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1.4.2  作者: 雨宮祜ヰ
36/52

ひしめく思惑③

「はァァァ!」


「ふンッ!」


 両者の剣がぶつかる度に光が弾け、同時に空気を叩く鈍い轟音が響き渡る。覚醒したアンジェとヴィルゴが剣を突き合わせ、攻城戦が再開された城壁の上で一騎討ちをすると言う、異質な光景を生み出している。


「思ったより敵が減っていませんねゲルダ様」


「あぁ。あの大男が守ったんだろう。全て捻り潰したかに見えたが、実際は2000いったかどうかだ」


「対してこちらは既に800は減っています。副将のイレイナも戦闘不能となり、貴女様も余力は残っていない。時間の問題ですね、この兵力差は」


「それは違うな。この戦場は私以外の2人の魔法使いに賭かっている。アンジェ、そしてこちらに向かっているガゼル。最悪アンジェが倒れても、ガゼルさえ間に合えば巻き返せる」


「勇者では勝てませんよあのヴィルゴと言う男。見れば分かりますが、圧倒的に力負けしております」


「信じて待つしかない。私もやれる事を最後までやるつもりだ」


 熱を増して続ける喧騒の中、最後方の(やぐら)から2つの戦場を見渡す2人は、実に呑気に遠くの安全地帯からアンジェとヴィルゴがぶつかっている城壁の上に目をやる。


「いっったた……何でそんなに力強いの」


 剣がぶつかる度に地力の差で劣るアンジェが吹き飛ばされ、転がってはまた立ち向かってを繰り返していた。次第にボロボロになって剣から光が薄れ、足もガタガタと震えだしていた。


「でも、負けるかァァァ!」


「るァァァァァァァ!」


 昔ジェーダンに言われた事を思い出し、アンジェは大きな声で叫ぶ。少し遅れて少し遠くからも同じように雄叫びが返って来て、それがアルトのものだとすぐに分かった。


「どーしようもないと思ったらまずはお腹の底から叫ぶ。そしたら不安とか、弱気まで全部吹き飛ぶ」


「古き英雄の教えか。下らんな、日々積み上げた強さは変わらんと言うものを」


 言葉通り破裂音を響かせながら軽々と大剣でアンジェの小さな剣を防ぎ切り、力の差を見せるように軽く撫で切るだけで弾き飛ばす。地面を何度も跳ねて転がる小さな少女はまだ立ち上がり、受身をとった時に擦り切れて血が出る左腕を一瞥する。

 犬歯を剥き出しにして笑みを浮かべながら駆け出したアンジェの一撃を、初めて剣で受け止めずに足の位置を変えてかわす。


 思い切り叩きつける気で飛び出した体が放り出されて前のめりに転び、唐突に見えた違う景色を必死に理解して振り返ったが、半端な体勢で振り切った剣が空高く弾き飛ばされ首に刃が添えられる。


「その眼に、かつての皇帝と同じ炎を見た。勇者と称された者では持て余すだろう」


「力はあればある程良い。持て余す力なんて、そんなの自分のものじゃない!」


「そうだ、それはお前の力ではない」


「私の中にあるなら私のもの、お前は口出しするな!」


 闘志を燃やせば燃やすほど、体が悲鳴を上げればあげるほど、求めれば求める想いの重さだけ吹き上がる力で加速を続ける猛攻に大剣が砕け、怒涛の執念を見せた一撃が遂にヴィルゴに届く。

 大きく揺らいだ巨体が膝を着き、遠くのゲルダは小さく拳を握ってよしと呟く。


「どーだ、これが私の力」


 大きく肩で息を荒らげるアンジェは呼吸を整えようともせずにヴィルゴに言い放つが、重い一撃を受けたはずのヴィルゴは平然と立ち上がって立ち去ろうと背を向ける。


「は? 逃げるな!」


 目前の勝利への執念に弾かれるように飛び出したアンジェを容易く地面に叩き伏せ、名残惜しそうに拳を振り上げ、砂塵を巻き起こしながら何度も叩きつける。


「逃げ足だけは相変わらず早いものだ。まだ戦場に戻って来る気概があったか」


 潰れたデコイを放り投げて城壁の上を自分から遠ざかって行く背中を見つめ、今度こそ膠着状態の最前線へと戻る。


──────────


「ぎりぎり助けられて良かったです。それにしても、この子があの男を相手にここまでしてしまうなんて」


 動かなくなった虫の息のアンジェを抱えて城壁から飛び降り、地面に着地する寸前にしまっていた翼を広げてふわりと降り立ち、そのまま走り出して戦場から遠く離れる。

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