4.出生。
――物心ついた頃、ボクはすでに孤児だった。
母親の顔も、父親の顔も知らない。
ボクの中で一番古い記憶は、院長のミランダさんに抱きかかえられているものだ。彼女曰くボクは、風雨がひどい夜に孤児院の前に捨てられていたらしい。
リッドという名前の走り書き。そして、
「リッドくん? 少し、いいかしら」
「ミランダさん……?」
孤児院の中で与えられたお世辞にも広いと言えない自室。
そこで、今日の出来事を思い返していると彼女がドアをノックした。
招き入れると柔和な笑みを浮かべるミランダさんは、ボクに椅子に腰かけるよう促す。だけど、それを断ってボクは彼女に譲る。
そうなると、さすがのミランダさんも断れなかった。
小さく会釈をすると、小さく息をつきながら彼女はそこに腰かける。
「それで、どうしたんですか? こんな夜更けに」
「えぇ、そうね。少し昔話がしたくなって……」
「昔話……?」
そして、ボクが訊ねる。
するとミランダさんはしばし考え、こう口を開いた。
「貴方もしかして今日、王都の人と会わなかった?」――と。
その言葉に、正直に驚いた。
たしかにボクは今日、偶然とはいえ王都の人に遭遇したのだから。
「はは……。やっぱり、ミランダさんには隠し事できませんね」
「そうね。それが、私のスキルですから」
「そうですね」
たしか、彼女の持つスキルは【読心】だったはず。
ボクの身に何が起きたのか。そして、なにを悩んでいるのかは丸わかりだ。それでもミランダさんは、その力でむやみやたらに他人へ干渉しないはず。
そんな彼女が、あえてこう言ってきたのはなにか理由があるはずだった。
「リッドくんの考えている通りよ。貴方にはもう、伝えても大丈夫だと思って」
すると、やはり心を読まれたらしい。
だがしかし、伝えても大丈夫、とはどういうことか。
「聞かせてもらえますか……?」
「分かりました。でも、その前に『これ』を」
「え、それは……」
そう言って、院長が差し出したのは一つのペンダントだった。
見覚えがない。でも、どこか懐かしいと思えた。
「見覚えは、ないでしょうね。でも、これは貴方のものですよ」
「ボクの……?」
手渡され、そこに描かれた意匠を見る。
丁寧に保管されていたらしい。金で作られたらしいそれは、煌びやかな輝きを放っていた。しかしこれは、いったいどのようなものなのだろうか。
ボクが首を傾げていると、ミランダさんがこう言った。
「貴方が孤児院にやってきた時、一緒にあったのがこのペンダントなの。とても高価なものだから、ご両親が貴方を想って残したのかもしれないわ」
「………………」
そのような話を突然に。
いったい、彼女は何が言いたのだろうか。
そう考えていると、ミランダさんは覚悟を決めたように言った。
「そこに描かれている家紋は、ね。どうやら王都の貴族が使っているらしいの」
それを聞いて、ボクはどきりとする。
なるほど。それによって、彼女がボクに声をかけた理由が分かった。
つまるところ王都の人と接触し、誘いを受けて迷ったボクに対して真実を話そうとしたのだ。その上で、自身の出生を知りたいか、試している。
「王都、貴族……?」
だが、まだ頭が混乱していた。
そんなボクを慮ったらしく、院長は言う。
「ここから先は、貴方が決めてくださいね。私は、それを尊重します」
そして、彼女は静かに部屋を出て行く。
ボクは手渡されたペンダントを握り締めて、窓の外を眺めるのだった。
◆
――翌日。
街の中で最も大きな広場で。
「やあ、きてくれると思っていたよ」
アイロスは、ボクを見るとそう微笑んだ。
「それで。私たちと一緒にきてくれる気になったのかい?」
「いえ、それよりも……」
ボクは、彼にこう訊ねる。
「騎士団に入れば、この街の家族に仕送りはできますか?」
ボクにとって重要なのは、自身の出生なんかではない。
だから、ボクは彼に訊ねたのだった。
「ボクは、誰かの力になれますか?」――と。
すると、アイロスは答えた。
「あぁ、今よりはきっとね」
それを聞いて、ボクは決心する。
だから、こう伝えた。
「だったら、ボクも行きます!」――と。
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