帝国の実力⑥
旧アルケア北部。
全ての準備を行軍中に終え、陣を敷きながら野営予定地に到着し、天幕を設営しつつ北のサイスーレに圧力をかける。
両国の最前線となる砦の距離はそれ程近くないが、それでも1度始まれば瞬く間に広がる火の手に、どの国も緊張せずには居られない。
「長い滞在になりそうだな、ハイデン。帝国はアルケアを領土化するのに時間を掛けそうだ」
「はい。特にアルケアには鉱山がありますから、ぞんざいに扱えば全てを帝国には差し出さないと思います」
遠くの山を机の上に広げた地図と照らし合わせて指でなぞるのは、ティアグラートが取り立てた副将である、落ち着き払った細身の少年だった。腰から下げた矢筒と短剣を揺らして天幕から歩み出て、突如姿を現した顔を半分仮面で隠した人物を天幕の中へ促す。
「失礼する御館。ミセルがシャルウルの強襲隊から襲撃を受け、ねじ伏せた勢いのまま進軍を開始した。それが3時間前だ」
「……あ? 領土化もされてないアルケアから攻め上がるのがどれだけ危険か、しっかりと伝えたはずだ。何故マティルダはそれを許した」
「私も砦の中を見て回っていたが、緩み切った兵に苛立ちが積もり、尻を叩いたつもりなんだろう」
「残党から尻を叩かれるのは自分だ──ハイデン、この場は任せる。イノリは私と来い、騎馬30と馬に乗れる射手を20集めろ。中央が崩れれば私たちも孤立する」
「お任せ下さい」
「御意」
すぐに準備を始めたイノリは瞬く間に姿を消して騎馬隊を編成しに行き、ハイデンはサイレースへの圧力の調整と陣形の変更を思案する。
すぐに集結した騎馬隊を率いて飛び出したティアグラートのペースを考えない騎乗に徐々によれる馬も出始め、ミセルの軍が駐屯する予定だった砦に到着する頃には、魔法を応用して飛んで来たティアとイノリだけになっていた。
「1人も残って……居るな誰かが」
ティアグラートが静まり返った砦の外を回って正面から入ろうとしたが、帝国では見たことも無い白い鎧を纏った騎士が門番のように立っていた。
剣先を地面に突き刺して重ねた両手を柄頭に置く姿は異様な威圧を放ち、石像のように動かない様が余計に不気味さを醸し出す。
「ここは帝国の領土になる。早く立ち去れ」
「……はっ。お前が蛍石のティアグラートだな。わりぃけど、死んでもらうぜ!」
咄嗟に魔法を展開して自分の周囲の重力を全力の5倍に増やすも、何も目に追えない程の攻撃が庇ったイノリを弾き飛ばす。位置が入れ替わったティアグラートはハルバードを振り上げるが、一撃が飛んだ場所に姿は既に無かった。
着地したティアグラートは辺りを見回すが、地面と水平に回転しながら飛んでいた白騎士が頭上から剣を振り抜く。
「ッッっ。何者だお前、デタラメな……」
極端に自分を軽くしたティアグラートは風圧だけで飛ばされ、何とか剣の直撃を避けるが、気付かない内に斬られていた横腹を押さえながら片膝を着く。
「なんだよ、もう少し熱くさせろよ」
「チッ……アルマと同じ怪物って部類のやつだな」
余裕綽々と言う様子の白騎士相手に出し惜しむと負けると早々に理解させられたティアは恐ろしい程の覇気を身に纏い、重力操作の魔法を惜しみなく常に発動し続ける。
体勢を立て直したイノリは姿を消してどこかへと潜み、気合いを入れ直したティアは息をゆっくりと吐き出す。
「私たちの強さ、見せてやる」




