嘘
付き合ってたけど段々飽きてきたから別れようか…
「そんな事ってあるか?普通…飽きてきたって」
言い方があるだろ?と仕事帰りにどーせ明日休みだろ、付き合えと強制的に連れてこられた大知は、ビールをあおる康介を見てため息ついた。
「飲みすぎ」
そう言って康介からビールグラスを掴もうとするも避けられ。
「たいちはわかんねーんだよ」
「わかる、何度お前の失恋見てきたと思うんだ」
しかも男相手に…
「あのなぁ…」
諦めたように頬杖して康介を見る。
何度フラれたと何度別れたと言って俺の部屋に来たか。
「もう落ち着け」
それは一人で居ろと?と大知を見る康介の鼻をつまんだ。
「っ、なんだよ」
「オンナは興味ないのか?」
ない!とハッキリ言ってきた康介に、あーわかった、もうなにも言わないと、グラスを掴み酒を飲んだ。
同期で入ってきた康介。特に何があるとは思わなかった。席も近くに段々と話してるうちにポロッと話してきたのはそういう事で。だからって康介と仲を離れる必要ないと今まで居た。
寂しいのかなんなのか…気がつけば、違う男と居たり付き合ったりしてる。
飲みすぎたのか大知の腕に絡みつく。だから言っただろうがとは言うものの心配はしてる。
「俺の部屋に泊まるか?」
「…とまる」
俯いたまま動かなくなった康介に吐くのか?と様子伺えば前髪で見えない康介の顔から涙が落ちた。
…確か、珍しく長い付き合いって言ってたな
「…たいち」
ごめん…
「謝んなって、ほら帰るぞ」
康介の会社鞄掴むと離された腕に前にしゃがんだ。ほらと言う声に顔を上げると涙を拭い背中に抱きつく。
そのまま立ち上がり大知をおんぶすると家へと歩き出す。
「……たいち」
「なんだ」
何でもないと呟くと回した腕に力が入るのを康介は気づいた。マンションまでの距離。お互いなにも話さず時間だけがただ過ぎた。
玄関の鍵を開けドアを開けると降りた康介は倒れそうなのを大知は腕を掴む。
「もう寝ろ、余計な事考えんな」
「ねるー」
大知の背中で色々と考えていた康介は少しは落ち着いたのか先程よりは明るい。
先に入らせ、玄関を閉めると鍵をかけた。
「せめてスーツ脱げよ」
先に寝室に言ってしまう康介に声をかければわかってると返事が帰ってくる。
鍵を玄関の下駄箱の上に置き、ネクタイ緩めながら康介の鞄と一緒にソファに置いた。寝室に行き見るとスーツは脱いでるが投げ捨てられて。
苦笑いしながら拾うとベッドにうつ伏せで寝てしまった康介。うっすら見えた目尻に残った涙を拭うと寝室から出た。
「…ぅ」
頭痛と共に昨夜飲みすぎた事を思い出す。それと微かに匂う大知の匂いに目が覚めた。てっきり自分の部屋かと思いきや頭抱えながら体を起こすと絶対的に自分の寝室と違う構造。
窓の位置、カーテンの色、そもそもがベッド自体違う。もしかしなくてもまた飲みすぎて大知に迷惑かけて、そのまま泊まったパターンかと。
静かに開くドアの方を見ると大知はいつもと変わりない。
「起きたか」
「また…」
そうだなと開いたドアに寄りかかる。
「昨夜の話聞くか?」
いや…いい…と呟いたのは段々と思い出した別れ話。そうかと声に、飯出来てるから来いと大知はドアを閉め行ってしまい。
ベッドに置いていたTシャツとジャージ生地のズボンに手を伸ばした。シワになったワイシャツを脱ぎその服に着替えるも康介と大知は身長が違う。こうして泊まった時に準備してくれるのは嬉しいが、ズボンの長さに思わずずるいんだよと呟いてしまう。
裾を数回折り込み、Tシャツも少しダボッとした格好で寝室から出ると、テーブルにはちゃんとした朝食。ご飯に味噌汁にと男の割には料理が上手い。
酷い顔してるぞ洗ってから来いと言われた後、洗面所に向かい鏡で見ると本当に酷い顔をしていた。
本当に好きだった…珍しくずっと付き合えてたのに、飽きたらからと言われた時は泣くより怒りが来た。きっと男女の関係ならまた違う言い方があったんだろう。康介は水を出すと勢いよく顔を洗い早々に洗面所から出た。
向かい合わせて取る朝食。特に何も喋らない康介に大知もまた何も聞かない。唯一つけてあったテレビからは朝の情報番組からは地方の桜満開の映像が流れていた。
ふと康介は顔を上げて見る。それに気づいた大知も見る。
「…旅行行くか」
え?と言った康介に大知は何故か柔らかい顔を。
「気分転換、嫌か?」
「いや…じゃないけど…大知と一緒にどっか行くのは初めて」
そうだよな、社員旅行ぐらいかと何もなかったようにテレビから視線を外した。
「来週、二日ぐらい」
「…わかった、予定空けとく」
ご馳走様と言えば、康介が食べ終わるまで待っていた大知は席を立ち食器を片付ける。シンクに持っていけば康介は近寄りそれを手伝う。何度も泊まり風呂だったり服だったり借りてる為にそのお返し。
フラれる別れる度こうして飲んで帰りは大知の部屋で。康介の気持ちが落ち着くまで大知は余計な事は言わない。が、初めて康介に旅行行くかと言った大知。もちろん康介はどんな意味でそんな事を言ってきたのかわからない。
洗った食器を慣れたように片付けた康介。スーツはハンガー、問題のワイシャツはシワシワのまま帰るのもと思っていると、洗ってやるからと康介のワイシャツを掴むとドラム式の洗濯機がある方に持っていく。
それを黙って見ていた康介。
結局自分のわがままで別れた理由が何となく分かってきた。一緒に住むも料理に洗濯にと喧嘩しないように分担と言ってきた彼。なのに、社員の自分より夜も昼もアルバイト生活してる彼にわがまま言ってしまった…
思い出して俯く康介に出て来た大知はそんな大知を見ると頭を軽く叩く。そして離れるとテーブルにあった携帯を掴むとソファの方に座った。
「康介」
呼ばれて無意識に出た涙を拭い大知を見ると隣に座れと言うように。おずおずと近寄り隣に座ると、どこに行きたいと言ってくる。
「大知から言ってきたから大知が決めていーし」
「お前が行きたい所を聞いてる」
ここから見える携帯画面には時期のイベントやら宿やらが見えた。不意にスクロールした画面には桜が満開の宿の特集。思わず康介はそこ!と。
大知はその画面を開き探す。
「来週だったら…」
週末に被ると宿取れないんじゃと、一軒の宿屋の予約を見れば案の定満室だった。
「平日、有給取って行くか」
「大知は大丈夫なのか?」
自分より倍仕事をしてるのは知ってる。だから時に羨ましいと思う時が。
「大丈夫」
大知がそう言うなら…と決めた平日の一泊二日の旅行は明後日から。
乾燥もされたワイシャツに袖を通しスーツを着る。ネクタイはポケットにしまい鞄を持つと、ありがとと康介は部屋から出た。
日中の太陽が眩しさに落ち着いた筈の頭痛は再び来る。早く帰って今日は寝てよう。余計な事を考えるとまた辛くなるそう思い、大知のマンションから三十分程の距離を足早に。
住宅街の新築のアパート。その一階の角部屋のドアを開けると中に入り鍵をかけた。数週間まで居た彼の物は何一つない。一緒に住んで居たと言っても彼には住んでるアパートがある。バイト帰りに寄ってそのまま。自分のアパートに帰るのは平日の一日ぐらいで。その時から気づけば良かった。お互いの部屋に行ったり来たりしていた。めんどくさいから康介の部屋に泊まる、でもアパートはそのまま。
元から遊ばれていたのかもと思うも、ちゃんと愛してはくれた。飽きてきたから別れるなんてどうしたらそんな言い方してくるんだろうと考えれば考えるほどわからない。
ベッドに倒れ込むように顔を埋めるとそのまま寝てしまう。
ソファに座ったまま大知は予約した宿の周辺の観光場所を探す。
この時期ならどこでもいいかもしれない。桜だけじゃなく食べ物でも。遊ぶ所も。ふと大知の手が止まる。その画面には昔言っていた場所。宿を選んだのは大知だがその近くに康介が言っていた滝があるとは思わなかった。
親が滝やらダムなど見るのが好きで良く夏休みになると連れて行ってくれた。その中で一番綺麗だと思った滝、大人になったら行きたいんだけどさ、その場所がわかんなくて…なんだったかな…
思い出しても名前がわからず、雰囲気だけ聞いていた。
画面の写真はきっと康介が言っていた場所なんだろう。所々が当てはまる。
小さく口元緩めた大知はその画面を保存した。それから一人で考え予定を決めてしまう。そんなだから仕事も早い。
日中のビル街の歩道を歩く康介。あの後結局起きたのは気がついたら深夜だった。真っ暗になった家の中で月明かりにボーッと眺めていた。もう…恋するのはやめようかな。恋愛なんて自分に合わない。これまで何人付き合って別れて、かと思えばフラれ。最初は若さゆえに勢いもあったが、年齢を重ねる度段々と辛くなってくる。キズが癒されるのに時間がかかる。
不意に聞き覚えのある声に思わず足を止めた。振り返るとそこには元彼、遥希と女性がショーウィンドウを見て何やら会話してる。その距離は近く康介は黙って見つめた。そう簡単に自分の中から居なくならない…
その視線に気づいたのか遙稀は顔を向け康介と目が会う。付き合った中で一番かっこよかった、優しかった。遙稀は康介を見ると付き合っていた頃の優しい顔を見せる。思わず名前を呼ぼうとした時、遙稀は何もなかったかのように彼女を連れていった。
結局…
ただいまと会社に戻って来るとオフィスに居たのは数人。大知の後ろを通り隣の席に座る。どうだった?と聞かれるも康介は黙ったまま俯き。仕事でそうならないと思った大知は黙って康介の頭を撫でた。
「……もう、一生一人でいいや」
その言葉で大知は撫でていた手を止めると離した。
「俺、むいてない」
顔を上げて言う康介は苦笑いする。そうか…と呟くように言った大知にパソコンの電源を入れだす。鞄から書類出して、机の鍵を開けと仕事しだす康介に向こうから呼ばれ去った。そのデスクに置かれたマナーモードで震える携帯を大知は見た。画面の表示は康介に聞かされていた遙稀の名前。何しに連絡してきてんだと思ってると電話は切れ数分後に一件のメール。
流石に康介でも見ない大知は黙って視線をパソコンに移した。
戻ってきた康介は携帯の着信に気づく。悩んでるのか黙って立っていたのは携帯掴んで席を外した。
さっきまで一人でいいとか向いてないと言いつつも結局連絡が来れば嬉しい。誰も居ない休憩スペースで聞こえそうな程うるさい心臓に電話した。数コールの後繋がった電話の向こうは雑踏。
『もしもし』
「…………はるき」
『康介?ごめん、忙しかったよな』
「だ…大丈夫!」
思わず声が大きくなるのに小さく笑う声が聞こえる。
『さっき、久しぶりに見たからどうしてるかなってさ』
彼女…居るのになんでそういう事いうんだよ…
「…ズルいしよ」
と、近くに聞こえた彼女らしきの声に電話の向こうから聞こえた友達と言う言葉に思わず切った。
もう、戻れない…きっと、いつか会った時も…顔を見て話せない
不意に光った携帯に見るとメール。その前のメールも来ていたのに今気づいた。
―康介、元気そうで良かった
―仕事中にごめんな、声聞けて良かった、頑張れよ仕事
明日、大丈夫か?と大知から来た電話。大丈夫と返した。会社から出る時も聞いた言ったってのと言えばそうだなと返ってくる。もういい加減忘れよう。いつまでも引きずってんのもダサい。今は大知と一緒に旅行行ける事に切り替え。普段特に会って遊びに行くともない。この間のように康介が大知を強制的に連れて飲みに行くか、稀に大知から飲みに誘ってくるかのどっちか。
リュックの中をもう一度確かめてから康介は早々に寝た。
翌朝、アパートから出ようとした時目の前に見覚えある車。まさか?と近寄れば助手席の窓が開くと大知の顔が見えた。
「え?車?」
「駅までな、もしかしてバスで向かうつもりだったのか?」
あーと誤魔化し笑いすると乗れと言ってくる。確かに電車で行くとは言ってた。連絡ぐらいくれよと言いながら助手席に乗りリュックを膝の上に置いた。
気づいたのは家から出る時だったしなと言うもいつから居たのか車の冷房は効いてる。
ギリギリ間に合って良かったと言うのは仕事の話。余り二人で会う時は仕事の話をしないのは暗黙の了解で。この三日間の休みの理由を文句言われないように頑張った康介。
「もし駄目だったら、どうしようか考えていた」
「無し?」
「それもあるな」
そっか…と小さく呟くと窓の外を眺めた。平日仕事してるスーツ姿のサラリーマンとは逆の遊びに行く格好の二人。
「…知ってる奴に会わないようにしないとなー」
「休みの理由は違うしな」
そんな話しながらついた駅の駐車場に車を止めると荷物を持って降りた。まだ何となくズル休みの気分だが、改札口を抜けるとそうでも無くなった。
「向こう着いたらレンタカー?」
「状況にもよる」
そのまま車で向かっても良かったのだが、電車の方が楽しそうとそれに駅までの距離が近い。それ程山奥でもないのだが。アナウンスに入ってきた電車。そのローカル線の電車に乗るとそれ程人は乗ってこない。多いと思ったのはほぼ新幹線待ち。
空きの席を見つけると康介はリュックを下ろし座ると向かいに大知もまたリュックを下ろし座った。少し上げた窓からはちょうどいい風が入ってくる。
動き出した電車に頬杖ついて流れる景色を眺める康介に大知は見ると目線を外し携帯をいじり出した。暫く見ていた康介はそんな大知に立ち上がると横に座り出す。
「なに見てんのさ」
「スケジュール」
やっぱり大知だよなそういう所好きだなと覗き込む。画面には今乗ってる電車がどこの駅に着く時間とかそれからの行動やら。その中に見つけた滝の名前に康介は見開いた。
「……大知」
前に言ってただろ?名前はわからないが場所がこんな所だったと。
「そうだけど……よく、そっちの方を覚えてんな」
「なんとなく」
そっかと言うと何か嬉しそうな顔を見せた。
途中一回寝かけた康介に寝れる余裕があるなら大丈夫だなと思った大知。席を外して何を話したのか戻ってきた康介の顔は暗かった。アイツから別れておきながら今更電話してくる、そんな行動は大知にすると許せない。まだ康介の気持ちを掻き乱すのかと。
次の日は意外と普通の顔で会社に来た。あれからどうして居たのかわからないが。
最寄り駅に着き宿までの直通バスに乗りついた宿屋。先に行く大知に後を追う。大濱様でとの声にそう言えば大知の苗字大濱だったな…と思い出した。入社してから名前呼びしていた康介。それこそフルネームで知ったのは最初だけで。
会社で苗字で呼ぶのも居れば名前で呼ぶのも。そこまで気にもしないのはずっと隣の席だからで。
行くぞとの声に気がついた康介は再び大知の後を追う。歩いていく通路から何故か少し離れに近い部屋で。あの時は確かこの宿で安い部屋にしたはずと記憶を巡る。一部屋の前で大知は預かったキーを部屋のドアノブに差し込んだ。
「部屋、ここ?」
「気づいてなかったか…」
「いや、やっすい部屋かと思ってたし」
キーを外して中に入ると和室の隣には露天風呂があった。リュックを置くと康介はその露天風呂の方に。
「こっからでも桜見えるじゃん」
「らしいな」
まさか、その為に?と振り返った康介にそうだと返す。
「大浴場もあるが」
せっかくだしここでいいしと言った康介の腹が鳴る。小さく笑う大知に何となく恥ずかしい。昼メシ食いに行くかとリュックの中に突っ込んでいた財布と携帯を取り出して。
バスに乗って一度下がるのも良いが、自然の森の空気を感じながら歩いて行ける距離にあった休憩所のようなレストランに向かおうと。その向かう道は宿から歩道があり先に歩く男女の恋人同士。
その後ろ姿を黙って見つめるのは何故か大知。
時折鳥の鳴き声を聞きながら不意に康介は呟いた。
「…ありがと」
その声に大知は康介を見ると真っ直ぐ前を向いて。あの電話があった日の次の日、最後に会ってきた。それは何か懐かしそうに言う。
「あの電話が来た日さ、日中偶然に会ったんだよ…彼女連れて」
やっぱりあの女性が彼女だって、しかもさ…どっかで思ってた遊ばれてんじゃって事さ…そうだった
顔を上げて苦笑いした康介は再び前を向いた。
「逆に最後にハッキリして、自分の中でスッキリした」
だから、心配かけてごめん…色々迷惑かけて悪かった
「康介がそう言うなら…それに迷惑だと思ってない」
そう言う所だよな~大知は、だから会社でモテるんだよ、何でも出来て。
「羨ましい」
「そうか?」
そーだっての…
駐車場にも数台居る車に季節がら混んでる。ここの休憩所も桜の開花で所々で写真を撮ってる。
それより先に飯にしようぜと言った康介に中に入る。お土産品なんて無いここは食堂だけで、大きな建物はテーブルと椅子がほぼ占めてる。
券売機スタイルで決めた康介はラーメンで。向かい合わせで大知のカレーに何故か笑う。
「ここに来ても抜けないな」
「康介もだ、普段昼に食ってるのと変わらない」
まあ、宿の夕食が逆に楽しみになるけどなーと割り箸を割るとラーメンを啜った。
会社の近くのラーメン屋も旨いけどこういう所で食うのも美味いよなと言いつつ康介は大知のカレーが気になる。それをチラ見した大知はスプーンで掬うと康介の前。
「食いたいんだろ?」
「…まぁ」
食えと言うように差し出されたカレーに康介は口を開くと大知は入れた。
「…美味い、そっちも」
あ、ラーメン食う?と言ってきた声にスプーンでいいと麺を箸で掴みあげると大知のスプーンにのせた。それを食べる大知を見つめる康介。
「…大知さ」
うん?と目線だけ向けると、いつから料理出来てた?と。
「料理な…」
少しの間の後いつの間にか出来てたと返す。一人暮らしだからな。
時に大知の部屋に泊まると夕食も朝食も当たり前の様にテーブルの上にあった。もちろん出会ったばかりは遙稀が居た為もあって泊まるすら出来なかったが、仲が良くなる度にたまに夕食出してくれた時も。そっか…と返したが確か初めて大知から出された飯は袋ラーメンだった気がするなー…と思い出す。
予定では昼は一旦荷物置いてから下に降り昼食を取り戻ってくる。その筈が近場に変わった事で夕食まで時間がある。大浴場行ってみるかとバスタオルと置いていた浴衣を持って大浴場へ。宿と言っても日帰り温泉もやってる為に宿泊客だけじゃなく。部屋から出て表記の通りに行くと見えた大浴場の入口。暖簾を潜り中に入るとそれなりに人が居る。空きの荷物置き場を探すも無く結局籠を持ってきて脱いだ服を入れた。
「そーいや、一緒に入るの初めてだっけ」
「そうだな、泊まれば勝手に先に入るしな」
社員旅行では気づいたら先に上がっていた。
それは酔っ払っての話だろとそんな話しながら浴室へと。空きの席探して見つけた場所でシャワーの湯を出した。
久しぶりに温泉に入ったとジャグジーの湯船に浸かりながら帰りたくねーと言った康介に大知は笑う。歩きの営業。アパートの風呂じゃ疲れが余り取れない気がする。古い訳じゃない今時の新しいが時々気が向いたら一人で近くの銭湯に行ったりしてる。
備え付けのシャンプーにリンスを使い髪を洗い浴槽では無く外にある露天風呂の方に。
「こっからも桜見えんじゃん」
岩造りの露天風呂に入り桜が見える方に体を向けた。その向こうは川でそこから上がっていくと康介が言った滝がある。
「明日、行こうか、滝」
「行く…」
少し離れた場所で肩まで沈んで居た大知は岩場に腕を組んで体を伸ばしてる康介の体のライン。身長低いわりには体型はそれなりに男らしいと見ていた。大知のアパートに来れば服は大知のを貸してる為にダボッとしてる。その時は痩せかと思ったがそうでも無い。
「康介」
うん?とそのまま振り返った時に他の男性が入ってくる。その先を黙ってしまう大知は立ち上がり先に上がる。もう?と言ってきた康介にゆっくり入ってろサウナ行ってると出ていった。
そんな大知に康介は小さく小首傾げると黙って膝抱えるように。
自然の音が聞こえる中に川の流れの音が微かに聞こえる。不意に子供の頃を思い出した。毎年のように旅行に行っていた家族。康介が就職して家を出ていってからはわからない。時々来る連絡は元気してるのか?と父親の電話。
そう言えば…昔から母さんより父さん寄りだったような気もする。よく言われたのがお父さん似ねと。
入ってきた男性は先に出ていく。それをチラリと見てから微かに見える浴室を見れば大知が居るのに気がついて康介も出ていった。
美味そうと言ったのは目の前のお膳が普段ラーメンやらカフェのお昼しか食べてないからで。
定番の刺身や天ぷらにお吸い物。歩いて食堂で食べたラーメンもどこかに行きそれなりに腹は減ってる。風呂上がり部屋に来た時ちょうどお膳を持ってきていた。
向かい合わせで座ると携帯コンロに火を付けた。お膳の側に置いていた瓶ビール。グラスを持つと大知は栓抜きで蓋を開けると康介に注ごうと。
「俺、先に大知にやるし」
「いい」
ほら、グラスそう言った大知に大人しくグラスを差し出した。注いだ大知に次と康介は大知のグラスに注ぐ。お疲れと乾杯したのにおかしいのか大知は小さく笑う。しょーがねーだろと呟くとビールを飲み箸を持った。これなんだろと言いながらも口に入れ食べると魚だと。
ふと携帯が鳴る。この着信音は康介の携帯。箸を置くと立ち上がりリュックから携帯を探した。
「会社からか?」
わかんねーから見つけたと言った康介は黙った。
「康介?」
何か様子がおかしいと大知もまた箸を置くと近寄った。その視界に入ったのは遙稀の名前。思わず大知は掴み取ると、顔は大知を見上げる。返せよも言ってこない康介に大知は出た。
見知らぬ声に電話の向こうからは間違えましたと切れそうな電話に大知は、もうかけてくるな、一切連絡してくるなと。その何気ない言葉に康介は見開いた。
「……大知」
そっと差し出した手に大知はまだ切れてない電話に、ありがと…じゃ…と言って自ら切った。その後電話帳から遙稀の名前を消した康介。これでホントにスッキリしたーと携帯をリュックに投げ入れると席に着いた。その携帯を見つめていた大知の背後から、鍋沸騰してる!との声に気づいたように振り返ると戻った。
「蓋開けろ」
言われたように康介は蓋を開け脇に置いた。小さな鍋に入っている野菜に鶏肉。箸で少し崩すとレンゲで小鉢に入れ食べ。
あのさ、と何気ない顔で言い出した康介に大知は箸を止めた。
「さっきの話なんだけど、ありがと」
「…俺は何もしてない」
違うって…大知みたいにハッキリ言えなかった事思い出した。ずっとウダウダしてどっかで引きずってたりしてたなってさ。
「だから、さっきの大知見て…やっと自分から言えた」
良かったな…と言った後箸を付けた大知を見てうん…と小さく嬉しそうにする。
売店から買ってきた缶ビールを開けて飲む。少し涼し気な空気に触れながら、居間から少し出た扉を開け。椅子に座り込んで。
黙ったまま外の景色を眺める康介に、また考えてるのか?と聞こえてきた。違うよ…そんなんじゃねーしと掴んでいた缶ビールを飲むと大知を見てジッと見た。
「どうした」
「なんとなく」
酒飲むと絡んでくる康介。どこで飲もうが。なのに今日はおかしい。
「…大知ってさ、昔モテただろ」
急にそんな事言ってくる康介に向こうを眺めながら黙って缶ビールを飲み込む。
「大知」
「……そうでもない」
ふーんと返した康介もまた向こうを眺めた。静まり返った空気は流れる川の音が聞こえる。
「俺さ…」
昔っから父さんの方に懐いててさ、大好きな人はって聞かれればお父さんって必ず言ってた。
「それは聞いた」
言ったっけか?と何かおかしそうに笑う。
「母親は」
母さんは逆に弟の方ばっか見てた。だからさ、何かすると母さんじゃなくて父さんから連絡来る。きっとどこかで母さんは俺の事嫌なんじゃないかってさ。
……言ったから
「言ったのか」
自分の中でさ違和感あった頃に、初めて付き合った同じクラスの奴連れて。もちろん母さんは嫌そうな顔してたけど、父さんはそうでもなかった。ある日聞こえてきた会話。会話っつーより喧嘩してた…というか母さんが父さんにふっかけててさ。康介は康介だろ?とは言ってくれたけど、それ以来母さんとは話してない。
「この間、入院がどうとか言ってただろ」
「あれな、父さんから母さんが倒れたって話、検査次第で入院って言ってたけど、結局母さんの嫌がらせ…」
次の日実家に戻ったら普通に居て、なんで帰ってきたの?みたいな顔されて。
「おかげで…ちょっとオンナも苦手になってきたかなー最近」
康介はそのままで生きていくのか?との声にそ、と返す。
「だからって隠してまで生きていきたくないしさ」
もう大体気づいてるだろ?会社の中で、藤川とか上坂とか、最近様子ちげーもん。距離置いてる気がする。
人それぞれの考えあるから強要しないけどなーと飲み干すと、寝るかななんて言って背伸びする。
「大知も寝ない?」
「そうだな…明日はまた歩くしな」
そうそうと立ち上がる康介に大知もまた立ち上がると扉を閉める。既に敷いてある布団は自分たちで敷いた。少し開いたその間を見るとすぐさま俺こっちと先程まで居た扉の方の布団に入った。どっちでも良かった大知は消すぞと部屋の襖の隣にあったスイッチで明かりを消すと側の布団に入った。
静かな暗がりの部屋の中、ボソッと。
大知…俺と付き合える?
そう聞こえた声の後おやすみと小さく響いた。
忘れ物ないか?とリュックの中を調べる。会社からは来てないなと携帯を見るもそれこそ遙稀からも来てない。
「康介」
「あ、大丈夫!」
携帯をズボンのポケットにしまうと先にフロントに行ってるからなと出ていった。一人になった康介はゆっくり部屋から出る。フロントまでの距離の廊下。その庭園が見える廊下で康介の足は止まる。ポケットから携帯を出すと写真を撮り始めた。
…そういや、大知と色んな所…
記念と言うほどでもない。社員旅行で行った時は仲がいい別の社員と居た気がする。綺麗に整った庭園の写真を撮ったのを見てると不意に頭を軽く叩かれ顔をあげた。
「あ、そうだ、大知写真撮ろ」
「ここでか」
いーじゃんかと引っ張り庭園をバックに。撮った写真を再び見る。それは全体的じゃなくて…大知。いつもと変わらない顔に大知だよな…と苦笑いした。
「行くか、滝」
そうだったと思い出した康介は歩き出す。その後ろを歩く大知は昨夜の事を思い出していた。俺と付き合える?それは大知にちゃんと聞こえていた。だがその場で返事は出来ないと思うのは、きっとまだ康介は元彼の事が残ってる。
昔からそうだった。告白されてもどこか誰かを思ってる気がしてしょうがない。康介の言うように大知はモテていた。告白してくるも何かが気になる。気のせいかと思ってそれほど面識のない女子に告白されて一度ハッキリ言った事がある。
ー悪い…軽い気持ちで来られても迷惑
そんな大知だと広まったせいか告白率は減り。それでも来る女子は居たが、おかげで何となく苦手になってきた。めんどくさいとどこかで思っていた。それは今の会社の入社式。女性より康介を見た大知は何か違うと。
昨日行ったレストランとはまた別な方向に向かう足。丸太で作られた道の横はすぐ川が流れている。階段から下る前は遠くに見えていた川は階段から降りた土の道に出た途端近くに。そこから滝が見える。
「あれか」
そう!と先に行った康介に大知は後を追う。
その高さとマイナスイオンに見上げてると横で写真を撮る康介に気づいた。
「…康介」
うん?と携帯から大知に視線を移す。一つどうしても聞きたいことがずっとあった。
「……康介の中には誰が居る」
一瞬見開いた後視線は滝の方へ。すると返事は案の定だった。
……どっかであいつの事あるかもしんない
まだ元彼の事を思ってる康介に大知はしばらく黙るとわかったと顔は滝を見る。
「……ずるいというか酷いよな」
そんな呟きは目の前で流れてる滝の音によってかき消された…
おはようとオフィスに入ると何か空気が違う。いつもの事だと思って気にもせず席につくとパソコンの電源を付けた。デスクの引き出しから今日予定の書類を出してると不意にメールが来る。
ー悪い、今日休む
そう大知から来た。あの後の帰りお互い黙っていた。どちらかが何か言えば多少の会話で終わる。気まずいのは自分で作った原因。その一方何故か大知の機嫌が悪そうにも見えた。
わかったと返して顔を上げれば今度は遙稀からのメール。
ー康介……最後に会わない?笑って別れよう?
そんなメールに返事もせず携帯を裏返しすると同僚の芦谷が来た。
「おはよう」
「…おはよ」
あのさ、とデスクに隠れるようにしゃがむと康介の顔を見上げた。
「昨日大知と一緒に居たか?」
誰にも言ってない話。大知からも言うやつじゃない。
いやさと話してきたのは昨日営業でまわってた時に偶然みた。しかも見たのは康介を避けてる藤川。会社に戻ってきた時にそれを勝手に康介と大知が付き合ってんじゃないかの話。それからボロくそに言っていた藤川に芦谷が止めた。
ガキかよ、いい大人が人の人生に文句つけんな!と。
「…ありがと、芦谷」
「いや、俺はいいんだけどよ…そういや大知は?」
「今日休むって連絡来た」
そっか、と立ち上がった芦谷に藤川が入ってくる。
「……キモ」
あいつの話真に受けるなよと去っていった金沢を見てると藤川に何か言ったのか胸ぐら掴まれる。それを睨む芦谷に舌打ちして手を離すと席についた。
そもそも恋愛対象が違うんだ…
結局どこ行っても一人だな…そう思いながら先程伏せた携帯を見ると元彼に何時?と連絡し。
一件の仕事を終わらせ腕時計を見た。昼は過ぎたが待ち合わせ場所には間に合う。走って向かう康介の視線向こうには彼女と居た時に会った以来の姿。走っていた足は歩き出す。声をかけようとした瞬間不意に引っ張られた。その掴まれた腕の手を見ると見開いた。それは見覚えある手。視線はそのまま上へと移動させるとやはり大知だった。私服姿で手には買い物してきたのか買い物袋にネギや豆腐やら入っていた。
「どこに行くつもりだ?」
その視線は向こうの元彼。気づいてると康介は思わず離せよと言ってしまう。
「より戻すのか」
「…違う、てか勝手だろ!」
腕を振り払う康介に静かに離した。ふと見るとやはり怒ってるような顔。そんな表情に目線外すと元彼の前へ。
「ごめん、またせて」
「いや」
昼メシ食った?と聞いてきた元彼にまだと。奢るから何食いたい?と言われ麺類がいいと。歩き出した元彼に康介もついて行った。
スッキリしたとかもう忘れたとか言いつつも遙稀から連絡がくればいってしまう。どうしようもないな…と俯くと遙稀は気にして声をかける。
「嫌だった?」
「そんな、じゃなくてさ…」
目の前の笊蕎麦を見つめる康介に数秒の無言の後遙稀は言ってきた。
「康介さ…好きなやつ出来た?」
見開くと顔をあげた康介に遙稀は口元緩める。
「何年付き合ってるんだよ…康介の事全てわかるし」
つか出来たというより…居たってのが正解かなー
そう言って遙稀は蕎麦を汁が入った器に入れると口に入れた。「はるきは…」
うん?と噛み砕き飲み込むと康介の用事を伺う。
「はるきは俺の事…」
今は友達で居たい、確かに別れようとは言ったけど康介の事嫌になった訳じゃないからな
「……じゃ、なんで飽きたって」
顔を上げた康介は遙稀を見つめる。
「はるきが居たから…一人じゃないって」
会社に行っても言うやつは言うし
「それでも庇ってくれる奴もいるんだろ?」
一瞬見開くと再び俯いた。
「この間の電話の奴…アイツ、康介の事ちゃんと見てんじゃん」
そりゃ一瞬焦って間違いとは言ったけどさ…
「その後、康介の言葉でありがと、じゃって…」
本当はソイツの事好きなんだろ?
更に俯き小さく唇噛み締めると聞こえてきた声は、好きかもしんない…
なら解決と言った言葉に顔をあげた。
「……嫌いにならない」
「ならない、ならない…言っただろ?俺は康介と友達で居たいだけ」
な?わかったか?と遙稀は箸を置いて頬杖して見た。
「会社にちゃんと見てくれてる奴も居るし守ってくれてるのも居るし…康介が幸せそうで良かった」
一人じゃないからな、康介は
そう言うと遙稀は、仕事中なんだろ?早く食いなよと箸を持った。康介もまた箸を持ち食べ始める。そんな康介を見てやっと素直になったなと小さく口元緩めた。
夕方過ぎ大知の部屋のインターホンが鳴る。誰かと思い出ればそこには康介。
「…入るか?」
片手には缶ビールやら入ったコンビニ袋。それを見た大知は夕飯作ってやるからそれは後なと去っていく大知にお邪魔しますと玄関を閉めると靴を脱いだ。その言葉にキッチンに先に居た大知は一瞬動きが止まる。あの昼、二人で会って何を離ししたんだろうか。勝手だろ!と言った時の顔は何か泣きそうで。
リビングのテーブルに袋を置いた康介はスーツの上着を脱ぐとソファの背もたれに掛けた。鞄もソファに置き袖を捲りあげるとキッチンに居る大知の側に。
「どうした」
やけに静かだなと言えば手伝うの一言。テレビがついてる部屋の中、唯一の救いかもと康介は思う。改めて大知を好きだと気づいてしまったというか気づかせてくれた遙稀。別れ際、ありがとうと笑顔で言った康介。
「今日、なんで休んだのさ」
ボソッと聞こえてきた声にフライパンを出した大知は話、芦谷から聞いたからな、それで。
「大知らしくねーの」
ザグザグと切った野菜をまな板の隅に置くと勝手に大知はフライパンに入れ炒めはじめた。
「居たらキレそうだったからな」
「え…」
そんな事言わない奴だと思っていたと大知を見る。
「どうしても許せなかった」
勝手に話を作って文句言ってる奴らがと手を動かしていたのは止まる。火を消すと康介の顔を見ず、食器棚から平皿を出して皿に盛り付ける。
「既にそうなら話はわかる、まだそんな関係になってもないのに」
とやっと見た大知に一気に顔を赤くした康介は何故か後退りする。
「康介」
「………大知、それって」
言いながら後退りする康介に近寄る大知のせいで壁側に。
「昼、お前がアイツの所に行った時、アイツは一瞬俺を見た」
小さく口元緩めたその顔は、康介をよろしくと言ってるようだった。
遙稀は平日一日しか来ないのは会社で時に嬉しそうに帰ってくる康介を見てるからで。それが何か嫌だった。本当は一緒に住みたいのに…そうしてるといつの間にか週一なのも飽きてきた。そのうち康介が気が付かない内に大知の話をし出す。そんなきっかけに遙稀は別れ話を出てきた。
いつも誰かをどこかで思っている気がするのは逆に見透かされていた大知。それでも連絡しなかったのは康介がちゃんと決着してからにしようと。案の定康介はこうして来た。
背の高い大知を近くに見上げる。
「普段気にもしなかったが、身長差があるな」
「わるかったな…」
俺も言いたかった、泊まる時貸してくれるのは嬉しいけど毎回合わないんだよと。今度康介ように服買って置いておくと言えば離れて皿に入ったままの野菜炒めを持つ。
内心心臓バクバクしながらもさっきまで居た大知の場所から離れられない。
「飯食わないのか?」
キッチンテーブルに置くと振り返った。ネクタイとワイシャツ掴んで俯く康介を見ると再び近寄った。
「康介、どうした」
掴んでた手は大知の服を掴む。
「………たいち」
小さく聞こえた、大知が好きと言った康介に横から抱き抱えると寝室に連れていきベットに下ろした。赤い顔して手の甲で隠す康介にそんな顔もするんだとと同時にアイツにも見せていたのかと思うと何か悔しい。
ネクタイ外しながら近づいた顔にゆっくりと離した手。そのまま顔を近くにいいのか?と囁けば黙って頷いた後唇を塞ぐ。
「…たいち……遠慮しなくていいから」
経験からすると康介の方が上だろう。だがその度大知の中でアイツの存在が出てくる。
…上書きしてやるから、覚悟しとけよ
オフィスにおはようと入れば芦谷がおはようと近寄ってきた。
「ありがとな、芦谷」
「いや」
と後から来た康介を見ると芦谷は大知の方を向く。
「康介は大知の方が安心する」
そう言った芦谷に大知はそうだなと。自分で言ってのけた言葉に芦谷は笑った。
「昨日午後から藤川出張だってよ」
「もう関係ない、アイツは」
そうか、とお幸せにと言い芦谷は去っていく。
嘘ついていた訳じゃない、存在意識がそう言っていた。誰かと付き合ってなくてはどこかで死ぬほど寂しくて一人だと。
それは遙稀と大知に出会って気づいた。
「一つ言うの忘れてた」
何、とパソコン見つめながら言った矢先、俺の部屋に住むか?の声に思わず見た。
「………マジ?」
「そっちの方がいいだろ、また同じ事を繰り返す前に」
で、どうするんだ?と聞けば住む!今住んでる部屋解約すっから!と。
もう…自分に嘘はつかない…正直に生きていく。
End
読んで頂きありがとうございました。