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2.申し出。

本格的なざまぁは、まだ先です_(:3 」∠)_











「なんだ、ガキ……?」

「悪いけど、他人を見下すような暇を持て余した馬鹿に構う時間はないの。それに、アタシたちの連れを好き勝手に言わないでくれる?」

「あぁ……!?」



 アネスは、リターシャの言葉に明らかな怒りを浮かべる。

 しかし少女は気にした様子もなく、毅然とした態度で彼に向き合っていた。そして、ちらりとボクの方に目配せをする。

 その意図は分からなかった。

 だが、たしかなのは彼女が守ってくれたこと。



「死にてぇのか、小娘が!」

「その言葉、そっくりそのままアンタに返すわ。相手の力量を測ることもできない、無能の中の無能にね!」

「…………!!」



 そこでアネスはいよいよ、腰元から剣を引き抜いた。

 さすがに、この状況はマズイ。ボクはそう感じて、止めに入ろうと――。



「いやいや、申し訳ないね。私の部下が失礼をしたようだ」

「……お前は、昨日の?」



 その時だった。

 アイロスが相も変らぬ飄々とした調子で、二人の間に割って入ったのは。

 どうやら面識があったらしく、アネスも彼の口調に毒気を抜かれた様子だ。ほんの少しだけリターシャに目をやってから、肩をすくめてこう言う。



「それなら、言っておくぜ? 部下の教育はしっかりしとけ、ってな」

「あぁ、それは重々承知の上だよ」



 嫌味たらしく語るアネス。

 そんな相手にも、笑みを崩さずアイロスは答えた。しかし、



「あぁ、ただ一つ。私も――」



 一言、こう添えるのだ。




「貴方の人を見る目には、疑問を抱かざるを得ないね」――と。




 そこだけは、相手を射殺すような眼差しを向けて。

 アネスはそれをもろに見てしまい、無意識らしく短い悲鳴を上げた。いつもなら言い返す場面だろうが、完全に怖気づいたのだろう。彼はそそくさと、その場を後にした。

 残されたボクらの間には、僅かな沈黙が生まれる。

 しかし、すぐにアイロスがこう言った。



「さあ、改めて飲み直そうじゃないか」



 あっけらかんと。

 まるで、今の出来事がなかったかのようにして。









「いやいや、久しぶりに美味しい食事だった。辺境には私たちの知らない珍味も多い。明日は何を食べようか……?」

「団長。重ねて言いますが、目的を忘れないでください。あと、明日はこの地を治める辺境伯との謁見です」

「分かっているさ。だがその後、会食があるだろう?」

「食べることばかりですか、貴方は……」

「は、ははは……」




 酒場を出て、しばし街を歩く。

 この土地の食事が口に合ったのか、アイロスはとても満足げだった。

 その浮ついた様子をリターシャに咎められていたが。本人はまったく気にしていないらしく、むしろ夜の街に並ぶ露店に釘付けだった。

 ボクはそんな二人を見て、ふとこう訊ねる。



「ところで、二人はこれからどうするの?」



 それというのも、今後の予定について。

 非常にザックリとした問いかけだが、アイロスは思案の後に答えてくれた。



「うーん、そうだね。ひとまず問題の魔物を討伐したら、王都に帰還かな」

「そう、なんですか……」



 彼の言葉に、ボクは少しだけ悩む。

 思ったことはあるが、これは酷くおこがましい申し出だ。

 そう考えて、ボクは喉のところまで出かけた言葉を呑み込む。



「だったら、すぐにお別れですね」



 代わりに、苦笑しながらそう言った。

 頬を掻きつつ、視線を右手にある【必中の神弓】に落とす。そして、



「あの、これお返しします」



 アイロスに、それを差し出した。

 元はといえば、これは彼から貸し与えられたものにすぎない。

 だったら返しそびれるより先、忘れないうちに返却した方が良いと思った。



「あぁ、それかい?」



 するとアイロスは少し驚いた表情を浮かべてから、こう笑うのだ。




「それは、キミにあげるよ。リッドくん」――と。




 信じられない言葉だった。

 だって、このように貴重な品を貰えるなんて思いもしなかったから。当然ながらボクは、差し出した手をそのままに狼狽えてしまった。



「え、なんで……!?」

「キミほど、その弓に相応しい者はいないだろう。だからこそ、こちらからお願いしたいこともあるんだ」

「お、お願いしたいこと……?」

「あぁ、そうさ」



 しかし、アイロスは変わらぬ調子で続ける。

 その上で彼は、ボクに思わぬ提案をしてくるのだった。







「明日、辺境伯への謁見に同行してほしい」――と。






 そして、今回の問題解決に力を貸してほしい、と。



「え……?」





 思わぬ申し出に、ボクの頭の中は瞬間だけ真っ白になるのだった。





 


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