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1.ダンジョンへ。





 ――翌日、ダンジョン中層部にて。




「……あの、アイロス。こんな深くまで潜って、大丈夫なんですか?」

「あぁ、気にしなくても大丈夫。私は腕に、それなりの自信を持っているからね」

「そ、そうですか……」



 ボクとアイロスは、即席のパーティーを作ってダンジョンへ向かった。

 しかし『二人だけ』という少数にもかかわらず、アイロスは気にした様子もなく進んでいく。結果的にたどり着いたのは、推奨ランクA以上の魔境だった。

 ここにはドラゴンやデイモンなど、強力な魔物が蔓延っている。

 普通なら、もっと大人数で挑むべき場所だ。



「……本当に、大丈夫なのかな」



 それだというのに、今日のパートナーは気にした様子もなかった。

 何度も確認したのに、大丈夫、としか答えない。

 それに加えて――。




「この弓、本当に貰っていいのかな……?」




 ボクは彼からダンジョン前で一つの武器を渡されていた。

 なにやら、細かい意匠の施された弓だ。触れてみると妙に手に馴染み、ピンと張った弦が美しいと感じさせられる。

 素人目に見ても分かった。

 この弓は、とても価値があるものに違いない。



「なぁ、リッドくん。少しだけ良いかな」

「え? は、はい!」



 そう考えて生唾を呑んでいると。

 アイロスが数歩先で立ち止まって、こう訊いてきた。



「キミのスキルは、なんだい?」――と。



 それを耳にして、ボクは思わず口を噤んでしまう。

 しかし、ここはハッキリと答えるべきだ。そう思って正直に伝えた。



「【逃げ足】、です……」

「ふむ、それはまた珍しいね。きっと、世界でキミだけのスキルだ」

「あ、あはは……そう、ですね。どう考えても、役立たずですけど……」



 すると、アイロスは興味深そうにそう言う。

 その反応にボクは自嘲気味に笑って、頬を掻きながら答えた。いかに世界で唯一のユニークスキルだといっても、使い道がなければ意味がないのだから。

 しかし、そんなこちらとは対照的に。アイロスはしばし考えてから、ボクの手にした弓を見てこう続けるのだった。



「そんなことはない。どのようなスキルも使い方次第で化けるだろうさ。例えばキミが、その弓を持って戦えば――ね?」

「え……?」



 それを受けて、ボクは改めて弓に視線を落とす。



「その弓は【必中の神弓】と呼ばれていてね。狙いを定めれば、どのような状況でも標的へと矢を放つことができるんだ」

「そ、そんな凄いものなんですか……!?」



 すると、アイロスは目玉が飛び出るような情報を口にするのだ。

 良いものだと思っていたが、まさかそこまでとは思いもしない。ボクがついつい大声を出してしまうと、彼は口元に人差し指を当てながらそれを諫めた。

 忘れかけていたが、今はダンジョンの中だ。

 下手に大きな音をたてれば、魔物との不要な戦闘が発生する。



「で、でも……! どうして、そんな弓をボクに!?」



 喉まで出かかった声量を必死に絞って。

 しかし必死に、ボクはアイロスにそう訴えた。すると、



「少しばかり、試したいことがあってね。耳を貸してほしい」

「え、えぇ……?」



 彼は悪戯っぽく微笑むと、ボクにこう耳打ちする。




「これは、キミにしかできない戦い方。そして――」





 どこか、無邪気な子供のように。





「その弓の良さを、最大限に活かした戦い方だよ」――と。













 ――気付けば、ボクたちはダンジョンの下層まで到達していた。

 推定SSSランク以上のパーティーが対象の魔物が跋扈する、正真正銘の魔界。古代から人の手などついておらず、気を抜けば意識を持っていかれそうなほどの魔素が充満していた。しかし、アイロスはその中を迷いなく進んでいく。

 そして、とある場所で立ち止まって小さく言うのだった。




「……いた。あれが、今日のターゲットだ」

「な、なんだ。あの大きさ……!?」




 彼の後ろに隠れて覗き込むと、そこにいたのは一体のドラゴン。

 しかし、大きさが尋常ではない。並のドラゴンの倍――いや、そのさらに倍以上はあるだろう。ゆっくりと歩を進める姿は、まるで山が動いているかのようでもあった。

 アイロスはそれを真っすぐに見て小さく笑う。

 そして、こう言うのだった。



「アレが、古代の文献にあった【エンシェントドラゴン】――か。世界で唯一、このダンジョンのみに棲息し、人の前に自ら姿を現わすことはない伝説級の魔物だ」



 ボクはその言葉を聞いて、背筋が凍る。

 そんな御伽噺のような話を信じる方がおかしかった。

 だがしかし、彼のいうエンシェントドラゴンは目の前に存在している。つまりそれは絵空事でも、ましてや夢物語でもなく、現実ということだった。

 そして同時に、そのような魔物に挑もうとするアイロスに対して怖気立つ。



「さぁ、行こうか……!!」



 ここまできたら、制止など意味がなかった。

 ボクは神弓を握り締めて、彼の後に続く。そして、




「陽動は任せたよ、リッドくん!」

「わ、分かりました!!」





 アイロスの言葉に反応して、一直線に。

 エンシェントドラゴンの柔らかい眼球目がけて、矢を放った……!






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