5.謁見。
「ほう。貴様らが騎士団から出向いた者たちか」
「お会いできて光栄です、リードハルト伯爵」
「うむ」
リードハルト辺境伯はガリア王国の領地の最南端、そこに位置するヘンドリックス領を統治する人物だった。諸外国との交渉などを行い、窓口になるのは基本的に辺境の貴族。配置される者は、それなりの実績を持つ、立場ある人間ということになる。
リードハルト伯もまた、その例に漏れず。
堂々とした態度でアイロスやリターシャを出迎えていた。
「いやはや、この地にきてから早十数年経つ。いまの王都はどうだ?」
「小さな諍いは絶えませんが、概ね平穏無事、といったところでしょうか」
「なるほど。しかし、貴族たちのつまらぬ争いは世の常だろう。儂はこのヘンドリックスにやってきて、とても恵まれておる。ところで――」
そんな世間話の最中。
リードハルト伯は、ふと後方に控えていたボクを見た。
そして、少し不思議そうな表情を浮かべてこう訊ねたのである。
「そこにいるのは、平民であろう。何故、貴様らに同行している?」
それは、ご尤もだ。
アイロスはどう答えるのだろう。
そう思って、彼の答えを待っていると――。
「あぁ、彼は……」
なんの迷いもなく、こう口にした。
「先日、スカウトいたしました。我が騎士団の期待の大型新人です」――と。
……ちょっと待ってもらえますか?
「え、ちょ……!?」
「ほほう。ずいぶんと小柄だが、貴様が目をつけるのであれば相当なのだろうな」
「えぇ、そうです。彼の実力はすでに、騎士団の中でも最上位に食い込むでしょう」
「そのような人材が、我が領にいたのか。いやはや、儂の目も衰えたか……」
思わず口を挟もうとしたが、二人は勝手に盛り上がっていた。
ボクとしては過大評価も良いところで、実に居心地が悪い。リターシャはリターシャで、呆れたよう肩をすくめて黙っているし、助け舟はなさそうだった。
こうなっては、どうしようもない。
勘違いは勘違いで、早々に訂正したいところだけど……。
「それに、件の魔物相手には彼の力が必要不可欠でしょうから」
「え……?」
そこでふと、アイロスがそう口にした。
どういう意味だろうか。
ボクが首を傾げていると、リードハルト伯が眉をひそめて言った。
「うむ。次第に力をつけているそうだが、大丈夫か?」
「絶対とは、言い切れません。しかし、打倒は十分に可能かと」
「そうか。貴様がそう言うのであれば信じよう」
対して、アイロスは自信ありげにそう答える。
いったいどのような魔物が、今回の相手なのだろうか。
そう考えていると、話はここで終わりだと言わんばかりに伯爵が咳払いをした。そして、おもむろに立ち上がり言う。
「では、そろそろ会食としようか。この街の近辺で採れる珍味を振舞おう」
「ありがたく頂戴いたします……!」
アイロスの声が、あからさまに弾んだのが分かった。
ボクとリターシャは顔を見合わせ、思わず苦笑い。
ひとまず、今日はしっかりと情報を集めることにしようと思った。
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