表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1.4.2  作者: 雨宮祜ヰ
5/52

モンスター⑤

 親父とシスターが出て行ってから数刻。何度も飛び出すのを考えては、親父の背中を思い出して腰が上がらなくなる。今まで共に鍛錬を積み上げて来た右手の木剣を投げ捨てる。自信と共に。

 何で隠してきたのか、何で基礎しか教えてくれなかったのか。本当は夢なんて叶わないと馬鹿にされていたのか、そんな事なんて無いのだろうと分かっていても、何故か無性に怒りが収まらない。


「何が英雄だ、守るどころか守られてばっかじゃないか。それに気付きもせず」


 1番手近な椅子に手を掛けて支えにして立ち上がり、放り投げた木剣を取りに歩き出すと、教会の扉が開いていてシスターが立っていた。足元に転がっていた木剣を見つけて拾い上げて手渡してくれる。

それを受け取ろうと柄を握るが、シスターが何故か手を離さずに一瞬で木剣を絡め取る。

 一瞬の出来事に唖然とするジュリスにアンジェの剣を差し出し、警戒しながらも受け取るのを見ると取った木剣を構える。


「敵が構えて居ると言うのに、貴方は突っ立っているだけですか?」


「なっ……んだよ、色々急過ぎて分かんねぇよ!」


「全て分からなければ戦えないのなら、英雄になんてなれませんよ」


「だってよ、シスターカタリナはミルドレッド様で、ずっと一緒に居た親父がジェーダン様で。分かんねぇって! まず何で100年も前の英雄が生きてんだよ、有り得ないだろ」


「分かりました。ならばこの剣で、私が英雄か、否か、判断して下さい」


 両手で握った剣をシスターの木剣目掛けて振るう。木剣に当たったと思って握る力を強めて衝撃に備えたが、予想もしていない角度からの衝撃が右の手の甲に走り、握っていた剣が吹き飛ばされると同時に膝から力が抜ける。

両膝を着いたジュリスの顎に木剣の切っ先が添えられ、見下ろすカタリナと目が合うように顔を上げられる。


「相手の剣を狙ってどうなりますか、私が木剣だからと加減でもしたのですか? 遊びのつもりなら、劣等感を抱えたまま斬られなさい」


「なぁ……何で言ってくれなかったんだよ、親父もシスターも!」


「……ジェーダンが混血なのは知っていますね」


優し過ぎるカタリナは少し罪悪感を感じたのか、ずっとしょぼくれるジュリスに優しい声で語り出す。


「風呂で教えてもらった、半獣ってやつだろ」


「神が決めた罰故に純血の獣人や人間よりも成長速度が遅くなり、今も尚生きています。ですが、今も続く混血に対する迫害は目を覆いたくなる程酷いのです」


 自分を無理やり納得させるように頷いて被っていたベールを脱ぎ、長い髪を耳に掛けて隠れていた耳を露出させる。白い髪の下から尖った耳が現れ、次は背中を向けて服を脱ぐ。


「親父と一緒の……シスターも、半獣?」


「私は妖精と人間の間に生まれた半精霊です。母と私が国を追われた頃に、同じく国を追われた幼きジェーダンと出会いました」


「そんなの……」


「居るかカタリナ! 2つは捕まえたがアンジェが居ない、残りの3つにアンジェたちが乗ってるみたいだ」


 がらんとした教会に親父の声がいっぱいに響き渡り、シスターは親父が連れて帰ってきた子どもたちをひとりびとり抱きしめる。


「私の方は2つ取り逃して1つだけ、やっぱりもうだめね」


「走る馬車を追うのは簡単じゃない、1人でも多く助けられたなら最良の結果だ」


「ねえジェーダン、しばらくジュリスを任せてもらえない?」


「……好きに育てると良い、俺はもう一度追う」


「まさか王都へ行く気なの?」


「全員取り返す、馬車はあと3つだ。馬を借りてく、俺のはへばって動けそうにない」


「嫌だ、俺も着いてく親父! シスターだって付いてけば──英雄なんだろ、なら皆きっと手伝って……」


「頼んだカタリナ」


「頼まれた、しっかりと」


 また教会から出て行こうと歩いていた背中が振り向き、今度はしっかりとジュリスの為だけに立ち止まる。


「お前は来週誕生日だったな。お前が15になる時にと思って、俺が材料から探して打った剣だ。持ってけ」


「今から戦いに行く親父が何言ってんだよ!」


「俺はアンジェに剣を渡しに行く、それだけだ……そうだ、夢を持てジュリス」


 力強くジュリスの頭を大きな手で撫で、背中の大きな剣を胸に押し付ける。必死に堪えた涙が零れるジュリスを力強く抱きしめ、カタリナと拳を合わせて教会から姿を消す。

感想頂けるとあがります!! それだけだ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ