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1.4.2  作者: 雨宮祜ヰ
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ひしめく思惑②

 ゲヘナ軍と衝突を繰り返すこと3度。既に2つの砦を早々と落としていたウォルフ隊の快進撃の中心に、突如最前線に出たウォルフ本人が居た。その戦う様を近くで嫌でも見させられたジュリスも、感化されるように多くの戦果を上げていた。


「あの人間生意気だな」


「生意気だけどよ、武功は頭に続く2番だとよ」


「さっき敵指揮官をやってたからまた1歩近づいてたぜ」


「ミアハもなかなかだろ。あのガキの道開いたり、味方が危ないとこの敵将をここぞって時にやってんのはあの嬢ちゃんだ」


「他人の戦果ばかり言い合って情けないと思わないのかいあんたら」


 まるで他人事のように言う様が気に食わなかったのか、一際目立つ金色の髪の獣人が話に割って入る。


「そうは言ってもよ姐さん、あれ見ただろ」


「そうだぜ、あいつ人間のくせに俺たちくらいパワーあるぜ」


「一気に敵を5人ぶっ飛ばしてよ、俺たち以上かもだしよ」


「ならお前たちは6人ぶっ飛ばしてみな。それくらいの努力、生きるか死ぬかを分ける場で惜しむんじゃないよ」


「じゃあ今から戦おーぜ姐さん!」


 右手の拳を左の掌にぶつけて鈍い音を鳴らし、姐さんと呼ばれるアマダは嬉しそうに笑う。


「ミアハ! ジュリスを呼んでこっち来な!」


「アマダさん! 呼んでくるので少し待っててください!」


 遠くで後ろから聞こえてきた声に耳をピピッと反応させ、ぱっと難しそうな顔から笑顔に変え、手を振ってからジュリスの居るだろう場所へと駆け出す。


「最後に残ったやつが次の戦いで敵将とやり合う権利を得る。負けたヤツは徹底的にサポートだよ!」


「俺が勝つ!」


「びびってたんならやめとけよ」


「お前だってびびってんだろーがよォ」


「っしゃまず誰だ! あんたか、それともあんたか!」


 強靭な脚力を誇る獣人であるミアハが遅れて到着するほどの足でアマダの前に現れたジュリスは、牽制を始めた獣人たちに詰め寄りながら聞いて周り、最終的に真ん中に立って槍を脇に抱える。


「どうせ倒すんだ、やろうぜアマダさん!」


「へぇ、言うじゃないかジュリス。うちのバカ共よりよっぽど根性あるよ」


「俺たちもそう言おうと思ってたんだけどよ、なぁ?」


「間違いない。けどよ、そんなに戦いたいんなら譲ってやるのが先輩だよな!」


「違いねぇ! 今回は譲ってやるんだから、戦場ではひとつ譲れよバカやろー!」


「あざっす先輩! 行くぜアマダさん!」


「ったく、揃いも揃ってバカばっかだね。特にあんただよジュリス、バカに加減はしないよ」


「してみろよ! そんときは1発でぶっ飛ばしてやる」


 珍しく槍を持ったジュリスを見て楽しみに笑ったアマダは人の姿のまま、なぜか構えもせずに突っ立っている。

 不気味に思いながら深く踏み込んだジュリスに合わせて飛び出し、挙動を目で追えていないジュリスの顔を鷲掴みにして地面に叩き落とす。


「ってぇ!」


「今ので感想言えるなんて、相当石頭だね」


「油断した……まじやらかした」


「次は殺すよ、私相手に気抜いてんじゃないよ」


「そうよジュリス! アマダさんはママより強いんだから気を付けなさいよ」


「誰より強いとか知ったこっちゃねぇ! 俺より強いか弱いかだ」


 威勢が削がれていないのを見て無関心から好奇心に変わった笑みをこぼし、再び先手をとって構え直したジュリスに肉薄する。

 鋭い爪の連打を器用に柄でやり過ごすが、槍の長さが仇となって反撃がままならない。


「クソッ、やっぱこっちか!」


 苦し紛れに抜いた剣を振り抜いてアマダを飛び退かせ、槍をミアハに投げて今度は剣で勝負をする。


「俺は英雄になるんだ。こんな所で負けられっか!」


「英雄かい。そりゃ叶わなそうな良い夢だね」


「うっせぇ! 叶えるんだよ、アンジェを探してシスターの所に帰るんだ」


「女の為、ことさら英雄にはなれないよ」


「さっきからなれねえ叶わねえ好き放題言いやがって。俺はなるんだ、そのために毎日剣を握ってた」


「私らは毎日命掛けて狩りをしてた、人間の騎士は良い環境で毎日剣を振ってる。それに対して何も無いあんたらに、この差は埋められるのかい?」


「時間とか環境とか関係ねぇ! 俺は剣があれば最強だ!」


「なら英雄になるだなんて慣れない槍持って息巻いてないで、その立派な剣で証明し続けな。そしたらいつの間にか英雄になってるもんさ」


「──見逃すなよ!」


 目を覚ましたかのように今までと違った型にハマらない動きを始め、次々に予測不能な連撃を見せるが、不気味なほど全て見切られてかわされる。くるくると回って蹴りを繰り出したりする異質な戦い方だが、そのひとつひとつに素晴らしい反応と対応を見せるアマダがリズムを変えると、攻めているはずのジュリスが何故か焦りを感じ始める。


 振っているのか振らされているのか分からない感覚が何度か頭をよぎる事が、少しずつ違和感として多く感じるようになってきた。

 一旦離れて探るように全体を見渡すジュリスに対し、アマダは余裕の笑みを持って返す。


「よしっ。やれる」


 それほど腰を落とさずに突っ込んで来るのに少し考えてしまったアマダは、今までで行っていた無意識に剣を振らせる誘導をする事が出来ず、更に突然目に飛び込んで来た土に目を瞑ってしまう。


「ァああッ!」


「っしゃぁ! 取ったァァァ!」


 上手くハマった目潰し作戦で嬉々として剣を振り下ろして終わろうとしたジュリスが、何故か大きく上空に吹き飛ばされてミアハに受け止められる。


「こいつ、野盗と変わらないね」


「それでもアマダさんに眼を使わせたのは本物ですよ」


 右目を隠すふわふわの前髪を手でパパっと整え、気を失ったジュリスを抱えるミアハに見るなと言わんばかりに羽織っていた布を投げる。


「次はどいつだい? このチビより楽しませてくれるんだろうね」


 今の光景を見た後に前に出られる者などひとりも居らず、気を失ったジュリスを抱えるミアハも、渋々腕の中で呑気に眠るジュリスを天幕に運ぶ。

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