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#自撮り界隈

作者: ロック

僕の朝は、アート・ブレイキーの「mornin'」をレコードで流してから始まる。

年齢は22歳、高校を卒業後、地元のクリーニング店で勤務していたが、1年勤務した後に、突然の発作に襲われ、そのまま職場で倒れ、適応障害と診断され、療養のために休職。

休職1ヶ月後に退職し、今は作家になるために、作品を何本を描き、様々な媒体に小説を投稿してるが、残念ながら入賞すらしない。


まぁ、作家になりたいというのは、逃げ道の口実として利用してるだけで本心ではないのかもしれない。

なぜなら僕はここ最近小説を殆ど読んでいないどころか、老年看護学とか、がん看護ケアとか、スネルの臨床解剖学のような、おおよそ小説とは無関係の本ばかり読んでいるからである。

転職活動もするが100社落ちた時点で転職活動をやめた。

社会に蔓延る"学歴不問"という言葉に憤りを感じるが、恐らく本当の意味で学歴不問であっても僕は将来性がないと企業から判断されたのだろう。

懸命な判断である、僕のような無能な人間は採用しない方が良い。

現在は、生活保護を受給しながら生活をしている。

ケースワーカーからは、「働け」と言われるものの、僕のような人間を雇ってくれる職場がなかった事実を知り、今は何も言われなくなってる。


障害者枠であっても、基本的に身体障害者が有利であり、しかも3年という長期的なブランクがあると、転職は難しくなる。

支援してくれる家族はいない。なぜなら両親から捨てられて、施設で育った僕は最初こそ祖父母の実家で暮らしていたものの、入社3ヶ月目あたりで、一人暮らしを始めた。


こんな僕だが、家族愛とか、妻のいる生活というのに憧れており、決して容姿か優れてるわけではないがマッチングアプリを行なっているが残念ながら出会えない。

それと、僕はセックスが目的ではないため、援助交際を目的としている女性が多いマッチングアプリとは相性が悪い。

だからこそ、僕はTwitterという媒体で出会いを求めるようにした。

しばらくTwitterを続けていたらフォロワーは1200人となるがMS-DOSやAmiga1200、X68000関連のツイートばかりしてる僕のツイートにいいねやリプライはほとんどつかない。

そして、僕は友達がいない。

いや、通話ができるネット上の友達はいるが、現実世界での友達はいない。

一時的に入った業務委託での仕事の際にクライアントから「友達作れ」と言われたが、その通りである。


僕は友達がいないし、悩みを打ち明けられる存在もいない。

そして、今日という日を孤独に生きてる僕だけど、それでも「自撮り界隈」にいる美少女達に心を弾ませている自分がいる。

自撮り界隈にいる美少女の多くは地雷系と呼ばれるゴシックロリータファッションに身を包み、黒のウレタンマスクをつけており、目元は加工アプリで盛られた自撮りを載せており「自撮り界隈」という言葉にハッシュタグをつけている美少女が多く、フォローフォロワー比も1:10〜1:100、1:1000とフォロワー比率が高い人が多い。


その自撮り界隈にいる少女の1人、鼻に少し丸みがあり高い美少女の1人、横顔が誰よりも美しい(少なくと僕は現在そう感じている)少女の1人、躁鬱てゃん!に恋をしている自分がいる。

躁鬱てゃん!のフォロワーは、340人、フォローが10人でDMは、閉じており、残念ながら僕が関わることは、できない。

取り敢えずフォローを行い、彼女のインスタもフォローするが、DMが返ってくることはない。

しかし、彼女の自撮りを見るたびに胸が高鳴るのを感じる。


午後0:50ごろ、僕はランチを食しながら彼女の自撮りを見ながらスプリングソナタをレコードでかける。

美しい、なんと美しいことだろう。

彼女という存在はまさに神が作りだした芸術作品の一つだと言っても過言ではないほどに美しい。

彼女と付き合いたいという気持ちに潰されそうになるが、その気持ちを発散させるために別の少女と関係を持つことにする。


"田中ちゃん"というハンドルネームでTwitterを行なっている通話界隈というラインやディスコード等を通し通話を行なっている界隈に所属する少女にDMを送り、通話を誘う。

どうやら、彼女は池袋に住んでいるらしく、僕が住んでいる横浜市からもまあまあ近い。

趣味が合うわけではないが、彼女はどうやら僕の声が好みらしい。

いきなりくちゅくちゅとリップ音を出していたり、脈略もなく「セックスしよ」と誘われる。

たまにリストカットも見せてくることがある。

顔もそれなりに可愛いと言われる部類だろうが、僕は好みではない。それどころか、僕の思想を理解できないのか、少なくとも話が合うことはない。

多少は気持ちが紛れるが日に日に彼女の情緒が不安定になっていき、唐突に胸部の写真を送られた時は、引いてしまった。


「僕は君のような知性のない低俗な凡人と関係を交わすことはできない」と一言残し、通話を切り、彼女をブロックした。


そして3週間が経過したのち、彼女はニュース番組に出ていた。1人の少女の訃報として。

彼女はツイキャスというライブ配信の媒体で、配信をしながら、その身をホームに投げた。

電車が通過し、彼女の内臓が、鮮明に映った。

僕は1人の少女の命を奪ったとも言えるが、僕はきっかけに過ぎない。

罪悪感はない。むしろ僕の脳裏は、躁鬱てゃん!のことで頭が真っ白であった。


こうして、彼女の自殺から1週間が経過した頃であった。

躁鬱てゃん!に彼氏ができたことを彼女はツイートしていた。

僕は強い絶望感に襲われた、そしてメンタルケアをしてくれた田中てゃんも死に、就職先が決まってない僕はまさに無敵の状態だ。


特定班と呼ばれるSNSユーザーの住所を特定できるユーザーに彼女の住所を特定してもらい、新潟のX高校に通っていることが発覚した。


彼女を殺す、そして僕も死んでやる。

脳裏に一種のマーダーゲームが浮かんだ。


そして夜行バスの出発直前、僕はターゲットである躁鬱てゃん!のアカウントを覗くと彼女のアカウントは削除されていた。

タイムラインに流れてくる、彼氏らしき男のツイートに流れてきた、写真。


「こいつ、躁鬱てゃんなんだけど、現実は豚でワロタWWW」とツイートされている写真には35歳と思われる容姿で肉塊を思わせるその姿は養豚場にいる豚を彷彿とさせた。

これが、僕の殺そうとしていた"躁鬱てゃん!"か・・・僕は出発直前にバスをキャンセルし、自宅に帰った。


自撮り界隈、それは人間の憧れる一種のイデアであり、自撮り界隈は端末上の中にしか存在しない世界なんだなと認識した。

そうだ、僕は哲学者になろう。

そして、この世界の全ての現実から逃避しようと考えた。


僕は翌日図書館に行き、ツァラトゥストラかく語りきを手にした。


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