第2の心臓⑥
凄まじい轟音と怒号が飛び交う城壁の上、全身から汗が噴き出す逼迫した状況下で、先頭に立って味方を鼓舞する小さな影が奮戦していた。
「ここを抜かれるな!ハシゴから登ってくる敵を叩き落とせ!」
「左側が押されてるぞ! 右からもっと回せ!」
「真ん中も足りてない! とにかく敵の流れが止まらない、誰かどうにかしろ!」
途切れることなく次々と城壁を登り続けてくる敵に、ティメリア兵は徐々に押し込まれ始めていた。当然ここを抜かせる訳にはいかない兵士たちの踏ん張りは凄まじいが、数の差を覆すほどのものではなかった。
「どうしよ、徐々に押され始めてる」
「くそ、離れるなよアンジェ!」
背中を合わせて立ち回るアンジェとアルトは最前線で大きな働きを見せているが、これも戦局を変える一手とは到底言い難いものだった。
「腕が痺れてきた、力も入り辛い」
「泣き言言わないでアルト! こっちの力まで抜けそう!」
「そうは言っても、この状況で戦い続けても限界は近いだろ!」
「そんなの分かってる! でも今はこれが最善でしょ!」
既に7回目となる剣の破損にうんざりし始めていたアルトは、切り伏せた敵から剣を奪いながら弱音をこぼしていた。ジェーダンの剣は斬れ味が色褪せないが、その扱い辛さにアンジェも苛立ちを現し始めていた。
どれだけ鍛えていようが、とにかく少女の細腕で振るうには重過ぎる上に、振るう最中に勝手に加速するため、振り回され続けながら剣を振るうしかなかった。
「ダレるな新兵ども!」
ここを通せば周囲の村や街が蹂躙される事を分かっていても、向かっている途中既に2つの砦が落とされているビハインドと、その拠点を経由して次々と敵が送られて来ている現状に気力が尽きかけていた。その中で端から端へと敵を薙ぎ倒しながら声を上げて回るのは、代々ブロッケンに仕えるクルス家の長女だった。兄が家督を継いで自由の身になり、憧れていたゲルダの元に来たと、防衛戦が始まる前に嬉々として話していのを遠目で聞いた。
「私が押し返す! お前たちは立て直す用意だ!」
「すごいなあれ、さすが副将だな」
「着いて来いアンジェリーク、アルト!」
「え、はい!」
「分かった!」
面識も無いのに唐突に呼ばれてその場から前に進む2人を待たずに進む背中を追うが、広がり続ける差に揃って苦笑するしかなかった。
「あの人ひとりなのになんであんなに早いの!」
「分からないけど、なんか早いな!」
学のない2人の乏しい表現力じゃ描き切れと言う方が無理な話だが、それを抜きにしても周りには理解し難い速度で突き進んで行くのも確かだった。依然として立ち塞がる敵を前に苦戦を続けていた2人の横から槍が差し込まれると、瞬く間にひと突きふた突きと同時に敵が吹き飛ぶ。
「当たり前だ! イレイナ様は立つと同時に剣を握られ、毎日どんな日でも剣を振り続けてきたんだからな!」
偉そうに語る同年代の見た目の青年に、2人は何故か腹が立ってきた。アンジェとアルトは向き合って同時に頷き、必要最低限の進路を確保する一点突破のスタイルで進み始める。
2人で競うようにどちらが先に敵を斬れるかのような動きが功を奏したのか、広がり続けていた差が徐々に縮まり始める。
「これだアンジェ!」
「一点突破で連携、でもそれだけじゃ勿体ない気がする」
「なら、どうすりゃいいんだよ!」
「そんなの分からない! 怒鳴らないでよ!」
「俺たちにも魔法があれば……」
「魔法は……あるにはあるけど」
「──じゃあそれを……」
「──お父さんが私とジュリスには使うなって!」
言い争いを始めた2人の前方から轟音が鳴り響くと同時に空から岩が降り注ぎ、城壁の上で戦っていたティメリア兵を大量にすり潰す。それと同時に城壁も削られ始め、ティメリア第2の心臓とまで言われる国門の砦が落ちようとしていた。
「やっぱり魔法使いを隠していたな」
「ゲルダさん!?」
ようやくと言った様子で降って来る岩を見上げていた2人の肩に手を置き、左手の指で砦のすぐ隣にある山を指さす。
「タロス!」




