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1.4.2  作者: 雨宮祜ヰ
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ひしめく思惑

 もぬけの殻になっていた王城を無傷で掠め取ったウォルフ隊が入城してから半日後、後を追っていたベルベット率いる本隊が到着する。奪い取った玉座に座ってベルベットを迎えたウォルフは立ち上がらず、そのまま狼の女王と対面する。


「話は聞いたぞウォルフ。行儀は悪いが確実にそれを成す。お前に任せて正解だったな」


「当たり前だろ(ろう)(おう)


「苦労して部族に吸収した甲斐があった」


「んな事より、だ。この城俺らにくれよ」


 いつにも増して怪しげな雰囲気のウォルフが玉座を頑なに明け渡さなかったのはこの為かと、ベルベットは顔にこそ出さなかったが、心の中ではその要求と真意を汲み取れずに居た。誰かこの馬鹿に何か言ってやれよと少しだけ待ってみるが、治外法権のようなウォルフ隊に誰も何も言うはずもなかった。


「周りの砦で1番の物なら考えてやる」


「いーや、俺はここに決めた」


「おいウォルフ、お前たちには略奪と陵辱を許す代わりに……」


「雑魚は黙ってろよ、俺は狼王と話してんだろ」


「俺はこの軍の軍師だ、締める所は締める。女王がお前に特権を与えるように、俺にも統制と言う特権が与えられてる」


「おいガキ、そっちじゃお前が軍師か知らねーけどよ。俺らは最小限の被害で王都を手に入れてんだ、お前の特権で城が取れるのかよ」


 お互いの参謀が主君よりも前に出ると言う異質な空間だが、この場に割って入れる程気概と地位のある者が不在な為、味方同士にも関わらず、一触即発の状況に皆が固唾を飲んで祈っていた。ただ1人を除いて。


「何だよこの空気、ベルベットが駄目って言うなら駄目だろ。そんな事より次はどこ攻めんだよ、俺は何もしてないから早く武功を上げたいんだ、早く決めてくれねーと時間がもったいないだろ」


「ちょちょ、ちょっと何してんのよばか。こんなの行ける雰囲気じゃないでしょ、戻りなさいよ」


 何も考えていないジュリスを引き戻そうとミアハが慌てて出てくるが、より一層凍り付いた場の中で重い腰を上げた者がいた。


「良いだろう、ここはお前に任せる。だが兵がどれだけ減っても補充はしない、お前だけの兵で死守しろ。それと、お前にはティメリア攻めで手薄になったゲヘナの半分まで侵攻してもらう」


「正気か狼王。俺らだけなら500しか居ない、お前から預かった1500が抜けなくてもギリギリだ」


「おいおいジャレン、笑わせるな。また無傷で掠め取れば良いだろ。私のアルダンでは出来ないと啖呵をきった以上してもらう」


「クソッ、頭! 最初から城なんて渡す気がねぇこいつ!」


「良いぜ。そのガキをくれるんならな」


 ジュリスを指差すウォルフは相変わらずの不気味な笑みでベルベットを試すように見つめ、鋭い目付きになった観察対象の返事を待つ。顔を見るに答えは決まっているようだが、何かを決めあぐねて黙っている。

 たった1人を引き渡すだけで国ひとつともう半分が手に入るチャンスを、ベルベットが逃すはずがないと長年覇を競ったウォルフは分かりきっていた。


「そうだな、それはこれ以上無いカードだ」


「このチャンスをお前は見逃さねぇ。ガキ1人渡しゃ良いなんて、破格だろ」


「確かに破格だこのクソたわけが。お前はジュリスの重要さを分かってない、お前だけでなく皆がな」


「あぁ? もしかしてお前の愛玩用だったりすんのかよ」


「ジェーダンが最後に育てた子どもだ。お前が手も足も出なかったあの男のな」


 おもむろに怪訝な顔をして立ち上がったと思うと、訳が分からず腕を組んで立っていたジュリスを睨み付けて舌打ちをし、わざわざジュリスを突き飛ばしてベルベットの横を通り過ぎる。


「しらけちまった。城はいらねぇ、行くぞお前ら」


「行くってどこへですか頭!」


「せっかく取ったこの城はどうするんすか!」


 入口を固めていた部下を掻き分けて出て行くウォルフに、城が手に入ると思っていたウォルフ隊は戸惑いの声を上げる。


「決まってんだろ、今度はゲヘナをぶんどってその次もまた次もぶんどる。そうすりゃ俺らに文句なんて誰も言えねぇだろ」


 去っていく大きな背中を見送っていたベルベットに振り返り、ウォルフは宣言をするように言う。


「あぁ、もちろんだ」


「さっさと来いガキ。お前は死にやすいように常に最前列に出す」


「俺は死なないけど、その言葉を待ってた! じゃあ行ってくるミアハ、ベルベット」


「待ちなさいよ、あんた1人じゃ足でまといだから私も行くわ。良いでしょママ?」


 微笑んで頷いたベルベットを見てとびきりの笑顔を返したミアハも見送る狼王の隣に、頭を掻きながらアルダンが並ぶ。


「良いのかよ行かせて、あんな大切にしてたのによ」


「今の若者はほとんどが森から出たことがないんだ、だから広い世界を見てほしい。そしたら城から脱走なんてしなくなるだろ」


 冗談混じりに上手くかわしたベルベットの歩いてく背中が、いつもより寂しそうに感じたのは、アルダンの気のせいではないはずだと、周りに居た誰もが感じていた。

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