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 公爵邸に着くと、馬車に気付いた屋敷の者たちが、慌てた様子でこちらに駆けてきた。

 私の姿を見つけた侍女長が飛び出してきて、私を強く抱きしめる。そのまま彼女はずっと震えた声で謝罪の言葉を繰り返していた。どうやら私が捕まったのは、用事を頼んだ自分のせいだとずっと責任を感じていたらしい。彼女を抱きしめ返して、それは違うと何度も訴えた。


 そのままその日はすぐに休むようにと、私は公爵邸の豪華な客間に詰め込まれた。使用人の私にはもったいない部屋だ。遠慮したかったが、アルベルト様に強く言われると断ることもできない。それに今日はもうクタクタだ。今は何も考えずに眠りたい。


 ベッドに横になり、目を閉じる。

 これで全て終わったのだろうか。私はアルベルト様をゲームのストーリーから救うことができたのだろうか。



(アルベルト様……)

 その名前を思い浮かべると、先ほどの馬車での出来事を思い出してしまう。あの優しい唇の感触……

 恥ずかしくなって飛び起き、頭を振ってその想像を振り払う。



(事件については、明日もう一度アルベルト様に確認しましょう。)

 とにかく今日は疲れた。何も考えないようにしながら、もう一度目を閉じた。






***

 その夜夢を見た。


 夢の中は白くて何もない空間だ。


 私は眠った時の姿のままでそこに佇んでいる。


 ここはどこだろうと思わずチョロチョロと歩き回ってしまう。



 やがて遠くに人影が見える。


 だんだんそれがはっきりしてくると、そこにいるのはルシア様と見慣れぬ黒髪黒目の小柄な女性だということに気づいた。


(ルシア様!黒髪のお嬢様!)

 思わず声をあげる。もう一人の女性の名前がわからず名前が呼べない。


 二人もこちらに気づき、笑顔で何か叫んでいるようだ。でもその声は聞こえない。


 なんと言っているのか聞きたくて、彼女たちのほうに足を進める。でもどんなに走っても二人に追いつけない。




 やがて私が追い付く前に、二人の体がふわっと空に浮かんでしまった。そのまま手を繋いだ二人は私に手を振って遠くへ行ってしまう。その表情はとても晴れやかで幸せそうだ。



 二人に聞きたいことがたくさんある。もちろん伝えたいことも。

 必死に走って追いかけるが、とうとう追い付けないまま、彼女たちは遠くの空へと消えていった。




「推し活さいこう!」

――――黒髪黒目の女性が最後にそう叫んだような気がした。






***

 パチッと目が覚める。目覚めてみればそこは公爵邸の豪華な客間だ。


(さっきの夢は……ルシア様とルシア様の前世の女性の姿?)


 二人は去って行ってしまった。心の中にぽかりと穴が開いたようにさみしい気持ちが広がる。気付けば以前あった、自分とは別の誰かがいるような不思議な感覚がなくなっている。


(さみしい……)

 何とも言えぬ喪失感に、涙が溢れる。


 でも完全に消えたわけではない。二人の記憶や想いが胸の奥にしっかりと残っている。


(ありがとう……)


 自分の体を抱きしめながら、もう今は声の届かない二人に感謝の想いを伝えた。






*****

 身支度を整え、いつものように仕事に向かおうとすると、アルベルト様に呼ばれていると執事から伝えられる。そのまま執事に案内され、アルベルト様の執務室へと向かった。部屋へ入れば、甘い笑顔を浮かべたアルベルト様に導かれ、彼の隣に座らされる。


 なんと昨日のあの後、アルベルト様はすぐに王宮に戻り、今回の事件の顛末について、他の貴族とともに王家と正式に話し合いを持ったそうだ。


 それにより、マテオス侯爵家のジェイド様は正式な判決を待つ間投獄。じきに重い処罰が下るだろうということだ。

 第一王子カルロス殿下は自身の側近を管理できなかったことで王位継承権をはく奪。将来的に王家を出て臣籍降下される。そして第一王子に代わり、幼い第二王子が立太子され王太子となることが決定した。それを知ったマリー様は発狂し、意味のわからない言葉を繰り返して暴れ、一時王宮の一室で拘束されているそうだ。



「この国は王権が強くなり過ぎていた。今回のことで王家派と貴族派のバランスが正されてしばらくは均衡が保たれるだろう。しかし幼い第二王子が王太子となり、まだまだ混乱が続くかもしれない。ロレーヌ公爵家は中立派として、これからも両者のバランスを保つため尽力していくことになる。」


 アルベルト様の苦労はまだまだ絶えなそうだ。これからも私の侍女人生をかけて、彼を癒していかなければ。


 私がそう決意を新たにしていると、突然アルベルト様が私の前に跪き、真剣な表情で私を見つめる。


「アルベルト様!何をされて……」

 彼の突然の行動に私は驚きを隠せない。


 アルベルト様はそのまま私の手を取ると、そっとそこに自分の掌をのせる。


「ベリー子爵家シャルル様。どうか私の妻として、生涯を私とともに生きてください。――――私と結婚してほしい。」


 そうしてそのまま私を強く見つめる。


「どうか了承のキスを。私はあなたがいなければ、もう光の道を生きてはいけない。」


 私にそう懇願する彼の瞳に引き込まれる。乞われるまま、彼の手の甲にそっと口づける。



「私の生涯をかけてあなたを幸せにいたします。」


 私の口から零れた言葉は、心の中に残ったあの二人の想いだ。そして私の心からの願いでもある。



 私の言葉を聞いたアルベルト様はすぐに立ち上がり、私を引き寄せて強く抱きしめる。そして互いに微笑みを浮かべ、二人は熱く口づけを交わした――――


エピローグを9時に投稿します。

その後20時にはアルベルト視点の番外編を投稿したいと思います。

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