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1.4.2  作者: 雨宮祜ヰ
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白い太陽④

 乱戦に次ぐ乱戦によって指揮の行き届かなくなった部隊同士がぶつかる脇をすり抜け続け、先頭を行くジュリスの根拠の無い自信と勘だけを頼りに進み続ける。時々流れて来る敵を軽く退けながら戦闘を最低限に抑える。

 だがその行進も次第に雲行きが怪しくなり始め、頼りだったジュリスが足を止めて動かなくなる。


「なによ、ここが目指してた場所?」


「いや、なんか匂いが消えちまった」


「馬鹿じゃないの! いったい何しにここまで来たのよ」


「消えちまったもんは仕方ないだろ! 戦場が纏まり始めて来たんだよ!」


 ジュリスの言う通り周囲が徐々にひとつの方向へと意志を固め、初めてこの戦場で拮抗が生じる。ここ以外の場所ではどちらか一方が大負けをしているが、唐突に生じた特異点とも呼べる場所に4人は出ていた。

 互いに間を空けて睨み合っていた列の先頭に、それぞれベルベットと砂漠の賞金稼ぎが立っていた。


「久し振りだなケセルダ!砂漠の王になってどうだ?」


「はっ! まだ生きちょったがか!いっちょん変わらん、この憎悪は、今も健在じゃあ!」


 煽られる形で先に飛び出した人間に応じるように、ベルベット率いる獣人たちも飛び出して行き、遂にこの戦場に唯一あった睨み合いが乱戦に変わる。人の姿のまま最低限の動きで群がる人間を圧倒し続けるベルベットと、炎のように攻め上がるケセルダが遂にぶつかり合う。

 2,3度互いの周りで戦う者を巻き込みながら剣を交え、同じタイミングで重く踏み込んだ一撃の間に、1本の命知らずな剣が差し込まれる。


「邪魔じゃあァ!」


 すぐさま邪魔者を蹴り出そうとケセルダは足を振るが、ぴょいと完璧に合わせて飛んでかわされ、さらに叩き付けられた剣に斧を弾かれる。そこに間髪入れずベルベットの剣が滑り込むが、もうひとつ3人の外から伸びた剣が押し返す。


「やるじゃんあんた。兄貴の斧吹っ飛ばすなんて」


 2人の前に着地したサイドテールの派手な格好の女がケセルダの隣に立ち、見たこともない不思議な形の青みを帯びた剣を華麗にくるくると回す。


「出てくるな言うたじゃろがユマ!」


「とか言って、危なかったの誰だー?」


「誰が危ない言うた!」


 くるくると()した指を回しながらほれほれと無邪気にからかうユマと呼ばれた少女は、蛮族の頭領であるケセルダ相手に主導権を握る。

 ジュリスは相当警戒をしながらユマとケセルダを眺めていたが、ユマからはベルベットやケセルダ程の嫌な気配を感じなかった。

 化かされているのかと混乱しながらもとにかく倒す事だけを頭の中に取り戻し、ベルベットに雑な合図を送って構えさせる。


「狼は俺んじゃ」


「おっけー! じゃやったるかー!」


「へらへらして剣を振るなよジュリス」


「どっちがだ」


「ちょっと、待ちなさいよ。私もそいつに……」


 ミアハの静止も聞かずにそれぞれがお互いを(けしか)け合って剣を交え、乱戦の中でも不思議と空いた両軍の中央の舞台で力をぶつけ合う。


 久々に手強い相手と戦える嬉しさに自然と前のめりなハイペースの剣戟にもつれ込んでいたジュリスたちは、少し離れた場所で戦う練達した強さの者たちの目には隙だらけだが、そんな事を考えても居られないほどアドレナリンで滾った頭は麻痺を起こし、喧嘩のような乱打を繰り出す底力の競い合いになっていた。


「燃えてきたぁぁ!」


「あたしも良い感じにノッて来た!」


 より激しさを増す斬り合いに傷が増え続けるが、どちらも1歩も引こうとしないため、手を止めた方が攻撃を受けてしまう悪循環に入っていた。

 腕が限界を迎えても根性でなんとか剣を振っていたが、意地を見せたジュリスの一撃がユマの左肩に直撃する。


「ったぁー!」


 その揺らぎを皮切りに次々に連撃を繋げて最後の突きで吹き飛ばし、最後の突きを偶然受け切った以外はまともに受けた体は力が入らず、アドレナリンでは誤魔化しきれない痛みに沈黙する。


「っるぁぁ! 見たか!」


「なんしとんじゃぁぁ!」


 喜びに身を任せて叫ぶジュリスの背中に突然反転したケセルダの刀身が当たって弾かれ、その衝撃で地面を転がったジュリスをすっぽかされたベルベットが、目を丸くして突っ立って見ていた。その光景に堪らずベルベットが呆れ気味に笑ってジュリスに手を差し出し、「あの野郎」といきり立つ腕を掴んで無理矢理立たせる。


「お前たちの負けだケセルダ。今回はゲヘナの南半分で許してやるから帰れ」


「元から国なんかに興味無い。勝手にすりゃえいが」


「お前は自由気ままにだからな。何度国の名前が変わろうと、昔からこの砂漠で死に損なってる」


「……おぉ。ここで殺さんかったこと後悔するぞ」


「いや俺がぶっ殺す! 邪魔するなよベルベット。何回もぶっ叩きやがって」


「ほら帰るぞ。後は追撃に移行したウォルフ隊に任せておけ」


 横腹から入り込んだベルベット本隊と力で押し切ったウォルフ隊に食い荒らされ、大局ではいつの間にか獣人の辛勝で幕を引きつつあり、少ない数にも関わらずぼろぼろのウォルフたちが追撃を掛けて追い込んでいた。


「あいつら負けよったか」


「ぃぃったぁー……負けた! まじ悔しい!」


「勝負ついたなケセルダ」


「決着はまた今度じゃ」


 目を覚ましたが動けないユマを抱えてベルベットに背を向けながら斧を拾い上げ、これ以上争う気の無い雰囲気の中ジュリスだけはまだ剣を構えていた。


「もういいジュリス。ゴロツキのこいつとこれ以上戦っても意味が無い」


「俺たちは1回負けてるんだ。このまま負けっぱなしで居られるか」


「待ちなさいってば! 大人しく見てたらママはへらへら剣振ってるし、ジュリスはばかなの!?」


「へらへらはしてないだろ」


「なんだよ俺はばかって」


 2人が戦っている間周りの戦闘に巻き込まれたのか、また新しい血を付けたミアハはカオンとセインを引き連れて歩いて来る。何故かベルベットの方に特に詰め寄った隙を見て再び視線を元の場所に戻すが、そこにケセルダとユマの姿はもう無かった。

握り締めた剣を振って鞘に戻してウォルフ隊を走って追い掛け、ゲヘナの騎馬隊が残した馬に飛び乗って後を追う。

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