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1.4.2  作者: 雨宮祜ヰ
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モンスター⑥

 王都に連れ去られて2日。アンジェたちは朝早くにも関わらず湯浴みをさせられ、高価な布で仕立てられた衣服に着替えさせられて1箇所に集められていた。連れ去られたのはどうやら15人らしく、アンジェたち以外の子どもたちは全員が15歳か、もしくはそれに近い年齢だった。


「今から国王陛下の命の下、神官による勇者選定が行われる。言われた通りに、無礼の無いように努めろ」


 通された扉の奥は煌びやかな内装の部屋で、高い天井にはミルドレッド様が怪物を打ち倒す絵が描かれていた。その真下に飾られた漆黒の鎧の前の玉座に座している男こそが、この国の王なのだろう。脇に控える碧の鎧を纏った男が歩み出て、笑顔でアンジェたちに言う。


「よく来てくれた英雄の素質を持つ子どもたち。この中で15の者は? 居たら教えてくれると助かる」


 最初にアルトが手を挙げると、つられて3人4人と手を挙げていく。


「アンジェは良いのか? 英雄になれるかもなのに」


「こんな事でなれる訳ないでしょ、それに私は英雄ミルドレッド様を支えたジェーダン様みたいになりたいの」


「今から選定を始める。挙手した子は前に出てくれるかな」


 隣に立っていたアルトが出て行こうとするのを服を掴んで止めるも、それを振り払って遠くなる背中を部屋の後ろから見送る。


「報告! 素性不明の男が中庭で暴れています。現在騎士団が対応していますが、その勢いが衰える事無し。聖騎士様に御助力願いたいとの事!」


「お前、勇者選定の儀に割り込んで来るなど、聖騎士ミルドレッド様への冒涜だぞ!」


「それが……かの影の英雄であるジェーダン様と酷似した男でして、決して本人ではないと思いますが、血縁者ではないかと」


「行って捕らえよアレフ。聖騎士の中でも武を司るグリッセン家の当主が行けば士気も上がる」


「お任せ下さい王よ! セブンスターの一角であるこの聖騎士アレフが行けば、どのような大国も震え上がる事でしょう!」


 高らかに意気込んで碧の鎧が扉を開こうとすると、向こう側から騎士がドアごと吹き飛んで来る。巻き込まれたアレフが立ち上がって剣を抜き、顔を真っ赤にして叫ぶ。


「この僕に傷を付け……」


 吹き飛んだドアが無くなった向こうから影が弾け、剣を構えていたアレフの胴を一閃。5メートルくらい吹き飛んで地面に転がる。


「ぐっ……お前! セブンスターの証である、父から、祖先から受け継いだ鎧を!」


 姿も剣も目で追えない程の一撃を受けても少しの傷だけで済んでいるのは、余程の業物か不思議な加護が掛けられているのだろうか、そんな事よりもアンジェは入って来ていた人物に驚きを隠せないでいた。


「お父さん!?」


「子どもたちを返してもらおう、ハーライル」


「ジェーダンか。聞け、こいつはかの英雄を支えた者だ。だが100年経った今も生きている半獣だ。我々は騙されていた、この国を蝕むモンスターを葬り去るのだ!」


 戸惑いで動かない騎士たち。やっと動いたのは怒りで飛び出したアレフと、後ろに控えていた緋色の鎧を纏った騎士だった。

連携しながら迫り来る2つの剣を左手で持った剣だけで捌き、決める気で放ったコンビネーションによる一撃も容易く受け止める。


「下がってろアレフ。半信半疑だったが、こいつは間違いなく英雄だ」


「武を司るグリッセンだぞ僕は! 智のルーンド家じゃ手に余る、だから僕が王から任されたんだ」


「お前がグリッセンの子孫か、そしてお前がルーンドの……人間は衰える生き物か、平和がそうさせたのか」


「ふん。そう言えるのも今だけだ、お前たち古い英雄の戦い方に合わせてやってるんだ。新しい時代の戦争を、今から見せてやる」


 緋色の鎧が輝くと火の玉がジェーダン目掛けて放出され、碧の鎧がその火球に合わせて踊り出る。


 今まで片手で易々と受けていたジェーダンが次第に押され始め、アレフの植物を纏わせた剣を受けて今度は数メートル弾かれる。地面を滑って後退したジェーダンが剣を力強く地面に突き刺す。


「人間も魔法を使う時代になったのか」


「どうだ! これが新しい時代の戦い方だ!」


「良いだろう……アンジェリーク! どんな時でも夢を持て、そして曲がる事の無い信条も。どれだけ周りが絶望していても、お前だけはそれでもと叫んで立ち上がれる人間で居ろ!」


激しさを増す戦いの中に割り込もうと誰もが考えたが、アンジェ含めて周りの兵士は、かつての英雄譚を見ているような錯覚に陥る。


「お父さん──いえ、ジェーダン様。心臓に刻みました」


 人の姿からライオンに姿を変えたジェーダンが、ぼやけて螺旋になっていく。必死に姿を焼き付けようと涙を拭うのも惜しんでただ見つめる。

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