3.それぞれの事情。
色々あるよね、人間だもの。
「騎士団長。先ほどの話は、冗談ですか?」
「いや、私は本気だよ。彼には今後とも、この国の力になってほしい」
「………………」
リッドと別れたアイロスとリターシャは、騎士団の駐屯地へと向かって歩きながら言葉を交わしていた。部下の言葉に対して、団長は至って真面目に答える。
だが、リターシャは複雑そうな表情を浮かべていた。
「アタシは納得できません。アイツは、あくまで一介の冒険者です」
「おや、そういった言い方はキミが一番嫌っているのではなかったかな? 所詮は子爵令嬢のお遊びだろう、と陰口を言われ続けたリターシャには、ね」
「そ、それとこれは話が違います……!」
アイロスの言葉に、少し怒ったように言い返す少女。
しかし、すぐに神妙な顔になって続けた。
「アタシは貴族として、民を守るという責務がありますから。しかし――」
「リッドくんはあくまで平民であり、守られる立場だ、と?」
「………………」
そして、アイロスの言葉に閉口する。
彼の指摘が図星だったのだ。
リターシャは人一倍責任感が強く、貴族としてあるべき姿を模索していた。
その果てにたどり着いたのが、騎士となって民を守るということ。四女であったため、政略結婚諸々からは外れていた彼女が行きついた居場所だった。
だが、リッドはどうだろうか。
リターシャはそう思った。
「人間だれしも、守りたいものはあるんだよ」
「団長……?」
その時、ふとアイロスがそう口にする。
少女が首を傾げて見上げると、そこにはいつになく真剣な表情の彼がいた。
「まぁ、どうするか決めるのはリッドくんさ」
だが、それも一瞬のこと。
アイロスはそう言うと、自然な足取りで食事を提供する露店へ向かうのだった。
◆
『辺境伯に謁見し、その後は我々と共に王都へきてほしい』
――アイロスの言葉が、耳から離れない。
降って湧いた士官の話だった。
ボクが普通の冒険者で、生活の安定を求めるなら願ってもない申し出だろう。だけど、即決はできなかった。だって、ボクにはこの街にいる理由がある。
それは、他でもない……。
「あぁ! リッド兄ちゃん、お帰り!!」
「りっくん、おなかすいたぁ!!」
「ごはんまだぁ!?」
大切な家族が、この街にいるからだった。
「ただいま。みんな」
「お帰りなさい、リッド……」
「はい。ただいま、です……院長」
子供たちに囲まれるボクを見て、安堵の表情を浮かべる老齢の女性。
彼女の名はミランダ。
ボクの生まれ育った【リーアン孤児院】の院長だった。