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1.4.2  作者: 雨宮祜ヰ
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白い太陽⑤

 再び国境付近へと戻った2人は拠点としていた小屋で預かっていた武器を返し、丁度国境線になっている川に架かる橋の手前まで見送る。


「本当にありがとう。2人のお陰でまた子どもの顔が見られる」


「スワンさんには本当にお世話になったので、ここでお別れなのが寂しいです」


 2人がしばらくやり取りするのを少し離れた水際で耳だけ澄まして聞いていたアンジュに、近付いて来たホールスワンが橋の上からしゃがんで声をかける。


「本当にありがとう勇者様。英雄になりたいんだって? 頑張れよ、絶対なれるって信じてるし応援するよ」


「英雄を支えたいだけだから、英雄にはなりたくないかな。ありがと。また子どもの話聞かせてね」


「任せろ! 2人にまた家族の写真を送るよ」


「スワンさん、見回りが来ますので」


「あぁ、そうだね。じゃあ行くよ」


 最後までホールスワンに顔を向けず、足下の石を拾っては川に投げ込んでいたアンジュが立ち上がり、緊張状態にある2つの国の手の届きにくいこの森付近から、ホールスワンは新しい故郷へと走り去る。川へ投げていた石を次は真上へと放り投げ、落ちて来た石を腰から走らせた剣で打ち砕く。

 砕けて飛び散った無数の小石が川に降り注ぎ、水面を揺らして波紋が広がる。


「私たちも見つかる前に行きましょう」


 闇夜に背中が見えなくなるまで見送っていたココがそんなアンジュに声を掛けるが、返事もせずに鞘へ収めた剣を少しだけ見つめて小屋へと歩き出す。一連の行動をホールスワンの背中と交互に見ていたココは何か言うべきか悩んだが、何も言えないから押し黙って小さな背中を追う。



 しばらく歩いて再び小屋に到着したアンジュはドアノブに手を掛けてドアを開けようとしたが、ココがアンジュの手を握って止める。


「誰か居ます」


 小さな声でアンジュの耳元で囁いたココは9本の剣を背後に展開し、窓という窓から一斉に部屋の中へと雪崩込ませる。激しい破壊音が小屋の中を蹂躙し尽くし、そこまでして初めて握られ続けていたアンジュの手ごとドアを開く。

 開いたドアの目の前に、頭を抱えてうずくまった男の子が震えていた。その少し奥では深手を負って肩で大きく息をした男が2人を睨み、気合いの声と共に足を引きずりながら大した事ない速さで剣を振り上げる。

 ココの前に立っていたアンジュは即座に隙だらけの腹に蹴りを入れ、自分よりも大きな男を小屋の奥へと蹴り飛ばす。


「フリッツに何するんだよ!」


 大きな音を立てながら手に持った剣を手放して転がる男に気を取られていたアンジュは、脅威ではないと判断したうずくまった男の子に突進される。小さな衝撃は徹底的に鍛えられたアンジュの足腰に受け止められ、足を振るだけで軽く引き剥がされて地面を転がる。


「子どもに容赦ないですね」


「ココが言う?」


 そんな軽口を交えながらも視線を2人から外さずに小屋の中に入り、開け放たれていたドアを閉めて丁寧に鍵まで掛ける。

 躊躇無く剣を抜いて深手の男を庇う男の子に剣を向けたアンジュだったが、ココはその剣を下ろさせて男の子に視線を合わせる。


「そんな事したら首掻き斬られるよ」


「落ち着いて下さいアンジュさん。ゲルダさんの教えも良いですが、相手は武器も持たない子どもです」


「……気を張り過ぎてたかも。ごめん」


「誰だよお前たち! フリッツを治せよ、死んじゃうじゃないか!」


 ぼろぼろと涙を零しながらココに飛び掛った男の子を引き剥がそうとアンジュが動きかけるが、引き剥がすどころかぎゅっと抱きしめて落ち着かせ、右手で暴れる男の子の頭を撫でながら左手でフリッツと呼ばれた男を魔法で治す。剣以外で役に立てないアンジュは、突然男が攻撃をして来ないように剣を首に当てる。


「ハリス様を、こちらへ」


「動かないで」


 ココが抱き抱えて押さえ込む男の子へと手を伸ばそうとする男の首に当てていた剣に力を入れ、伸ばしかけていた手を戻させる。


「大丈夫ですアンジュさん。この人の剣は預かりました」


 転がっていた剣をふわふわと浮かせたココは男の子の体から手を離し、座り込んだ男に暴れていた男の子を引き渡す。

 直ぐに立ち上がって浮かせていた剣の元に歩いて手に取り、今度は容赦無く2人に剣を改めて向ける。


「ここはティメリア領です。何をしていたのか説明して下さい」


「……望まない戦争に巻き込まれ、逃げて来ただけだ」


「フリッツ・ボーレント。バーンリーの第4王子ハリス・バーンリーですね」


「バーンリーの王族……なるほど。西からは獣人が来てたから、1度東のティメリアに潜伏してゲヘナへ逃げようとここに」


「西から獣が来てるのにお前たちは協力してくれないどころか、お前たちが僕たちの国を攻めてきたから! お父様もお兄様たちも皆……お前たちのせいで」


「ハリス様はまだ子どもなんだ、だからこれは俺の口から出た言葉として、奪うなら俺だけの命で頼む」


「フリッツは僕が守る。王が民を守るんだ、殺すなら僕だ!」


 ココの確認もアンジュの推察にも答えずに目の前の剣に答えを返す2人に、ココでさえも疲労感を感じて剣を下ろす。


「盛り上がってる所悪いですが、貴方はバーンリー騎士のフリッツ・ボーレントとバーンリー第4王子ハリスで良いですね」


「あぁ。ここまでバレていて隠せるとは思っていない。そちらの少女が言っている事も合っている」


「バーンリーの西は獣人。北は龍人って文官が言ってたから」


「とりあえず確認もとれたので。拘束します」


「王都へ連れて帰るの? ここで生かした意味無くなるんじゃない?」


「はい。ですからアンジュさんの故郷に留まってもらます」


「……うん?」

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