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1.4.2  作者: 雨宮祜ヰ
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白い太陽②

「どうした。お前もレグルスを纏え」


 突如姿を現した初対面の白騎士に自分の纏った事のある黒い鎧の事を言われるが、アンジェにはどうしても使うことが出来ない理由があった。かつての英雄であり、今も自分の中で英雄であり続けるジェーダンの死が蘇り、戦う気すら無くなってしまうからだった。そんな事を言っている場合じゃないのは重々承知だが、どうしてもアンジェにとってそれが枷となり続けていた。


「出来ないなら良い。そこで見てろ。戦いたくなるぜ」


 半ば呆れたように動かなくなったアンジェの前に立って剣を振り抜く。空気を振るえながら伝った衝撃波で目の前の敵が真っ二つに千切れ、剣を地面に突き刺して柄頭に両手を添えて仁王立ちで止まる。


「引くか死ぬか、選べ!」


「怯むな! 1人増えたところで数の差は圧倒的にこちらに分がある!」


 じりじりと下がろうとする者たちを引っ張ろうと1人が声を上げると、事前に情報統制がされていたのか、誰ひとりとして勝利を諦める者は居なかった。


「そう来なくちゃな!」


 敵が来ると知ると一気に加速し、人の目で描写するには足りない領域に消える。アンジェ含めて白騎士を一瞬前まで見つめていた者は、その姿を捉えようと辺りを見回す。

 だが探す暇もなく景色、音、触覚が蒸発したように弾け飛び、森の中に大きな穴を作って一帯が消し飛ぶ。

 少しして視力が回復すると、目の前でココの剣がアンジェの体を衝撃から守るために壁となっていた。


 既に2人の騎士の内ひとりを戦闘不能に陥らせており、残された片割れがもう一方を守るのに徹しているため、自分の持つ剣だけで戦っていた。


「流石だなココ」


「あなたはいつもこうなので慣れています。それに、丁度手も空いてましたから」


 再び姿を現した白騎士にココは珍しく悪態をつくような言い方で返すが、言われた本人は気にも止めていない様子で地面に転がった魔法使いに剣でとどめを刺す。


「魔法使いじゃ、魔法で殺しきるのは辛くなってきたな」


「時を重ねる毎に適性も耐性も大きいものになっていますから。戦うことにおいて何の取り柄も持たない人間に、慈悲深い神が手渡した贈り物ですので、当然だと思います」


「んで、鎧も纏えないあれが勇者ってやつか」


「そうです師匠。戦場からここまで連れて来たのはココです」


「あなたもティメリア騎士なの?」


 転々と変わる状況に全くついていけないアンジェがやっと振り絞った言葉は、圧倒的な力を振るう白騎士に対する敵味方の確認だった。敵であれば先制攻撃、味方と言われても警戒する必要がある。


「敵──って訳じゃねえ、味方でもねぇな。そもそも教えてやる義理はないだろ?」


「……さっきの魔法、あれは雷だった。今世界で雷魔法を使えるのはひとりだけ。貴女が雷帝の花嫁なの?」


「おい、あんなのと一緒にするんじゃねぇよ。俺は行儀が悪いんだ、下手なこと言うと首すっ飛ばすぞ」


 核心に迫ろうとしたアンジェに先程の言動とは真逆で剣を突き付け、それに反撃しようと腰の剣にアンジェも手を伸ばすが、今喉に付けられている剣が自分の物だとようやく気付く。一瞬も掛からない出来事に自分の命がどこにあるかも分からなくなりそうになるが、剣が空気を裂く音で我に返る。


「安心しろ、俺は守ってやるって言っただろ?」


 空気を裂いた剣はアンジェから見て右の方で、密かに魔法を放とうとしていた騎士に突き刺さっていた。


「あとは頼んだぜココ。俺は帰る」


敵が後退したのを確認して退屈そうに剣を肩に担ぎ、敵の魔法使いに刺さっていた剣を引き抜いてアンジェに投げ渡す。


「私なんかでは不安に思うでしょうが、アンジェさんは命に変えても守ります」


 最後まで素顔も素性も明かさずに再び光の中に消えた背中が振り返らずに手を挙げ、ココは再び気合いを入れ直して放置していた死にかけの騎士の隣にしゃがみ込む。


「ホールスワンさん。このまま私を殺してアンジェさんをゲヘナに持ち帰り、貴方は家族を幸せにしようとしたのですか?」


「ティメリアは終わりだ……シャルウルだけならまだしも、ゲヘナも動いた。バーンリーを攻め落としたようだが、ゲヘナの侵攻阻止のためにガゼル様は全て放棄して北の国境へ向かったって話らしい」


 血を吐きながら苦しそうに話す男の傷を魔法で治して上体を起こして座らせ、武装を解除して紐で繋いで来た道を引き返し始める。観念して腹を決めたのか、ホールスワンは何も言わずにそれに続くが、アンジェはここでも何も理解出来ずに立ち止まり口を開く。


「待って! 何でせっかく来た道を引き返すの?」


「そうだココちゃん。俺をここで殺して早く勇者様を……」


「奥さんとお子さん。待っているなら行かないとです」


「なっ、ココちゃんそれは危険過ぎる! それに俺は祖国を裏切って、2人を殺そうとまでしたんだ。ここで死んで当然なんだ」


「確かに」


「だろ? 勇者様も言って──」


「送り届けないと、突然お父さんを失うのは……なんて言うか、言葉に言い表せないから」


「そんな……何で俺なんかに……」


 既に死ぬ覚悟を決めていたからか、後悔と今までの葛藤で堪え切れなくなったホールスワンが涙を流しながら歩き、何度も2人に謝りながら子どもの話を始める。


「次生まれるのが娘で、長男はもう5歳なんだけど人見知りで。女の子の方は妻に似て元気で活発な子になるんだろうなぁー」


「スワンさんの子ですから、良い子なのは間違い無いです」


「初めて会ったけど、貴方は良い人だと思う。ゲヘナに行っても頑張ってね」


「2人とも良い子過ぎる……命の恩人に、どんなお返しをすれば足りるだろうか」


「また会える時が来たら、家族皆で出迎えて下さい。私は家族を知らないので」


「分かった。そんなんで良いなら、いつでもいくらでも来てくれても良い」


「ありがとうございます。この戦争が落ち着いたら、是非お邪魔させてください」


 紐で繋がれながらも不思議な会話をやり取りする2人から無意識に距離をとっていたアンジェは、ジュリスとジェーダンの事を思い出して、少しだけ寂しくなりながらぼーっと歩く。

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