帝国の実力⑦
旧アルケア南部。
「何なのだこれは──あのクソ軍師……帝国に帰る、やってられるか」
道中で薄々感じていた土地の劣悪さに、潔癖症を発症したミシェイルは到着前に帰投準備を押し進めていた。周りの反対があろうと、貴族に生まれ貴族として育った彼に荒廃した土地は肌に合わず、既に発疹とそれによる痒みとで苛立ちが積もっていた。
「ティアグラート卿は我々を試しているのですかな」
白く染った立派な髭を蓄えた老将が糸目を少し大きく見開き、遠くに揺らめくまだ影にしか見えない形の歪な大軍を認める。当然気付いていたミシェイルも纏っていた空気を反転させ、その正体を明らかにしようとしつつ、大盾を持った重装兵を前に並べて長槍を後ろに置いて迎撃体勢を整える。
「何がどうなってる。何をどうしろと言うのだあの阿婆擦れ女!」
「すぐに弓兵を前に出して迎撃せよ! 空の敵を最優先だ!」
叫ぶミシェイルの隣で咄嗟に指示を飛ばしたカイゼンの指揮で弓隊が前へ展開して矢を射るが、凄まじい勢いで飛来する飛竜が次々と帝国軍に降り注ぎ、盾ごと攫われた重装兵が続出し、瞬く間に隊列が崩壊する。少し遅れて押し寄せた地龍が空いた穴も関係無く蹴散らし、瞬く間に大混乱が広がる。
そんな中でもただ1人、自分に狙いをつけた飛竜を槍で冷静に串刺しにして前へ飛び出す。
「面白い。この宝槍ドラゴンスレイの真価を発揮する時が来たではないか! 先程の阿婆擦れは撤回しよう。分かっているではないかあの女も」
嬉々として槍を振るい続けるミシェイルは竜を屠るごとに徐々に姿を変えていき、溢れ出る魔力が周りの竜を勝手に喰らい始める。竜を喰らう度に槍の形が歪なモンスターのように変形を続ける。
「まずいですぞミシェイル様。この中央はミシェイル様の功により押しておりますが、両翼が押し込まれております」
「良い。準備は出来た」
そう言って馬の上で槍先を天に向けて目を瞑り、しばらくの後目を見開いて槍にまとわりついていた何かが2つに分かれる。分かれた2つの塊が次第に形を安定させ、地竜と飛竜となって同胞食いのような光景を生み出す。
「おぉ、なんと……この目で同胞喰らいを見たのは初めてですな」
遥かにオリジナルを超える宝具の威力に知性の無い竜は本能だけで行進を止め、来た方角へと次々と反転して帝国軍の前から瞬く間に姿を消し去る。僅か100程度の敵にも関わらず、4000連れて来ていた帝国軍は3300まで数を減らしていた。知能の無い竜による僅か数10分間の襲撃でのこの破壊力に、ミシェイルは考え方を根底から見つめ直していた。
馬上で黙り込んでしまったミシェイルを我が子の成長を見守るがごとく見つめるカイゼンの隣に馬を並べた茶髪の少年は、何か言いにくそうに耳打ちで伝える。
「なんと……その事は他の6騎将には」
首を横に振る少年を見てすぐさまミシェイルに聞いた事を耳打ちし、酷く動揺した直後に即決で本国へ帰投を指示する。




