モンスター④
背中に小さくうずくまった子どもたちを隠し、隣で同じく子どもたちを背中に庇うアルトと一緒に馬車の中で男と睨み合う。今のところ大人しくしているからか、睨まれ続けている男は何もせず、時々もう1人の見張りと会話を交わす。
「なんで6人も連れて来たんだよ」
「あ? 誰が勇者なんて俺たち聞かされてないだろ」
「こんな小さな子どもや女はいらねーだろ。子どもは15になるってだけだ、他に連れてくるべきやつが居ただろ」
「居なかったらまた行けば良いだろうるせーな」
「ちっ。おい、15になるのは何人居る。後ろのちび共はまぁ、違うだろうな」
顔を2人に向けて鋭い目付きの男が聞いてくるが、アンジェはアルトを手で制して喋り始める。
「居ない。私もこの子も今年14、後ろの子たちは上が12になるかそれ以下」
「だってよ! ほら見たかよ、15も14も13も分かんねーよ違いがよー!」
「静かにしろようるせーな! とにかく連れてきゃ良いんだよ、ここで捨てたら職務怠慢で殺されるのはこっちだぞ!」
「他の隊が手柄上げたらどうすんだよ!」
「こんなの運だろ! 俺たちの中に居ることを祈れよ!」
お互いにどうしようもないことを分かっているからか、これ以上の言い合いをせずに黙り込み、静かになって見張りを続ける。
悪路を走っているのか、がたがたと揺れる馬車の中でしばらくの沈黙が続く。
「あの村にはあのジェーダン様が居るって聞いてたけどよ、第3部隊を全滅させたってのがジェーダン様か?」
「その話はすんな、俺の同期もやられた。一瞬過ぎて死んだのかも信じられねぇ」
「待って、ジェーダン様があの村に居たの?」
今まで質問した事にしか答えなかったアンジェに驚きつつも、同期を殺された男が馬車の壁に拳を叩き付ける。怯える子どもたちの手を取って握りながら、意識は男たちに向けたまま言葉を待つ。
「上の話ではな。あの強さみたらそうなんだろうけどよ、俺たちも英雄に憧れて兵士になった。出来れば英雄や国民とは戦いたくねぇよ」
「聖騎士ミルドレッド様を支えたジェーダン様、かっけぇよなぁ。俺らなんでこんな仕事しなきゃいけねーんだよ」
「なんでこんな事するの?」
ほころびを見せた男たちに、冷静に状況の把握をしようとアンジェが聞く。
「さぁな、国を救う勇者が居るとか何とか。それでジェーダン様の居るって言う村に今年で15になる神子が居るってな」
「戦争でも始めるんだろ、だから勇者を手に入れて民意を集めて軍の士気も上げよーってんじゃねーの?」
「それなら、ミルドレッド様とジェーダン様をもう1度呼べば良いのに」
「馬鹿言え、今の王国の腐敗をミルドレッド様が許す訳ねーよ。俺たちもちっせえ頃は真面目にしてりゃ騎士になって、いずれは聖騎士になれると思ってたのによ」
「聖騎士? 聖騎士はミルドレッド様だけじゃないの?」
「いーや違う。ミルドレッド様が去った後、共に戦った7人の騎士が聖騎士になったんだ。その7家が王国を支え、その子孫たちがセブンスターとして今も残ってるって訳よ」
「けどよ、そのセブンスターも時が経って腐敗しちまってな。100年も経つと癒着や身分制度が厳しくなってな、今や騎士になれるのも貴族の子息かそのお気に入りだけだ。あとはほんのひと握りの実力者かだな」
「なぁアンジェ、アンジェのお父さんがジェーダン様なら、なんで100年も前の英雄がまだあんなに元気なんだ」
話に付いて来れずに黙っていたアルトだったが、ようやく違和感を覚えた質問を投げてくる。
「それがね、お父さんとお風呂入ってた時に聞かせてもらった話なんだけど。お父さんは半分獣人の血が入ってるみたいなの。その証拠って言う紋章みたいなのも、背中にあって見せてもらったの。神様が決めた事でね、違う種族で混ざった者の子には呪いが掛けられて、紋章と成長速度が遅くなるんだって」
「そんな話聞いた事ないよ。だって人と獣人はずっと仲が悪いし、人は一方的な侵略で獣人との交流は全く無いって」
「100年以上も前の話だし、その時の事は分からないよアルト。それより、2人は何で100年も前なのにジェーダン様が生きてるって信じてたの?」
まだ納得してないと頭を抱えるアルトの頭を撫で、次に何の疑問も持たずに100年も前の英雄を信じていた2人に聞く。
「いや、だって神と戦った英雄だしな」
「おう、英雄なら100年生きるんじゃねぇの?」
あまりの純粋な考えに可笑しくなって笑ってしまったアンジュにつられ、2人も笑いだして何となく和やかな雰囲気に変わっていた。
笑いも納まって来た所で馬車が止まり、またしばらくして動き出す。
「もう着いたか、いつもより早かったななんか」
「あぁ、最初は生意気に睨んできやがるから1発くらいと思ってたけどよ」
「じゃあ俺らはここまでだな。後は騎士様の仕事だ」




