帝国の実力
ハリスとフリッツを送り届けた帰り道。馬で王都へ向かう2人の視界にティメリア兵が入り込み、その速度から情報などを早く持ち運ぶ早馬だと分かる。
2人は左手に握っていた鞭を抜いて馬の視界に入れ、徐々にギアを切り替えて速度を上げさせる。
後方から近付きつつある2人に気付いた伝令兵は少し手綱を控え、スムーズに並走する形にするために進路を微調整する。やがて並ぶと同時に手綱を譲って馬なりに戻し、先にアンジェに頭を下げ、次にココに頭を下げる。
「勇者様とこのような所でお会いするとは。丁度良かったのかもしれません」
難しい顔のまま何かを考えているのか、目を細めて思い悩む男に我慢出来ず、アンジェは男に思考を断ち切らせて口を開かせる。
「何かありましたか?」
「まず始めに。遥か東の連邦が他国へ侵略したこと、そして南の帝国が戦争の準備を進めつつあります。最も重要なのは最後。ティメリアより2国挟んだ東の帝国が、西へと侵攻を始めました」
「今はゲヘナとシャルウルに攻め込まれて大変なのに、帝国まで来られたら私たちが戦争してた意味が無くなる」
「ですので、帝国が目前まで迫りつつあるシャルウルはティメリアの東部だけに目標を絞るでしょう」
「そうですか、ありがとうございます。引き止めてしまってすみません」
何かを考えたまま黙り込んだアンジェに代わってココが伝令兵を見送ると、一礼して馬の速度を上げて少しずつ遠ざかる。
「小国同士で争っている場合ではなくなりましたね」
「ティメリアはセブンスターが居るから大丈夫だと思うけど、ゲヘナとシャルウルはティメリアの倍以上国土がある。それにゲヘナには砂漠の賞金稼ぎと怪鳥ヴィルゴが居るから、手を合わせれば大丈夫だよね?」
「帝国から見たら大差ありません。ひとつになろうが、3つであろうが。帝国6騎が動けばいずれ2人以外のどこかから抜かれます」
「ならどうすれば良いの?西も東も北も敵で──南の国は?」
「南のカシオンは永世中立国です。王は掴みどころのないへらへらとした男で、争いを好みませんが剣は大陸随一です。私はそうは思わないですけど、美しい黒い髪と宝石みたいな瞳から、世間からはセレンディバイトと呼ばれているみたいですね」
「ココの髪も珍しい黒色……カシオンと関係……」
「ありません。私はただ珍しい黒髪なだけです。証拠に私の目は少し薄い翠色の宝石眼です」
無関係な事を余程証明したいのか、少しだけ目に掛かった前髪を手で上げてアンジェの顔に近付ける。引っ込み思案気味で大人しいココにしては大胆な行動に思わず離れそうになるが、初めて見る宝石眼に見入ってしまう。
「もう終わりです。私は北に居るブロッケン卿の元へ合流します」
「なんで? 弟子の私がゲルダさんの方に行った方が良いと思うけど」
「私の師匠の采配です。守ることに長けたブロッケンには、支援が得意な私が適当なのだと思います。治のカーラ卿は初陣ですし、より打開力の高いアンジェさんが適当だと思います」
「そっか! 任せといて、私が行くからには快進撃の報告しか来ないから」
「シャルウルは特に短期決戦を急ぐと思うので気を付けてください。それでは、両手には溢れんばかりの花と、騎士王の気高き強さを貴女に」
「ありがと! ココにも騎士王の気高き強さを」
最後に腕と腕をぶつけ合って力を送り合って二手に分かれて草原を突き進み、既に多くの地域から志願兵が集結しつつある、東の最前線であるファーラット砦へと向かう。




