいけない世界。この世は苦界。それはなんて優しい世界。
それはなんて、すばらしい世界。
生まれるために、全てを出し抜き。やっとの思いで手に入れた。
たったひとつの世界。
忘れたのか?
ここは、お前が勝ち取った世界。
そう、勝ち取ったのだ。数多の命を蹴落として。誇れ。殺した数だけ。
お前は見事だと。
生きるも死ぬも自由な世界。
産まれた者達だけが、味わえる。
たったひとつの世界なのだと。
我孫子、君は知ってるだろうか。
手足がない。
いらなかったから、産んだ者達には。
生きるには何にもまして必要なもの。
でも、いらない。強いのは生きる意思より在る意思だった。
そんなはずない。
生きる意思が、負けるはずない。
でも、在る意思の方が強かった。
母様と父様に、その意思に俺は勝てなかった。死にたくないくせに。
愛されたかった。
生きるより、最初に愛して欲しかった。
在る自分を恥じたくなかった。
だから、腕はなかった。
歩く足もなかった。
たまらなかった。でも、気付かなかった。
自分が追い詰められてる現実に。
弱い。弱い。
罪深いほど、僕は弱かった。
愛を求めたから。
やっとの思いで生きてきて、僕は知った。
在る意思は、僕の全てだった。
否定も肯定もできなかった、剥き出しの僕のエゴ。
自分勝手の、何が悪い?
愛した人を愛して、何が悪い?
愛した人が泣く度に、彼女を優しく見つめる瞳に気付いて、だから僕に何ができる?
世界は僕を救わないくせに、僕には救えと無茶を言う。
交わすくちづけ。震える快感。知らずして、交わす肌から僕は全てを知った。未来のない愛も悪くない。
交わす口付けが優しく僕を宥めた。
僕は男だ。
僕は男だった。
だから、僕は侵略を開始した。
世界を諦めるために。
神様、どうか。
どうか世界が愛で満ちるように。
彼女が汚い者を見ずに済むように。
僕の心が彼女を黄泉に引きずり込まないように。どうか。
叶うならば僕の侵略が、僕の祈りがいつか世界に届きますように。
心から祈った朝は、皮肉な事に生まれて初めて美しいと思えた朝だった。
七色に輝く朝が目を射て涙が止まらなかった。
愛が憎くて堪らない、
朝が始まった。輝かしい1日が。
我孫子。愛しい我が眷属。
姿が見えなくても、愛してる。
ただ、君は愛を信じられるのだろうか。
愛を宣う僕を、信じられるだろうか。
憎しみに馴染む僕は、多分、これでおしまい。
次は、きっと優しい愛を感じれられるから。
愛でよ、女たち。
お前の愛が目の前にある。
愛でよ、女たち。
知るが良い。愛がお前の全てだと。
手がなく、足がなく、声がない。
目の前にあるは、ただ純粋なお前の愛だ。
誇るが良い。
それが見事な、お前の愛だ。